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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
38/87

(24)救出作戦-4

ホテルから運び出されて手当を受けている人達、消防隊を始め消火活動に協力した人達に加えて、やじうまで集まってきた人々も多く、ホテル前の通りは祭りのような雑踏と化していた。

消火活動から解放されたエイジャは、人混みをかき分けおろおろとルチアの姿を探していた。

ふとホテルから救出され手当を受けている人達に目をやると、その中にラヴィスの部下の兵士達の姿があった。

(ラヴィスはどうしたんだろ?逃げられたのかな……)

そこにルチアの姿がないのを確認してきびすを返しかけた時、一人の兵士がエイジャに気が付き走り寄ってきた。

「あんた……」

廊下でルチアが切った男の一人だ。だが、急所は外してあったのだろう。胸から腕にかけて応急処置を受けていたが、しっかりとした足取りでエイジャに近付いてきた。

エイジャは咄嗟に身構える。エイジャの後ろを付いてきていたフェルダも詠唱を準備し、ベルは懐中の短刀に手を伸ばした。

「いや、大丈夫だ。何もしない。さっきは、ラヴィス様の命令だから従ったが……

あの方は亡くなった」

「ラヴィスが死んだの!?」

フェルダが驚いて声を上げる。

「火事の原因は俺達の仲間だ……ラヴィス様が俺達の仲間の魔術師を切って……逆にそいつに刺された。火は、その魔術師が起こしたものだ」

男の言葉に少しだけ警戒を解いたが、油断せずに男の言葉の続きを待つ。

「俺達はラヴィス様の私兵として、忠誠を誓い従ってきたが……あの方は俺達を置いて、自分一人だけ逃げ出そうとした。

だが、あんたの仲間の男は、俺達を火の中から助け出してくれた」

「ルチアが……!?」

「消防隊の連中と一緒になって、俺達を下の階まで降ろしてくれた。俺は何とか自分で歩けたが……あの人に助けられなかったら、死んでた奴もいる。

心から礼を言う」

「ルチアは、今どこ!?」

「分からん。あの人は最上階から下の階まで、何度も人を背負って往復していた。俺も建物を出てからは姿を見てない」

男の言葉を最後まで聞く事なく、エイジャは走り出した。

(もう、ルチア!自分の身を最優先にしろって俺には怒るくせに……自分は何やってんだよっ!!)

気がおかしくなりそうな程の焦り。不安。心臓がバクバクと音を立てる。

人混みをかきわけてホテルの玄関に辿り着き、中に飛び込もうとすると、入り口にいた消防隊の男に肩を掴まれた。

「ちょっと君!危ないから中に入らないで!」

「仲間が中にいるんです、離して……!」

「仲間が?ほとんどの人は助け出してる、探してみなさい。怪我の手当を受けているかもしれない。救護班はあそこに……」

「違うっ、ルチアは救助をしてるんだ!きっとまだ中にいるんだっ、離して……」

肩を掴んだ手を離そうとしない消防隊員に、エイジャは咄嗟に詠唱しようとした。

「エス・ファ・フォ……モガッ」

「何してるんだ、おまえ」

エイジャは背後から口元を覆われて詠唱を阻止され、掛けられた声に振り向いた。

「ほら、魔道具」

顔はすすで汚れ、ところどころに火傷を負っているのが見て取れる。服に残る焦げ跡。

ルチアが、エイジャの魔道具の入った袋を軽く掲げて立っていた。

「ルチア」

眼鏡の片方のレンズにはヒビが入っており、そのせいで魔術が解除されてしまっているらしく、片目だけが深紅色に戻っていた。

でも、その瞳はいつもと同じに優しくて。

「う……」

「不思議なことに、これを身につけてた男は黒焦げになってしまったのに、これは無事だったんだ。やっぱり魔道具だけあって、特殊な力があるのか……エイジャ?」

大喜びで魔道具の袋を受け取るかと思ったエイジャはしかし、袋を受け取る事もなく立ち尽くしている。

ルチアが不思議そうに様子を見ているうち、エイジャの表情がぐしゃりと崩れたかと思うと、みるみるうちに瞼から涙が溢れ出した。

「うあああああん!うああ、ルチアのばかぁ!!!」

突然号泣しはじめたエイジャを目の前にして、ルチアは狼狽した。

「なっ、何やってんだよおっ!ルチア、し、し、死んじゃったのかと思って俺……うわああん!」

「す、すまん!遅くなったか!?兵達を最上階から下に降ろす手伝いをしてたんだ、どこにどのくらい人が倒れているか把握してるのは俺だけだったからな……助けられなかった奴もいるが……ほとんどは下に降ろせたはずだ」

ルチアの弁明が耳に入っているのかいないのか、エイジャは泣き続ける。

「ル、ルチア全然戻って来ないし……!どうしたんだろう、どこに行ったんだろうって思ってたら、ラ、ラヴィスの部下の男が、ルチア、人の救助をしてるって言うし……!全然、戻って来ないし……も、もお会えなかったらどうしようかってうあああん!」

