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少年の日常

 午前7:30 朝


「カズく~ん、早くおきないと学校に遅刻しちゃうわよ」

 誰かの声が聞こえた、その言葉で黒髪の少年は目を覚ます。

 中性的な顔立ち、わずかに天然がかった黒い髪は、彼の眉の辺まで適度に伸びている。

「う~ん……」

 そこはゲームやマンガ、雑誌などが散乱している部屋だった。彼は身支度を整えると怠そうな目で自宅の階段を降りていく。

「おはようカズ君、朝ご飯できてるわよ」

 と声のする方向には一人の女性が朝食の後かたずけをしながら立っていた。

 透き通る様なつややかな肌、母性に満ちた女神の様な容姿、栗色の長い髪を紐かなにかでくくっている。とても四十代近いとわ彼女をよく知る人にしか分からないだろう。

女性の名前は、《進藤 めぐみ》和也の母で今は専業主婦をしている。そして容姿とは裏腹に三十路だと言う事にだれもきずかないだろう。

「サンキューお袋、今日も俺食堂か何かですますから弁当は作らなくていいから」

「あら? また、でも朝ご飯は食べていくわよね」

「え!? 今日はちょっと腹すいてなくて……」

「だめよカズ君昨日もそうだったじゃない、今日は食べていきなさい」

「いや、でも学校おくれちゃ……」

「朝ご飯たべる時間くらいあるでしょ」

 和也は仕方なく首を縦に振った。


午前8:00

 和也は激しい嘔吐感に見舞われていた。

「うぅ~お袋のやつ相変わらず殺人的な料理の不味さだな」

 和也は何時もの下校通路を渋々あるいていた、季節は春を迎えていた四月に入学式を迎え間もない和也にとってわまだ見慣れない風景が広がっていた。和也の家庭は両親の仕事の都合で各地を転々としていた、そして次の転勤先でここ”サイトシティー”にやってきたのだ。

 和也の家はサイトシティー郊外にある。郊外と言っても技術水準は平均より上でそれなりに発展した地域なのだが......

「何時見てもスゲーな、この町は」

 電子駆動式の電車にのりながら和也は町を見渡す。

 サイトシティーは機械と電気の大都市だ。かつて鉄筋コンクリートやら木材やらで住宅を作っていたらしいがもうそれは一般てきではない。十年前くらいに開発された超合金や強化プラスチックを建築技術に取り入れ、今では金属性で出来た建物や住宅が立ち並ぶ様になった。

 超金属は鉄筋コンクリート以上の強度、柔軟性、耐震性を持ち、それを強化プラスチックで覆う事により空気や雨などによる腐食を防ぐ事を可能にしている。サイトシティーの中央にそびえ立つ1000階建てのビル、『セントラルタワー』はそれらの技術を結集して作られた物だ。

 鍵なんて者は無く完全aiセキュリティー完備の家が今では当たり前だ。硬貨や紙幣はまだ使われているがそれはごくまれで、超小型化された携帯端末やicチップカードによる電子マネーでの買い物が殆どである。

 サイトシティーはオールドの住む町でニューマンといった人種は在籍していない、といゆうのもこの都市がニューマン否定派に属しているためだ。

 ニューマンが現れて十数年世界はニューマンは人類の進化した姿と考え崇める、『ニューマン肯定派』とニューマンを世界にできた異物として考え差別する、『ニューマン否定派』に大きく二分する事と成った。

 だが大きく二分しているが皆が皆ニューマンにそんな特別な考えを持っている訳ではない、どちらも変わらない人間と考える人も少なくないだろう。このサイトシティーもその考えで、世間的に否定派に属しているだけなのだ。

 ただこの町がニューマン否定派の総本山【旧人類プロト救世主メシア】の支配下にある事が大きな理由である。プロトメシアは全てオールドで構成された組織でオールド主義の代名詞になるほどのニューマン否定派の集団である。『ニューマンによるオールドへの被害を未然に防ぐ』と言う名目で設立されたが、それは建前でニューマンに対してかなり酷い弾圧を行っているらしい。

