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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
81/87

(60)ロメオという男

今月も二話更新です。

最新話から来た方は、一話前から読んで下さいね。


「申し訳ありません。旦那様と奥様はお話が長引いておりまして……。

 先にお食事をお出しするようにと申し付けられております。命の恩人であるお客様に対しての非礼、主人に代わってお詫び申し上げます。

 申し遅れましたが私、このお屋敷の家政婦長をつとめております、セレナと申します。本当に……この度は、ありがとうございました」


 前日に通された客間に負けないほど豪奢に飾られた食堂に案内されテーブルにつくと、女性達の中でも少し年嵩で、皆にきびきびと指示を出していた女性が深々と頭を下げた。

 昼間、屋敷から外へ出る近道を案内してくれた人だ、とエイジャは気付いた。

 美しい金髪をきりりと結い上げ、立ち居振る舞いも洗練されている。家政婦長と名乗ったが、実質この屋敷の執事のような存在なのだろう。

 

「いいのよいいのよ。せーっかくラブラブになれたんだもの、アタシ達とごはん食べてる場合じゃないわよねぇ」

 ケラケラと笑うフェルダに、ルチアはもう少し言い様があるだろうと言いた気な一瞥を寄越すと、セレナに向き直る。

「その件は先程ロメオさんからも伺っています。こうして夕食に呼んで頂いただけで有難く思っていますから、どうぞセレナさんはお気になさらず」

「あ……ありがとうございます」

 ルチアから向けられた笑顔に、セレナは一瞬見蕩れたように口ごもり、慌てて礼を取った。周りの女性達も頬を染め、ちらちらとルチアを盗み見しながら給仕をするものだから、時折手元を狂わせている。

 眼鏡がないせいで、今はその美貌を遮るものもない。切れ上がった目元は涼やかながら、長い睫毛が眼差しを色めいて見せる。そして見る人の視線を釘付けにする、貴石を思わせる深い紅の瞳。

 髪の色を落ち着いた栗色に変えているからまだ良いものの、これで眩いばかりの金髪なんてあらわにしていたら、それこそ女性達は給仕どころではなかっただろう。つくづく、極秘指令に向かない容姿である。


「何だか久し振りに見るわぁ、ルチアのその顔♪ ほんと目の保養よねぇ……」

 フェルダがうっとりと頬に手をついてルチアの顔を覗き込む。

「やめろ。それよりお前、いつの間に戻ったんだ」

「え?何が?」

「ヴィルヘルムだ。いつも戻るのに苦労するくせに。アジトに戻ってきた時には、もうあの男は引っ込んでいただろ。どうやって戻したんだ」

 ルチアの言葉を聞いて、ぴしっと表情にヒビが入ったのはベルだった。

「……どうしたの?ベル」

 様子のおかしいベルに気付き、エイジャが声を掛ける。

「……べつに」

 ベルは一言だけ返すと、すぐに目線を下に戻し、黙々と食事を口に運ぶ。

 エイジャがルチアをちらりと見る。疑いの目を向けられている事に気付き、ルチアは心外だというように黙ったまま首を振る。

 次にフェルダに目を移すと、思い当たる所があるように軽く首をすくめて見せた。


(俺達と合流する前に、フェルダさんとベルの間で何かあったのかな?そんなの、珍しいけど……)

 エイジャはあの時遠話のブレスレット越しに聞いた、フェルダとは別人のような男の声を思い出した。フェルダに詳しい話を聞いてみたかったが、その話題はベルを不機嫌にさせるようだ。


 ルチアもその空気を読んだらしく、話題を切り替えた。

「セレナさんは、この屋敷には長く勤めていらっしゃるのですか?」

「そうですね。私がこちらに来た頃は、屋敷に住んでいるのは旦那様と奥様だけでした。街で人攫いに連れて行かれそうになっていた所を、旦那様に助けられたんです」

「へえ……、ロメオさんが」

 エイジャが感心したように答えたのに、セレナは大きく頷く。


「旦那様は気にせずここに住めば良いと仰って下さいましたけど、私はお二人のお世話をさせて欲しいと頼み込んだのです。それからはこの街にやってきた身寄りのない女性は、皆この屋敷で旦那様のお世話になる事に。本当に、慈悲深い立派なお方です」