話しながらも涙は滝のように止めどなく流れ続ける。

こんなに感情を露にするエイジャ自体今まで見た事がなく、ルチアはただうろたえていた。

「ぜ、絶対死んじゃやだよ……ルチア、危ない事しないでよ・・俺、ルチアが死んだら、どうしたらいいか分かんないよ……!」

「エイジャ」

ルチアは、涙と鼻水で顔をべちょべちょに濡らしているエイジャを、細い身体ごと抱き上げた。

エイジャは慟哭が止まらないようで、素直にルチアの肩でしゃくり上げている。

背中をあやすように撫でると、エイジャは無意識なのか、ルチアの首に腕を回してしがみついた。

正直、何人もの兵士を相手に剣を振った後に、大の男を担いで階段を幾往復し、さすがにルチアの体力も限界に近かった。

それなのに、新たに内から湧き出てくる途方も無い力を感じる。だが同時に、胸の奥をくすぐるような不思議な感覚に腰を砕かれそうだった。

(だめだ……もう認めざるを得ない)

ふとルチアは、目の前にいた消防隊員の男と目が合った。

生暖かい笑顔を向けられて、我に返る。

(俺、ってしっかり言ってたもんなぁ……こいつ)

男同士ですよね?と言いたげな視線を感じながら、ルチアはそれを跳ね返すように負けじと腕に力をこめた。

何か文句があるか?

そう言うように男に視線を返し、ルチアはエイジャの首もとに顔を埋めた。

「エイジャ、悪かった。俺は死なん。どこにも行かないし、お前の側にいる。だから、泣くな」

耳元に囁いた言葉は、号泣するエイジャにきちんと伝わったかどうかは分からない。

だがそれよりも、ルチアにとって、その言葉を口にした事に大きな意味があった。




「火元は最上階を借り切っていたラヴィス侯爵の部下の魔術師。日頃から部下に対して非情だった侯爵が部下の失態に腹を立てて斬りつけたのが発端。部下は持っていたナイフで反撃、止めようとした仲間達を次々に斬り、自らの身体を火あぶりにして自害した……

ラヴィスの私兵達の証言から、そんな感じに収まったみたいよ」

一人現場に残って情報収集に当たっていたベルから報告を受けながら、一行はホテルのルチアの部屋でフェルダから傷の手当を受けていた。

「俺達にとっては助かったという所だが……よくもまあ全員揃ってそんな嘘の証言ができたな」

ルチアが安堵のため息を付く。

「あんたに命を助けられた事で、がらっと意識が変わったらしいわ。元々、ラヴィスの部下に対する仕打ちはひどかったみたい。俺達を助けてくれたあの剣士は無事なのかって、何人もに聞かれたわよ」

「これからあの人達はどうするんだろう?主を失って、帰る所はあるのかな……」

エイジャがつぶやく。フェルダに額に塗り薬を塗られ、イテッと小さく叫んだ。出血は古傷が開いた事によるもので見た目ほど大きな怪我もなく、血を洗い流した後は、泣き過ぎで腫らした瞼の方が目立つ。

「ラヴィスが勝手に自分の為に雇っていた私兵だからな。雇い主がいなくなったんだから、全員無職か……」

「もったいないわよね。王宮兵に雇ったらどう?ああいう連中は忠誠の対象を求めてるものよ。

命の恩人のルチアが元王宮騎士団の筆頭で今はカルニアス王子の近衛だって知れば、新しい主を見つけたって皆喜ぶんじゃないかしら」

フェルダの提案に、ルチアは顎に手を当てて考え込んだ。

「そうだな……それもいいかもしれない。一度俺から話をしてみるか……」


ラヴィスの元部下達の今後の話をしているルチア達を横目に、エイジャはロミーナの様子を伺った。

ロミーナはホテルに連れて来られてからも、悄然としたままほとんど口を聞かない。

大女優の貫禄など、今はどこにもなかった。

「ロミーナさん……大丈夫ですか?」

エイジャはロミーナの横に膝を付くと、きつく握り締められていたロミーナの手に、そっと自分の手の平を重ねた。

「エイジャ……」

ロミーナがエイジャの顔を見つめた。

「ごめんなさいね……。そんな怪我をさせてしまって……」

「こんなの、全然大した傷じゃないですよ。それより、ロミーナさんこそ……」

ロミーナは顔や手に軽い擦り傷があった程度だったが、心の傷は計り知れない。

長年愛を捧げてきた相手に刃を向けられ、挙げ句その男は部下まで裏切った上に殺されてしまった。

こんな悲劇、ロミーナがこれまで演じてきたお芝居にもなかっただろう。

「いいえ、いいの。こうなる運命だったのよ。私が、こうなる事を望んだの」

「そんな……」

否定しようとしたエイジャに、ロミーナは静かにかぶりを振った。

「あの時……ね。あの方が、エイジャ、あなたをひどい目に合わせていたのを目にして、分かったのよ。あの人の本性。私の事など、どうだって良かったんだって」

ロミーナはぽつりぽつりと話し始めた。

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