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玉鬘1

嵯峨野の夏はとても暑い。それでも都の中心よりは2度ほど

低いのです。木陰も多く結構風もわたります。蝉しぐれに風鈴

の音鳴りやまぬ朝、玉鬘が源氏の庵にやってきました。


いつものように読経の音が聞こえます。庵の入り口に惟光が

天秤桶を担いでやってきました。お市が駆け寄ります。


「鮎じゃよ、あゆ」

「まあそれは結構なこと」

「大堰の堤で分けてもろうた」


二人がアユを眺めていると向こうにきらびやかな牛車が見えてきました。

二人は立ち上がり手をかざして見届けます。

源氏の庵は少し小高い所にあるのではるか遠くまで見下ろせるのです。


「あの藤糸毛車は玉鬘様じゃろうて」

「あの子だくさんの?」

「どうもお一人のようじゃで」

「このアユをさっそく塩焼きに」

「柚子も忘れんようにな。はよはよ」


二人は急ぎ、二つの重い桶を庵の中に担ぎ入れます。

「雲隠様、玉鬘さまがお見えのようでございます」


老いたる源氏は読経をやめて、

「ふむ、ひさしぶりじゃなあ。五人の子持ちにはなっても

美しいことじゃろうのう」


山吹色の小袿こうちぎ、蝙蝠扇を手に玉鬘が入ってきました。

ぷんといい香りが辺り一帯にに広がります。


「お父上、おひさしゅうご機嫌いかがでござりまするか?

黄皮の瓜をお持ちしました」

「おお玉鬘、よき香りじゃのう。美しさが目に浮かぶ」

源氏は板敷の上に胡坐をかいて座っている。

惟光が侍従から四個の瓜を受け取り手桶に移します。


玉鬘は単衣の裾を手折りながら絹上敷きににじり寄ってきます。

「ふむ、よき香りじゃ。これは?」

「老栴檀にございます」


「ふん、なまめかしい匂いじゃ」

「父上こそ、出家なさってからは何の香りも致しません。

まるで蝉の抜け殻ようでございますよ」

「空蝉か!わっはっはっはは」


鮎を焼くにおいが漂ってくる。

「ああ、よい匂いじゃ」

「それは魚を焼く臭いでございます」

「そうか。すぐに粥が出てくる。これはうまいぞ。

そういえば花散里はどうしておる?」


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