故郷
夜の雪道ってやっぱ危ないな…。
なるべく雪のないアスファルト、凍ってない道を践み歩く。雪は、一段と降りしきり、風も吹き始めていた。
あ〜寒いな…、なんて思いながら店に向かった。鼻毛も凍るって、この事だな…。零下何度か何てわかりもせず、ただ歩く。鼻から吸う空気は、とても痛く、なんだか凍る思いだ。
氷を蹴りながら前に進む。たまにやると結構面白い。あまり夢中になると転ぶので注意して下さい。
そうこうしてる間に、繁華街まで来てしまった。駅の周辺は栄えていて、とてもキラキラしているネオン街だ!道一つ間違えれば雪の道。
この道まで来れば安全だった。パチンコ店、海鮮市場、飲食店、キャバ、クラブ。色んな店が立ち並ぶ中、俺が目指していたのは、居酒屋“呑”!いかにもって感じ…。
俺は、酒が強い訳じゃなく、好きって訳でもなかった。でも、居酒屋の雰囲気ってのだけは、なんか落ち着くんだよね。
少し緊張してきた…。仲間と飲む事はあっても、一人で店に入るって事、知らない人と飲むって事はなかった。深呼吸をし緊張を紛らわせる。
ガラガラ…
店の中はかなり騒がしかった。思わず笑顔が…。この雰囲気って…好きだな。店の雰囲気が緊張の糸をほぐしてくれた。
店の中は暖かく、料理の匂いと明るい活気!俺は、この暖かい空間に飢えていたせいか少し安心した。
『司君!』
少し離れた所から呼ぶ声がした。
俺は、キョロキョロしながら声の方へ向かった。
そこには未来とその仲間達がテーブルを囲んでいた。
『すみません…、遅くなりました。』っと言いつつちゃっかり未来の横に座る。皆、同年代っぽいな。店長やチーフとかは抜きの飲み会らしい。
俺が席についた頃には、皆ほろ酔いになっていた。
席について焼酎を飲み、少し落ち着いた頃、自己紹介が始まった。
『司君!皆、本店のスタッフだよ。右から…綾乃ちゃん、静香ちゃん、恵ちゃん、京子ちゃん。そして私が未来ちゃん!』
な!知ってるよ…。未来かなり酔ってるな…。なんて思いながら愛想を振りまいた。皆、女かよ…。いつも男ばっかで飲んでたから…なんかな…。
『俺、鷹山司です。宜しくお願いします。』
軽く挨拶を交わし店員を呼んだ。皆、結構飲んでるな…。どれくらい飲んでるのか気になったが敢えて聞かなかった。
少し赤ら顔の未来。なんだか色っぽかった。店員に焼酎を頼み、少しずつこの雰囲気に溶け込んでいった。
大体、こういう席は、店、仕事の愚痴。お決まりだった。
店の事もスタッフの事もなんもわからない俺。ただ、皆の話に耳を傾けていた。
焼酎三杯目を飲み干した時、未来が肘でつついてきた。
『どおしたの?元気ないよ?あまりこういうの好きじゃない?』
未来は、もうどの位飲んでるのか、想像もつかなかった。目はトロ〜ンとし、ろれつも回ってなかった。俺の事を心配してくれてるみたいだが、未来の方が心配だよ…。
『ん?そんな事ないよ。このお店…好きだな…。なんだろ、何かいいよね。』
俺は、微笑みながら焼酎を飲み干した。未来もつられるようにお酒を飲み干した。
『…。このお店、好きなんだぁ…。チェーン店とかと違って故郷の匂いって言うか、雰囲気を思わせるから…かな。』
未来は、微笑みながら俺の顔を見、俯いた。お酒を見ながら少し微笑み、遠くを見ている様な目をしていた。
何でこんなにお酒を飲むのか、わかる気がした…。やっぱり、寂しいのかな…。
『たまには実家に帰るの?』
つまみを食べながら問いかけた。
未来は、少し困った表情で答えた。
『実は…ずっと帰ってないんだ…。』
少し落ち込み気味な未来。はぁ…とため息を吐き、やけ酒を飲むようにお酒を飲んだ。俺も最近、実家に帰っていなかった。それだけに痛いほど気持ちが伝わってきた。心の中では、実家に帰り親を安心させてあげたい。常に思う。だけど…。気が付いたら楽しい飲み会がしんみりした場へ変わっていた。
『今度、一緒に帰ってみる?』
未来は、目を見開き驚いた表情で俺の顔を見つめていた。
未来の表情を見て“はっ”と我にかえった。思わず焼酎を飲んだ。
ただ、単純に二人なら長旅も退屈しないで行けるかなと思った。でも、未来には違う意味に聞こえたのかも…。
沈黙が続いた。気まずい雰囲気。その沈黙を破ったのは未来だった。
『ありがとね…。司君って優しいんだね。』
照れを隠すように微笑み、お酒を飲んだ。
俺は、思わず未来に見とれてしまった。未来が“ん?”って顔をした時、慌ててごまかすように周りを見た。
“ありがとう”の言葉がヤケに響いた。優しく微笑む未来。酒を飲んでるせいか体が火照ってきた。




