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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
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(8)旅は道連れ、世は情け-2

少女は、名前をベルと言った。

年の頃は15、6だろうか、まだ幼さの残る顔立ちに、蜂蜜色のつぶらな瞳が愛らしい。

エイジャがベルの背中を後ろから抱く形で馬に乗せ、手綱を取る。

「すいません……。旅をお急ぎなのに」

申し訳なさそうに肩を落とすベルの小さな頭を間近に見ながら、エイジャはできるだけ優しく声を掛ける。

「気にしないで。こんな傷だらけの女の子を荒野に一人で放り出すなんて、そんな奴は男じゃないよ。

それより、身体が辛かったら言ってね」

ベルは少しエイジャを振り返り、思った以上に顔が近かった事に驚いたのか、勢い良く前に向き直って、身体を固くした。

「だい、大丈夫です……」

「ベル、君を襲った野盗はどんな集団だったんだ?規模は大きいのか?アジトから君が倒れていた場所まで、どのくらい離れているか分かるか?」

ルチアは騎士団時代の癖なのか、野盗の様子が気になるらしく、ベルに質問を投げ掛ける。

「すいません……気が動転していたので、あまり詳しい事は分からなくて……

 ただ……私と同じくらいの女の子が他にも5人位いました。皆、別の場所から連れてこられたみたいで……

見張りがいたので、どこから来たのか、とか、話す事はできなかったんですけど」

「人攫いの集団か……若い女ばかりを狙う集団があるって話は聞いた事があるが……」

「もう、ルチア。ベルは辛い目にあってやっと逃げ出してきたんだよ、今はそんな事思い出すのもきついんだから!そういう事は後にしてあげなよ」

エイジャがルチアを一睨みする。

ベルはますます身体を小さくして、「すいません」と俯いた。

「ごめんね、ベル。

 この人、見た目はこんなだけど、あんまり女の子の扱いが分かってみたいなんだ」

「おい……」

突っ込みつつ、ルチアは確かにこのエイジャの女性の扱い方には敵わないな、と納得する。

どうやらベルはすっかりエイジャに心を掴まれてしまったようで、エイジャの話に答える頬はうっすら赤く染まっている。

エイジャが先日、王都に住む女性達は皆とても優しく親切で、良くしてくれる人ばかりだ、という話をしていたが、それは対エイジャ限定の話なのではないか?と今更ながらに気付く。

