優しさのカタチ
少し未来の事が心配だった。“風邪を甘くみるな”親父が良く言っていた。本当は、親父に兄貴がいたらしい。子供の時、肺炎で死んだって…。今は、医療が進んでいて、肺炎で死ぬなんて、そうはないだろうが、昔は良くあったみたいだ。
学校も終わり、心配で居ても立ってもいられない俺は、すぐに未来の元へ向かった。
ピンポーン♪
チャイムを押す。少しドキドキした。昨日は、緊急だったから何も考えず入って行ったが、よく考えたら女の家なんだよな…。俺にあの時の勇気をくれ…。
『は〜ぃ!』
あれ?何か声が…
中から出て来たのは、同じお店で働く綾乃だった。
『あら…。鷹山君じゃん!どしたの?』
少し驚いた顔をする綾乃。そして、俺を中に入れリビングへ通され、キッチンからお茶を出してきた。見た目よりシッカリしてる人だな。テキパキとお茶をよそり、“ふぅ〜”っと、ため息…。黒いベストを着て、ネクタイをしてた。仕事中なのは一目瞭然。
昨日の事を綾乃に話した。
『そうなんだ。ふ〜ん。』
その“ふ〜ん”の意味が、俺には理解出来なかった。
未来は今、寝てるらしい。綾乃は、未来の先輩にあたる人で、教育担当でもあった。
お店が暇で、未来の事が少し心配だったから、店長に了解を得て様子を伺いに来た…らしい。
お茶をすすりながら、少しの時間、沈黙が続いた。
『未来、具合良くなりましたか?』
とりあえず、何か喋んないと場がもたない…。気になってたってのもあり、率直に聞いた。
『あんまり良くないかもね……。』
深刻そうな顔をする綾乃。その表情を見た俺は、居ても立ってもいられなくなった。
『え?んじゃ病院行きましょうよ!車、出しますから!』
俺は、急いで帰ろうとした…
『鷹山君って、ホント未来の事、好きなんだね。』
はぁ?何言ってんだ…。そんな事、言ってる場合じゃ…
『嘘!ホントに悪かったら、とっくに連れてってるよ。』
綾乃は、軽く微笑み未来の部屋の方を見た。
この人、冗談キツすぎだよ…。
『未来って、頑張りすぎなんだよね…。風邪引いて熱もあるのに、でも、無理して仕事して…。結局、倒れちゃって…。』
少し寂しげな綾乃…。綾乃も未来の事、好きなんだな…。
『鷹山君?ありがとうね?未来、大分、元気になってきたよ?』
綾乃は、優しく微笑み、そして立ち上がった。
『私、そろそろお店戻らないと。』
綾乃は、玄関の方まで歩いて行った。俺も、後をついていく。
『さっき、未来の事凄く怒ったから、後でフォローしといてね。』
綾乃は、ニコッと笑いながら手を振り出ていった。
怒ったのか…。だから、あんな寂しげな顔してたんだな…。
綾乃って、凄く良い先輩なんだな…。少し羨ましがった…。
俺は、一人ソファーに座り、何をするのでもなく、ただそこにいた。
いざ、一人になると…、困った。
さっきの綾乃の言ってた事が気になっていた。
未来、怒られるような事、するようには見えないけどな…。ワガママだけど…うん!ワガママだ!
お茶をすすりながら考える。その時、寝室から未来が出て来た。
『あ!司君?』
目を擦りながら近づいてくる未来。
『よっ!体調の方は?大丈夫?』
未来にポカリをよそって飲ませた。
『もぅ治った!綾乃は?』
治ったって…。
『忙しくなる時間だから戻るって。』
『そっか…。』
少し寂しげな未来。コップを置き、“はぁ〜”って、ため息…。
なんだ?今度は未来のため息…。魂が抜けそうな感じだな…。
『まだ、体調良くないんだろ…。ため息吐いちゃって…。』
未来は、少し黙って俯いていた。そして、話し始めた。
『綾乃に怒られたんだ……。仕事で怒る事はあっても、プライベートでは…、初めてだな…。』
怒られた事がショックだったのか、目にうっすら涙を浮かべていた。
未来って、案外もろいんだよな…。綾乃も、それを見抜いて…。フォローか…。
『何で怒ったかは知らないけど、綾乃って、未来の事凄く心配してたよ?綾乃、自分で言ってたんだ。未来の事、凄く怒ったって!その時の綾乃の表情…、寂しげだったな…。』
『そっかぁ…。』
さらに落ち込む未来。でも、心なしか嬉しそうにも見えた。
優しく接する時もあれば、厳しくする時もある。仲間を怒るって事がどれだけ辛い事か…、綾乃が教えてくれた。言う方も、言われる方も辛い、でも、言わない方がもっと辛い。どうせ言うなら、愛を持って接して行きたいな…。




