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玉鬘6

「それからすぐに惟光に命じて屍骸をわからぬように鳥辺野へ運び娘を

乳母夫婦に任せて筑紫へと帰させた。侍女の右近はその時わしがあずかった」


「年頃になって強引に私に言い寄るものがおりまして命からがら京へ逃げて

まいりました。まずは初瀬の観音様へ、そこで右近様と」


「不思議な縁じゃのう。後でわかったことじゃが六条の御息所が芥子の煙に

祈祷をしておる時ふとうたたうつろいて葵上や夕顔にとりついたとのことじゃった」

「どうしてそれを?」


「嵯峨野の野々宮で伊勢へ下るという御息所や娘の齋宮とわしとの別れの時に

全てを話されたのじゃ」


「物の怪に母は死んだのですね、よくわかりました。父上は母をたいそう愛して

おられた、それで十分です」


老いたる源氏はやっと心落ち着いて最後の瓜を口にしました。

玉鬘は打掛を外し絹上敷きににじり寄って、

「最後にもう一つだけ」


「ふむ」

「なぜ私の父が内大臣だと分かったのですか?」


「ふむ、それは十七の頃、内大臣が頭の中将だったころに梅雨の長い雨の

夜の泊りの時に馬の守や藤式部丞も加わってどんな女が一番素晴らしいか

という話になった。その時に頭の中将、お前の父が自分の悲恋を話した」


日は西に傾き風鈴の音も止んで涼しい風がわたってきます。

玉鬘は黙って聞き入っています。


「子どもまでできながら正妻の嫉妬にあって行方不明になった中品の女御

の話じゃった。やさしく素直でしっとりと寄り添ってくる優美な女御」


「あ、わかりました。父君も直感ですぐに分かったのですね?」

「そのとおりじゃ。お前は死んだ兄君によう似ておる。間違いなかったわ」

「よくわかりました。もうお疲れでしょう。父上今日はこれで許してあげます」


玉鬘は帰り支度を始めます。老いたる源氏も立ち上がり、玉鬘が寄り添い

腕を支えます。ゆっくりと木履を履いて老いたる源氏は惟光にも支えられて

庵の外に立ちます。


「あっという間の人生じゃったが皆には本当に感謝している。また、迷惑を

かけてほんとにすまなんだ。くれぐれもよろしくお伝えください」

「わかりました。くれぐれもよろしくとお伝えします、ふふふふ」


最愛の養女にきつく抱き支えられて老いたる源氏は空に向かって微笑みました。

『わしはほんとに幸せやった』

心の底からそう思っているようでした。


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