本音の心
『早く来いよ!』
太一は、意地悪そうな笑みを浮かべ俺を呼んだ。
『わかったよ!』
渋々店に向かう。昨日の電話の件で、どうしても行く気にならない。太一に強引に引っ張られ向かった。
太一は、これから遊園地に行く小学生みたいな笑顔をしている。
それに比べて、俺は、別れる寸前のカップルみたいだ…。
何で、電話…出なかったんだろ…。ため息しかでない。
徐々に騒がしくなる街並み。この先、人通りの多い通りに出て左に曲がると、未来のいる店 White Care 。曲がりたくない…。
『ここら辺だったよな!たしか!』
楽しそうだな…。俺は、店に近づくにつれ青ざめていくのがわかる。
『と・お・ちゃ・く〜!』
ついてしまった…。
ガラス越しから店の中をそっと覗く…!はぁ!俺は、思わず驚いて尻餅をついてしまった。未来が、店の一番手前(通り沿い)の椅子で接客していたのだ。まだ、未来には気付かれてないようだ。
『あははは…。何やってんだ司!』
太一は、それを見て大爆笑!
店の外から大きな笑い声。気にしない方がおかしい。案の定、未来に見つかり、目が合ってしまった。
お互いに気まずそうな雰囲気。未来は、一瞬、表情が固まった。そして、口パクで“待ってて”って、そう告げて仕事に戻った。
ヤバいなぁ…。と思いながらも、その反面、流石にプロだなって、思ってしまった俺だった。
『司!あの子が未来ちゃんなん?』
太一は、未来の事を指差して聞いてきた。
『バカ!指差すんじゃねぇ!』
やっぱ、連れて来るんじゃなかった…。ココでも後悔する俺…。待っててって言ってる未来、なんだか真剣な顔してたな…。
店の中で、店長と話てる未来。どうやらカットだけやって違うスタッフとチェンジするらしい……って事は…!来たぁ!
太一も、その異様な空気を読んだのか、その場から少し離れた。
怖ぇ〜!
未来が来た。
『司君!ちょっと来て!』
未来は、真剣な表情で、司を店の裏に連れていった。太一を置き去りにして…。
ヤバいかな…。行っちゃっていいのかよぉ…。司は、この異様な空気に殺気すら感じさせる未来の背中を見ながら後をついていった。
太一は、司の背中を見て思った。“小せぇ!アイツは死んだな。”手を合わせて祈る太一。
人気のない店裏。そこで未来は急に怒り始めた。
『司君?私が何で怒ってるかわかる?』
何か、先生に怒られてる心境だな…。ココでハイハイ言っていいのか?男だろ!司!って、自分に言い聞かせるが……弱ぇ…。
『お怒りは、ごもっともです。』
ちょっとふざけて見たりして…。
『何で、ふざけてんの?連絡ないし!電話出ないし!司君家知らないし!心配したんだからね!』
未来は、本気で心配してくれてたんだ…。真面目に怒っていた。少し唇を震わせていた。こんな未来を見たら、ふざけた事は出来ない。俺は、心底思った。
『ごめん…。ごめんな?』
素直に謝った。そんなんで許してもらえるなんて、これっぽっちも思ってなかった。でも、本気で謝りたかった。
司の気持ちのこもった謝罪。未来は、それを受け止めたのか、少し口調が柔らかくなった。
『司君が、店の外で皆に“おめでとう”って…。私だって…、私だって言いたかったんだよ?でも、仕事しなきゃいけないし…。』
未来は、目にいっぱいの涙を浮かべ、俺の事を見つめていた。
『絶対に言ってやるって!今日必ず言ってやるって…。』
俺は、たまらず言った。
『未来?もぅいいから…。悪いのは俺だし、未来の気持ち…ありがとね。』
俺は、抱き締めたかった。ギリギリの所で、ブレーキがかかった。付き合ってる訳でもないのに、そこまでは…。でも、心の底からありがとう。初めて思った。人に対して心底思った。
未来…ありがとう…