 だがそんな事は和也にとって身近なものではなかった。今、自分の目の前にあるごくごく当たり前な日常こそ和也の現実だった。

 すると和也の後ろから女性の声が聞こえた。

「おはよー♪ か~ず~や君♫」

 和也は声のする方に振り返り、面倒くさそうな表情で

「朝から元気だなヒカリ……」

 和也の振り返った先から少女が駆け寄ってくる、少女は桃色の髪を三つ編みで束ね、前髪を花模様の髪留めで止めている

「あら♪ 朝なのに元気が無いぞかずや君♬ さてわ朝ご飯食べてこなかったな♬」

「食べたよ、だから元気がねーの」

 《天野 ヒカリ》和也のクラスメイトで入学したばかり和也に最初に話しかけてきたのがヒカリであった。容姿もさることながら、その独自の明るい性格でクラスの男子から人気が高い。

「うーん?そうなんだ♪ だけどその不機嫌そうな顔は辞めなさい♬」

「いいなだよ俺はこれで」

「も~カズ君たら不良だよ♬」

「誰がカズ君だ!恥ずかしいからその呼び方やめろ」

「うぅカズ君が反抗期だわ(涙)♭、お母さん悲しい……♭」

「はぁ~」

 和也はため息をつく今日もヒカリのペースにのせられた気がした。


午後12時30分

 午前中の授業が終わり、生徒達は昼食のため弁当などを持参した食事をとる、しかし弁当を持ってきている生徒は少数派でほとんどの生徒は購買部や食堂に群がる。その様は正に軽い暴徒化したデモで、ものすごい数の生徒達が一同に購買部や食堂に会するのである。

和也もまたその多数派に属しているので(本当は毎日弁当を作ってくれるのだが、めぐみの料理が殺人的に不味いので作られるのを拒否しているため)食堂での食事がなによりの楽しみだった。

 授業が終わりるとすぐに和也は食堂へと駆け出した。

 今まで彼が見せた事の無い様な男らしい表情に成る。

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」

 絶叫、絶叫、絶叫!!昼休みのチャイムを会戦の合図として学年とわず様々なクラスから生徒が飛び出していく。和也は暴徒と化した集団の最前列のグループの中にいた。

(購買部は教室の近くにある分生徒達が群がる、それなら少し遠いが食堂の方が昼食を取れる確率が高い!!)

 和也は頭の中で馬鹿な考えを巡らしていた。だがそう考えたのは和也だけではなく他のクラスからも次々に生徒達が食堂へと駆け出していく。

「くそ!! 俺にとって唯一まともな食事をとれるチャンスなんだどきやがれ!!」

 和也は必死だった。そう彼にとって唯一この昼食こそめぐみの殺人料理を食べなくて良い時間。和也は戦場を駆けながら思い出していた彼女の作る料理の数々を。

 それは塩と砂糖を間違えるついうっかりのレベルを超えていた、鉄分が足りないから砂鉄を料理に混ぜたり、塩分が足りないからとプールの消毒剤を料理に混入された事もある、とにかく彼女の作る料理は常軌を逸していた。真っ黒に黒光りする液体を『クリームシチューができたわよ』というあたり彼女の料理に対する感覚は常人のレベルを遥かに凌駕していると和也は心の底から思った。

 だからこそ和也は走る、自分が生き残るため自分の中の飢えを沈めるために。

(頼む神よもし居るのならこの進藤和也に勝利を!!)

