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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
83/87

(62)魔道具の原理

 あくる日、朝食を済ませたエイジャ達が客間へと案内されると、そこにはソファに寄り添って座るキーラとロメオの姿があった。

 意地を張って同じソファに座らずにいた先日のキーラを思い出し、エイジャは思わずくすりと笑いをこぼす。

「エイジャ!」

 キーラがエイジャに気付き、走り寄ってくると勢い良く抱きついた。


「エイジャ、ありがとう!私、昨日はお礼も言えなくて……。怪我、してない?大丈夫?」

「大丈夫、怪我もしてないよ。それより。……うまくいったんだね」

 エイジャが少し声を潜めてささやくと、キーラはぽんっと頬をピンク色に染めた。

「え、エイジャと約束、したから……。勇気が出せたの。ありがとう」

 はにかむように笑った顔が、今までに見た事がないほど幸せそうに輝いていて。エイジャも思わず顔がほころぶ。


「キーラ、なんだか今日はすごくかわいく見えるよ。ロメオさんのせい?」

「やだ、そんな事ない、と思うけど……。どこか、おかしい?」

 そわそわと自分の身を確かめるキーラの背後に、すっと影が差した。

「おはようございます、皆さん。昨夜は大変失礼いたしました」

 ごく自然にキーラの腰に手を回して引き寄せながら、ロメオが軽く頭を下げた。

「おはようございます。こちらこそ、昨日は屋敷の皆さんに良くして頂いて。ありがとうございます」

 いつのまにかエイジャの後ろに来ていたルチアと挨拶を交わす。


「お話しなければいけない事が膨大にあります。こちらへどうぞ」

 エイジャとルチアにソファを勧め、遅れて客間に入ってきたフェルダとベルもそれぞれ席に着く。

 ロメオはメイド姿の女性達を全員下がらせてから、一人掛けの椅子に腰を下ろした。



「さて……、どこからお話すればいいのか。昨夜、キーラに話すのにも夜更けまでかかりましたからね」

「アタシとベルちゃんは、この街にやってきた貴方がクラウディオとして生き始めて、それからキーラちゃんの為にロメオになった話は聞いたけど」

 フェルダがロメオの言葉を受けると、エイジャがぱちくりと瞬きをした。

「キーラの為に?」

「ええ……まあ」

 キーラの目の前で言葉にされた事に照れたのか、ロメオが気まずそうに頬を掻く。

「そもそも、どうしてこの街で、正体を偽っていらっしゃったのか、まずそれをお聞かせ願えませんか。あなたの身柄に1000万ディールの賞金が掛かっていた事と関係があるのでしょう」

 ルチアが切り出した。

「ええ。しかし、それには私がこの街へやってくる事になった理由をお話しなければいけません。命を救って頂いた身ですから、あなた方の役に立つ事があれば何でもお答えしたいとは思っています。ですが、」

 ロメオはそこで一度言葉を切り、ルチアの方へ向き直った。

「それには、あなた方の旅の目的を聞かせて頂きたい。あなた方がただ者でない事は、もう分かっています。私に掛かっていた賞金の事や、正体を隠していた理由を、ただの興味本位で知りたがっているわけではないのでしょう」


 ルチアは表情を変えず、ロメオの目をまっすぐに見返す。

「たしかに、あの時あなたが一味の首領に対して話した内容をお聞きした以上、このまま事情を聞かずに立ち去るわけにはいかないと思っています」

 ルチアの言葉にロメオの表情が少し強ばる。ルチアは一度フェルダに視線を送った後、組んだ手を膝に乗せて少し体勢を崩した。

「……お察しの通り。私達はアストニエル王家の依頼で旅をしています。目的地はシアル首都」

「シアル首都……。大公に、会われるんですか」

「……はい」

 ロメオは視線を足元に落とし、何か考え込んでいるようだった。

「エイジャさん」

「はっ、はい」

 急にロメオに名を呼ばれ、エイジャは慌てて返事をした。

「神の道に背く目的ではないと、キーラに誓えますか」

「も、もちろんです!」

 ルチアが後を続ける。

「あまりにお話をしすぎるのは、あなたやキーラさんにとっても危険でしょう。ですが、これだけは言えます。私達は、現在緊張状態にある二国間の戦争を避けようとしています。

 もう一つ。アストニエルやここラグースで女性や子供を拉致して、シアルに売っている犯罪組織を追っています。背後に、シアル大公の影がある」

「……そうですか。大公が……」

 ロメオの表情が再び緊張で強ばった。


「私がシアルを出なければいけなくなり、そして賞金が掛けられた理由を話すには……、随分古い昔話をしなければなりません」

 

