序章 1
初投稿作品です。
不慣れな点があるとは思いますが、徐々に慣れていこうと思います。
文章中の誤字脱字、時系列の崩壊、おかしい部分がありましたら遠慮なくおっしゃってください。
著者は高校3年生ですが、年齢に見合った文章を書く自信は全くありません。
少しずつ、いろいろな文章を読んでスキルアップしていきたいので、おすすめの文典などありましたら、ご教授いただければ幸いに思います。
小説の感想などをコメントしていただけると、本当にうれしいので、どんなことでも構いませんコメントしてみてください!
受験生ですので、投稿速度が安定しないかもしれませんが、気長にお待ちいただければありがたいです。
ジャンルはファンタジーとしていますが、ちょっと違うかもしれません。合うジャンルが見つかりませんでした。
よろしくお願いします。
序章 2042/12/30 Tue
真冬のツンとした寒さが、風に乗って体を冷やす。師走の夜は特に冷え込む。そして今日、18年間続いた少年の人生が終わろうとしている。少年の短い人生を思い返せば、思い出と呼べるような記憶はあまり無かった。両親は事故で死に、最愛の彼女は親友に寝取られ、苦汁をなめるような思いをしてきた。そんな人生とも今日でおさらばできると思うと、幸せな気分になれるほどだった。
少年が死に場所に選んだ場所は、高校の通学路に使用していた大きな橋で、よく彼女と一緒に自転車を押しながら一緒に帰った場所だ。彼女への告白も、2年前の師走の夜、同じ橋の上だった。唯一ともいえる幸せだった記憶の残る場所で、人生の最期を迎えられれば、少年も本望なのかもしれない。
自分より不幸な人間は沢山いるし、それに打ち勝って進んでいく人間がいることも知っていた。だが、少年は自分の置かれた環境に耐えることができなかった。自分は弱い人間だということが何より悔しかったが、それに打ち勝つ気力ももう残ってはいない。
少年はゆっくりと橋の手すりに足を掛け、歩道の反対側に片足をつけた。もう片方の足を上げた時に、横から男の声がした。
「おいおい、そんな若さで自殺とはもったいねーな」
平日の午前2時、人通りも車通りも全くなかった中で声を掛けられて、少年はびくっとした。しゃべり口調から少年は酔っ払いかと思った。
川の水面から男の方へ顔を向けると、そこには黒いスーツに身を包んだ40代くらいの男が立っていた。冬の夜空と同じくらいに黒く短い髪と、力強い目をした男だった。その風貌から、とても酔っ払いのようなイメージはなかった。
「あんた誰だよ。俺を止めてどうすんだ」
少年は男にぶつけるように言った。
「止めるつもりはないよ。お前さんがいつどこで死のうがまったく興味ないしな。ただこの橋で死なれちゃ困るってだけだ」
死の直前にいる少年には全く興味がないような口調で男は言った。
「うるさい!!お前に俺の何がわかる!俺はすべてを失ったんだ。親は事故で死んだし、彼女は親友に寝取られた。もう生きていたって何にもないんだよ!それにどこで死のうと勝手って言ったじゃないか!」
少年の目からは自然と涙がこぼれて、はるか下の川へと落ちていった。
「この橋はな、俺たちが作ったんだ。東京が沈んで日本中が絶望に襲われている中、生きる希望を捨てないで戦い続けた男たちが作ったんだ。お前はその生きる希望の上で死のうとしているんだ。それがどんなことだかお前にわかるか?」
男は力強くはっきりと言った。
「お前だって聞いたことはあるだろう。今から20年前、2022年の大晦日に起きたあの悲劇を」
強く響く男の言葉に、少年は心を奪われ始めた。
「光の球の神隠し…」
少年はボソッとつぶやいた。
「そうだ、世間一般でそう呼ばれている事件だ。あの日東京湾を中心に半径90kmのドーム状の光の壁が発生し、関東平野がすっぽり覆われてしまった。発生した映像を出張先の大阪で見た時は、本当に唖然としたよ。恋人も家族も友達もみんな東京にいたから、どうしていいかわからなかった。連絡もつかないし、日本中がパニックだった」
少年は鼻をすすった。男は話を続ける。
「ドームができたのが午後6時。そして何の変化もなく、中の状況もわからないまま時間だけが過ぎてった。そしてその6時間後の午前0時、悲劇が訪れた。突如ドームは消え、中にあったはずの関東平野がきれいさっぱりなくなっちまったんだ。かわりにそこには海が広がっていたんだから訳が分かんなかったさ。同時に大切なものを全部あっという間に失った俺は、その時行き場のない怒りに襲われてたね」
男の話に聞き入っていた少年は、男に尋ねた。
「あんた、死にたくならなかったのか?」
男は当然のように答えた。
「そりゃなったに決まってるだろう?すべてを失なって生きている意味を奪われたようなもんなんだから。それでも俺は生きている。なんでかわかるかい?」
男は少年に尋ねた。
「知るかよそんなこと。大体知ったところで俺には関係ないよ。今ここで死ぬんだから」
少年は開き直ったように答えた。
「つれねーなおい。まあ死ぬ前に考えてみろよ。考えなくても死ぬなら、考えて死んだっていいだろ?ここでは死なせないけど」
少年は率直に「ほかに好きな女でもできたとか?」と答えた。その瞬間男は大笑いした。