 和也は心の中で叫ぶ、しかしその微かな祈りも虚しく散った。

「ごめんね~もうもう作りたくても食材がないのよ」

 食堂の主からその言葉を聞くと和也は全身の力が抜けたように地面にひれ伏した。

(終わった……)

 絶望と脱力感で何もかも投げ出しそうになった和也の後ろから声が聞こえた。

「か~ずや君♫」

 和也が振り向くとそこにはヒカリが立っていた。

「なんだヒカリか……」

 和也がガッカリした様に答えると

「なんだとは酷い言われようじゃないか~♫ せっかく作りすぎたお弁当をかずや、君に分けてあげようと思ったのに♪」

「何処までもお供しますヒカリ様」

 和也は手の平を返した様な態度に成る。

「フフフ♪ 分かればよろしい付いてきたまえ和也隊員♫」

 というと二人は食堂を後にした。


 ヒカリに連れられ食堂を後にした和也は教室に帰るため廊下を歩いていた。

「全くかずや君は現金なんだから♪」

「しかたねーじゃん、腹が空いては戦はできぬともいうし」

「かずや君の場合、腹が空いて戦に行こうだと思うけど♪」

「なんだとこのやろ~、人を飢えた野獣みたいに」

「あれ? 褒めたつもりなんだけど♪ そんなに怒んないでよ♫」

 和也とヒカリのたわいもない会話が続いている中ヒカリが急に立ち止まり妙な事を口にした。

「ねぇーかずや君♩ 『神使教会イシュマル』って知ってる?」

「ん? どうしたんだよ急に”神の使いの教会”ぐらいなら知ってるぜ有名だもんな」

 『神使教会イシュマル』は”旧人類の救世主”と対立している組織でメンバーが全員ニューマンで構成されている。

なんでも『ニューマンこそ神に選ばれた存在であり旧人類は全てニューマンによって統治されるべきだ』という思想により設立されたイカレ集団と言われている。彼らの主な活動内容はニューマン否定派の組織、それに加担するする者への報復活動である。近年その活動は過激化していき、他のニューマン否定派の町で多くの死人が出たと聞いている。なんとまーおっかない話である。

「どうしたんだよ急にそんな事言い出して」

 今のヒカリの様子は彼女が普段見せる陽気な雰囲気とは一変して、暗くて重い物に成っていた。

「なんでもそのメンバーの一人がこの町に居るって噂だよ」

「なっ──!!」

 和也は驚きを隠せなかった、ゲームの中の世界が現実として現れたような気になった。

「うそ・・・嘘だろ、如何してそんなおっかない奴がこの町に」

「あくまでも噂だけど、この町にある何かを探しているらしいの」

「何か?何かって何だよ!?どうしてこんな所あんだ」

 良い知れぬ不安が和也の頭に過った、身近にいる誰かが傷ついてしまうのではないかという不安、様々な気持ちが和也の頭に交差する。そう思うほどに”神の使いの教会”が恐ろしい組織なのであるのだ。

「なーんて嘘よ♫ ビックリした♪」

「え? う…….そ?」

 和也の肩から力が抜けたさしずめ受験の終わった受験生である。

「”神の使いの教会”なんて言う怖ーい人たちがこの町に来る訳無いじゃん♪どう?ビックリした♫」

「お……驚かしてんじゃねー!!!」

「かずや君が余りにも良い顔でビビってるんで、ついいじめたくなっちゃった♪」

「テメーふざけんなよこっちは大真面目に考えちまったぞこのやろー」

「そんな事より早くしないと昼休み終わっちゃうよ♫」

「あ!! やべそうだったこんな事してる場合じゃねー」

 そう思うと和也はヒカリの後を追う様にクラスへと駆けていこうとする、その瞬間何者かの声が和也に囁きかけた。

『気よつけろ”神の使徒”はすぐ側まで迫っている......』

 誰かにすれ違い様にそう言われた様な気がした、背筋に凍る様な感覚を感じた和也はとっさに後ろを振り向いた、だが和也のそこには誰もいなかった。声の主らしき人を和也は確認する事はできなかった。ただ昼休みになり生徒達の声が廊下に木霊するだけである。

「かずや君早くしないと、お弁当全部食べちゃうよ~♫」

 ひかりの掛け声で我に返った和也は幻聴でも聞いたかの様な感覚でヒカリのあと追った。

 そんな和也達の様子を廊下の陰から黒髪の少女が伺っていた事に彼らは気ずいていなかった。少女は囁く。

「あれが進藤和也か、あいかわらず間抜けな奴だな……」

 そう言うと黒髪の少女は暗い廊下の奥へと消えていった。


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