「あの……、皆さん、キーラの事を奥様って呼んでますよね。それは、なぜですか?」

 エイジャが尋ねると、セレナはあっ、と今気が付いたように口元に手を当てた。

「……それは、キーラ様は旦那様の想い人でいらっしゃいますから。元々、私がこちらに来たのも、旦那様からキーラ様への想いをお聞きしたのがきっかけなのです。僭越ながら、お二人の仲を取り持とうと考えたのですわ」

「仲を、取り持つ?」

「ええ。……こんな事、お話して良いものか分かりませんけれど。旦那様は、本当はとてもシャイなお方です。女性に対して口説き文句など出てこないようで、キーラ様ともうまくお話ができないのだと仰っていました」

「あのロメオ……さんがぁ!?私達に声を掛けてきた時なんて、ペラッペラとよくまあそれだけ口が動くわってぐらいに口説かれたけど?」

 ベルが口を挟むと、セレナは苦笑した。

「それは表向きのお顔ですわ。私が女性の褒め方を手ほどき致しましたから、大変饒舌になられました。キーラ様以外に対しては、ですけれど」

「……そうなんですか」

 エイジャがさも意外そうな声を出す。

「ですから、私共は皆、キーラ様の事は奥様とお呼びしています。ただ、旦那様からのお達しで、キーラ様の前ではその呼び名は控えてくれと言われておりましたけど。

 でも、これからはそんな気遣いもしなくて良いのですわね」

 そう言ってセレナが他の女性達に顔を向けると、彼女達はきゃあっと声を上げてお互いに顔を見合わせ、笑った。

 その様子は、心底、ロメオとキーラがうまくいった事を喜んでいるようで。


「皆さん、ご存知だったんですね。知らなかったのはキーラだけだったんだ」

「ええ、ええ。もちろんですわ。だって旦那様ったら、毎日奥様はどうされてるか、もうお帰りになったのか、お店ではどんな様子だったのかって、それはもうあれこれお聞きになるんですもの!どれだけ旦那様の想いが深いか、私達全員良く知っていますわ」

 エイジャの問いに、女性達の中の一人が嬉しさを隠せないように答えた。

 屋敷の女性達が皆ロメオの愛人だなんて、全くもってキーラの勘違いだったという事だ。本人が知ったら、さぞかし驚くだろう。


「この街が私達にとって住みやすくなっていっているのも、奥様のおかげですもの。感謝してもしきれませんわ」

 そう口を開いたのは、最初にこの屋敷を訪れた時にお茶を入れてくれた女性だ。

 エイジャが発言の意味を計りかねていると、セレナが横から口を挟む。

「旦那様が事業を広げていらっしゃるのは、奥様が過ごしやすいようこの街を女性にとって危険のない、安全な街に変えようとされているからです。現に、もうこの街の半分以上は旦那様の物になっていますわ」

「キーラちゃんがアストニエルに帰りたいなんて思わないように?」

 おかしそうにフェルダが言うと、セレナは苦笑して頷いた。

「ええ、この屋敷も、あのお庭も。すべて、奥様の為です」


 ルチアは正直複雑な想いでこの会話を聞いていた。

 そこまで愛した女なのに、手放してエイジャに託そうとしたロメオの行動を思い出したのだ。

 相手の幸せを思えばこそとはいえ、そのような事が自分にはできるだろうか?


 掴み所のない、厄介な男。金儲けに優れ、自宅を豪華絢爛に飾り付けて女性達をはべらせ、甘い言葉をかけて悦に入っている……決して良い印象ではなかったロメオという男の真の姿が暴かれて、彼に対して感じていた違和感がすとんと落ちた。


 それと同時に、愛する存在を手に入れたロメオを羨ましく思うのを止められないルチアであった。

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