「お前面白い奴だな!そんな答えが返ってくるとは全く予想していなかったぞ。こんなところで死ぬにはもったいない奴だ」
そう言った瞬間の少年の表情の変化を男は見逃さなかった。
「誰かに必要とされたからだ。俺の場合東京にいた親父がドームのせいでいなくなって、会社がどうしようもなくなった時に、唯一生存が確認できた親父の肉親の俺が会社の指揮を執ることになってたんだ。だけど、俺はその時深い悲しみに飲み込まれてたし、俺しかできないことは知ってたけどやる気なんて全くなかった。速攻でその話は断ったし、とっととその辺に飛び降りて死んじまおうと腹くくってたんだ。だけどな、社員の中には俺と同じように家族や大事な人を失って絶望していた人も大勢いた。そんな中でその人たちが全員で俺に助けを求めてきたんだ。年下の俺に、「お願いだ、あんたがいないと日本は終わってしまう」って。絶望して何も考えたくないだろう時にだぞ。俺は心打たれたよ。だから今も俺はこうやって生きてる。人間の力に感動して生きてるんだ。人間はこんなに強くあるんだって。俺がこんなに情けなくっちゃだめだってね」
満足げに話す男に、少年は不満そうに聞いた。
「その話のどこに俺を止める要素があるんだよ。長話に付きあわせやがって、道連れにするぞ!」
少年は逆上した。
「おお、怖い怖い!そんな眼もできるじゃないか。お前を止める要素、それは顔だよ。格好の問題じゃないぜ?俺がさっきお前のことを死ぬのはもったいない奴だと言った時のお前の顔だよ。誰かに必要とされれば、いいなお前って言ってもらえれば誰だって嬉しいもんだ。お前もまだそうやって思えているんなら、まだ人間やめちゃもったいないぜ。そんな危なっかしいとこにいないで、こっち側に戻ってこいよ」
そういうと男は持っていた仕事鞄をその場に放って、少年のもとへ歩み寄った。そして、男は少年に手を伸ばした。少年は男の手を取り、歩道側に戻ってきた。しっかりと両の足で地面を踏みしめた時、少年の目には大粒の涙があふれていた。
「俺まだ死にたくねーよ……やりたいことだってたくさんあるよ……」
そういうと少年はその場に泣き崩れた。男が少年と同じ目線にしようとしゃがんだ。
「生きろ少年!生きていれば可能性は無限に広がるのだから!お前の命は1つだけ。今までの経験も記憶も何もかも、お前だけに所有が許されたかけがえのない物なんだ。簡単に捨てちゃいけない。死んだら後悔すらさせてもらえないんだからな!!」
少年は泣きながらうなずき続ける。
「行くところがないなら俺のとこへ来い!お前と生きる意味を探そうじゃないか!」
少年は男に支えられながら立ち上がった。
「あんた…いや、おっさん名前は?」
少年は鼻を赤くし、口で白い息を吐きながら言った。
「おっさんとは失礼な。俺はまだ42だぜ?名前は新田空前。新田重工って言う会社で一応社長をやってるんだ。お前の名前は?」
少年は空前の顔を見て驚いた表情で言った。
「新田重工って…この東京島作った会社じゃんか!ウソだろおっさん!俺の名前は相馬栄治っていうんだ。栄えて治めると書いて栄治」
空前は白い歯を見せてニッと笑った。
「栄治か!いい名前じゃないか。ほれ、これが社長の証拠だ。と言ってももうすぐ用済みになるけどな。それとおっさんて呼ぶのはやめろ」
そういって空前は名刺を取り出した。
「マジじゃねーか!おっさんすげーぜ」
栄治は興味津々に名刺を見る。おもちゃを買い与えられた子供のように。
「おっさんはやめろって言っただろ!そんなに欲しければ、それやるよ。俺はもう使わないしな」
空前は少し照れくさそうに言った。
「いらねーなら捨てればいいじゃん、ほれ」
さっきまで宝物のように見ていたその名刺を、栄治は川に捨てた。
「使わねー名刺なんて持っててもしょうがねーだろ?」
「なんてことするんだ…でもまあ、栄治の言うとおりだな。もういらん」
2人は顔を合わせて笑った。人気も気にせず笑った。
「おっさんこれから何すんの?無職ってわけじゃないだろ?」
「そのことについて栄治に話があるんだ。これから一緒に来てもらえないか?詳細は途中で話す。まさかこんなことになるとは思ってなかったからな、寄り道はしてみるもんだ。栄治にはこの世界の真実を話しておいたほうがよさそうだしな。これから時間大丈夫か?」
急に神妙な顔になった空前に栄治が答える。
「別に1人暮らしだし、学校は冬休みだから問題ねーけど、世界の真実とかって何なの?そんな中二病みたいな話すんの?」
今度は逆に栄治が質問する。
「中二病か…懐かしい言葉を知ってるんだな!詳しいことは車の中で話す。それでいいか?」
空前は放った鞄を拾いに戻ると、栄治が「わかった」と答えついてきた。
空前が鞄を拾いながら歩くと、鞄から1枚の紙が落ちた。栄治がその紙を見ると、そこには『特務機関【風雷】増魂機関開発中間報告』と書かれていた。あのおっさん頭大丈夫かと思いながら、仕方なくついていくことにした。師走の空はうっすらと青く染まっていった。
世界は確実に終わりへと進んでいく。真実を知る人間は、神に与えられた試練に挑む権利を得た。それを知って行動に移すか、諦めるかは人間次第。