 ロメオは迷いを断ち切ったように、自分の過去を語り始めた。


 自分はシアルの神官の息子であり、大公から殊勲を賜った夜、内密に魔術書の解読を依頼された事。

 その内容はアイサル神の教えに反した背教の書であり、結果的に幼なじみの少女の命を失い、シアルを出ラグースへやってきた事。

 気が遠くなる程長い時間を、絶望の中クラウディオとして生きてきたが、キーラとの出会いをきっかけにロメオと名を変えた事。


 一行はロメオの話が一段落するまで、口を挟む事なく聞き入った。


「……魔道具の原理に近付く書が、大公家にあったなんてね」

 ようやく、フェルダが口を開いた。

「背教の書、と仰いましたが……具体的にどんな事が書かれていたか、教えて頂く事はできますか?」

 ルチアが慎重に言葉を選んで尋ねた。


 ロメオが口を引き結ぶ。

 一度ごくりと唾を飲み込むと、重々しく口を開いた。


「魔道具を作り出すには、道具に魔術を込めなくてはいけない。その具体的な方法は分からないままですが……『即ち、血と肉の犠牲をもって神へ近付くものなり。数は多いほど良し。少なくも百余』

 結論としてそう書かれていました」


 ガタン!と大きな音が部屋に響き渡った。ルチアが、倒れ込んだエイジャの体を支える。

「エイジャ!」

 ルチアが声を掛けるが、エイジャはそのままうずくまってしまった。覗き込んだ顔が蒼白なのを見て、ルチアはエイジャを抱き上げた。

「大丈夫ですか!?」

 ロメオが立ち上がる。

「……すい、ません……ちょっと……」

 消えそうな声でエイジャが答える。

「いいから。ちょっと、休ませてもらえ。ロメオさん、どこか部屋をお借りできますか」

「は、はい。すぐに準備させます」

 ロメオは下がらせていた女性達を呼んだ。

「こちらへ」

 ロメオが足早に部屋へ案内し、ルチアがエイジャを抱いたまま続く。その後ろに、フェルダも付いて来た。


 用意されたベッドに静かにエイジャを降ろすと、エイジャはそのまま気を失ってしまった。

「……眠ってるだけよ、大丈夫」

 脈をとったフェルダがそう言うと、ルチアはほっと息をついた。


「ショックで貧血を起こしたみたいね。手が冷たいわ」

 フェルダが脈をとっていたエイジャの手を、労るようにさすって温める。

「書の内容がそんなにショックだったんですね……。私も、解読した時にはとても衝撃を受けましたが……」

「……ロメオさんの話を聞いてる時から、エイジャの顔色が悪いな、とは思ってたんだけどね……」

 フェルダは何か思う所があるように、エイジャの頭をそっと撫でた。


「……修理を頼まれた、あの魔道具は……エイジャさんの物なんですよね」

 ロメオが口を開く。

「ええ」

「昨日も話しましたが、あの魔道具は最近作られたものです。エイジャさんは、おじい様が作られたと言っていたとか」

「そうだな。俺の結い紐もそうだって言ってた」

 ルチアが頷く。


「『魔のシアル』で、一、ニを争う研究者だったあなたでも、魔道具の作り出す方法は分からないのね」

「はい。唯一の手掛かりが、先程の言葉でした。あのまま、書を最後まで解読していれば、もっと詳しい事が分かったかもしれませんが……」

「血と肉の犠牲……ね」

 フェルダが考え込む。

「どういう事だ? 魔道具を作り出すには、人間を殺さなければいけないのか? エイジャの祖父が、人を殺して魔道具を作ったと?」

「さあ、それはエイジャに聞かなくちゃ分かんないわね」

 さらっと答えたフェルダに、ルチアは血相を変えて詰め寄った。

「おまえ、エイジャが目を覚ましてもそんな事聞くんじゃないぞ」

「あら、なんでぇ? 知りたいじゃない!」

「さっきの話だけでも倒れたんだぞ! エイジャに何かあったらどうするんだ」

「大丈夫よぉ、ルチアったら過保護ねぇ。もっとエイジャを信用してあげなさいよ、この子はそんなに弱い男じゃないわよ」

「そ、れは分かってるが、でも……」


「だいじょうぶ、だよ。ルチア」

 消え入りそうな声が聞こえてそちらに顔を向けると、エイジャが目を開けていた。

「ごめん、俺……急に気持ち悪くなって」

「分かってる、無理するな。寝てろ」

「ううん、もう大丈夫」

 エイジャはゆっくりと体を起こした。


「あの……ロメオさん」

 名前を呼ばれ、ロメオが前に出る。

「魔道具って、シアルでも作れる人はもういないんですか?」

 エイジャの問いかけに、ロメオは静かに頷いた。

「はい。それどころか、原理も何も分かっていません。

 俺を含め、研究者は皆それを知るのに躍起になっていた。

 でも……今はもう、俺はそれを知るのが恐ろしい。近付いてはいけない気がしています」


 エイジャは睫毛を伏せ、しばらく考え込んでいた。

 静まり返った部屋に、時計が時間を刻む音だけがコツコツと鳴り響く。


 やがて、エイジャは決心がついたように顔を上げた。


「あの眼鏡、俺のじいちゃんが作ったんです。じいちゃんは、ずっと魔道具を作る研究をしていて。俺のために、魔道具を残してくれたんです」

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