この容姿に、どこまでも女性に優しい物腰。

女性にモテないはずがない。

こう見えて、王都には彼女の一人や二人はいるのかも……

「………よね、ルチア?」

「えっ?……何だ?」

「もう、何ボーッとしてるのさ。ベルが、村に着く頃には日暮れになるから、今日は村に泊まって行かないかって。

 せっかくだから、お世話になる?」

「そうだな、わざわざ村の外で野宿する事もないか……」

「良かった、命の恩人ですもの。大したおもてなしはできませんけど、うちに泊まっていって下さい」

ベルからは野盗の話をもう少し詳しく聞きたいと思っていた所だ。

村に送り届けて彼女の気持ちが落ち着いたら、話が聞けるだろう。

ルチアはそう考えていた。



人の手の入っていない荒れ地が続いていた景色も、トープ村に近づくにしたがって次第に木の数が増えてきた。

冒険者としてアストニエル国内各地を旅してきたエイジャも、この周辺を訪れる機会はこれまでなく、トープ村というのも初めて聞く名前だ。

ルチアはさすがにカルニアス王子の側近として国内の事は把握しているのだろう、訪れた事はなくとも名前と場所だけは知っていたらしい。

ベルの先導で馬を進めるうち、ぽつ、ぽつと民家が現れ始めた。

一軒の民家から体格の良い男が出てきたのを見て、ベルが声を上げる。

「……父さん!」

エイジャは馬を降り、ベルが降りるのを手助けしてやった。

「ベル!」

呼ばれた男は振り返り、走ってきたベルを腕に抱き止めた。

突然姿を消した娘が帰ってきたのだ、どんなにか嬉しいだろう。

ニコニコとその姿を見守っていたエイジャをベルが振り返る。

男がベルを連れて近づいてきた。

「話は聞きました。あなた方がベルを助けてくれたとか……お礼の申し上げようもありません。

ありがとうございました」

額が膝に付く程に深々と頭を下げて礼を言われ、エイジャは少し慌てて答えた。

「助けたって言っても、俺達はここまで送ってきただけですから……」

「いえ、娘はもしもあなた方に助けてもらえなければ、命はなかっただろうと。

 何もない家ですが、どうか今晩はうちにお泊まり下さい。お口に合うか分かりませんが、娘に夕飯の支度をさせますので……」

男は大きな身体を折ってぺこぺこと頭を下げ、ベルはその横ではにかむように微笑んでいた。



客室に通され、エイジャとルチアは荷を降ろして身体をほぐした。

小振りのテーブルを挟んで左右にベッドを配し、広くはないがきれいに整えられた部屋である。

窓のないのが少し気になったが、壁にかけられた絵も趣味が良く、そこいらの宿屋よりもよっぽど良い部屋だと言える。

「野宿の予定が、こんないい部屋に泊めてもらえる事になってちょっとラッキーだったね」

「まあ、少し遠回りになったがな。フェルダにはお前から謝ってくれ。すっかり気に入りのようだからな」

ルチアと相部屋なので胸のサラシを取ってゆっくり休むというわけにはいかないが、野宿よりは随分マシだ。

「夕食の後でなら、ベルに野盗の話を聞いてもいいか?」

ルチアがエイジャに尋ねる。先程、不躾に話を聞き出そうとしてエイジャに咎められたのを気にしているらしい。

「いいんじゃないかな。お父さんと会って、ベルもだいぶ元気になったみたいだし。

 でも夕飯の支度なんてさせて、悪かったかな。俺達が見つけた時は、立ち上がるのもやっとって感じだったし……

俺、支度を手伝ってくるよ」

エイジャがそう言って、部屋のドアノブを回した。

ガチャガチャ、と金属のぶつかる音。

「……?」

「どうした?」

ルチアが声を掛ける。

「……鍵が掛かってるみたい」

「何だと?」

ルチアがドアに近づき、ノブを回して扉に体重を乗せる。

「……どういう事だ?」


ドンドン、と扉を叩き、エイジャがドアの外に声を掛ける。

「すいませーん!なんか、扉が。何か引っかかってるみたいで、開かないんですけど!」

何度か呼びかけた後、扉の向こうから、ベルの父親の声が返ってきた。

「うるせえ!ドンドン叩くんじゃねえ!この部屋には鍵をかけたんだ、大人しくしてろ!」

エイジャはきょとんとした顔でルチアと顔を見合わせた。

「え、なんで?」

問いかけたエイジャの声に、ベルの父親はあきれたような声で返答する。

「まだ気づかねえのか、めでたい奴らだな。

 てめえらのような女みてえな顔した奴らは高く売れるんだよ。

 せいぜい素敵なご主人様に買って頂けるように祈っときな」

下品な笑い声を残して、ベルの父親は扉の前から去って行った。


「……だって」

エイジャがルチアを振り返る。

「ハァ……人攫いはこっちだったって事か。

 確かにお前はいい値が付きそうだなぁ」

「何バカな事言ってんの。どうする?」

「どうするって、お前の魔術でこの鍵開けられないのか?」

「物理的に掛けられた鍵を開ける事はできないよ。ルチアこそ剣でこの扉切れないの?」

「こんな重い扉は無理だ。剣が折れる」

「役立たずー」

「お前が言うなよ」

二人揃ってため息を付く。


「とりあえず、俺達が売り物ならずっとこの部屋に閉じ込めっぱなしってわけにはいかないだろう。

 場所を移す時にでも扉が開く。そうすればまあ、何とかなるだろ」

今はどうしようもないな、とルチアがベッドに横になる。

エイジャももう一方のベッドに腰掛けた。

「ベルは……分かってて俺達を誘導してきたって……事だよね」

「そうだな」

エイジャがうな垂れる。その様子を見て、ルチアが身体を起こす。

「まあ、気にするな。あの状況じゃ、誰だって助けてやろうとする。

 俺だって、行き倒れの女をほったらかしにして先を進めるなんて、男じゃないと思ってるさ」

「うん……でもごめん。大事な旅の途中で、足止め食っちゃって……」

「ま、長居するわけにはいかないがな。

 ああいう奴らは攫った人間を長くは手元に置かない。さっさと売って金にするはずだ。

 きっと今晩のうちに場所を移そうとするから、その時を逃さないようにしよう。

 ……ベルに手加減するなよ。お前、女に甘いからな」

図星を突かれて表情がこわばったが、うん、と力強くエイジャは頷いた。




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