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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
37/87

(24)救出作戦-3

ガキンッ!!

耳をつんざくような金属音。

思わず目を瞑ったエイジャは、顔に当たる布の感触に恐る恐る目を開ける。

視界に入ったのは、濃紺色のジャケットの背中。

視線を上に向けると、背中ごしにエイジャを振り返った瞳が目に入った。

「……だからお前はっ!!!!」

(うわああああっ、めちゃくちゃ目が怖いっっ!!!)

最初に頭に浮かんだのは、それだった。

「あの、あの、ルチア、ごめんっ!」

とりあえず反射的に謝ったエイジャに答えず、ルチアはつば迫り合いの相手を力任せに押しやった。

「ルチアだと……!?」

壁際に押し戻されてよろめいたラヴィスが、体勢を立て直しながらこちらを睨んだ。

「エイジャ、ロミーナさんを頼む」

「あっ、はい!あの、ルチア……」

わたわたと慌てふためくエイジャを、ルチアはもう一度振り返った。

「……説教は後だ」

「うっ、分かった……」

エイジャは床に倒れたロミーナを担ぐように抱き起こした。

ロミーナは意識はあるが、心ここにあらずといった様子で憔悴しきっている。

「口封じに始末しようとしたのか……!?」

責めるような口調で、ルチアがラヴィスに問う。

「人聞きの悪い事を言うな……その魔術師、切られたロミーナを置いて俺を追いかける程に肝が据わっているとは思えんからな」

不気味な薄ら笑いを浮かべて、ラヴィスが答えた。

「長年連れ添った恋人に対して……

お前がそこまで人でなしだとは思わなかった」

「ふん、お前のような奴が俺の何を知って……」

罵るように口を開いたラヴィスは、何かに気付いたように目を見開いた。

「……その声……!?いや、髪が……」

ラヴィスの剣を受けた時に刃先がかすったのか、ルチアの口元を覆っていた布は下に落ちていた。

ラヴィスの顔がみるみるうちに青ざめていく。

「は、は……そうか、そうだったのか……。うまく化けたものだ……」

口元をひきつらせながら、ラヴィスは笑った。

「どうする、ここで俺を切るか?いいのかね、侯爵の俺を切ってしまって?隠しきれるものではない……」

ルチアはぎりぎりと唇を噛む。

正体がばれた。このまま逃がすわけにもいかない。だがラヴィスの言う通り、ここでラヴィスを仕留める事はためらわれた。

もちろん、剣士であるルチアとて、むやみに人の命を奪いたいわけではない。だがそれ以上に、れっきとした侯爵であるラヴィスを手に掛ければ、大掛かりな捜査が入る。任務を秘密裏に進めている以上、それはどうしても避けたい事だった。

「取引なら応じる。双方に取って不利益は避けたいはずだ。違うかね……?」

剣を降ろしたラヴィスを見て、ルチアも静かに構えを解いた。

「話の分かる相手で良かった。ここで殺し合いをしても何にもならない。お互い、この国の将来を想う者同士……きちんと話をしましょう」

剣を鞘に収めながらラヴィスが言う。

「……何を要求する?」

ルチアが問うと、ラヴィスは思案するように片手を顎に当てて、やや後ろを向いた。

「そうですな……」

その時、成り行きを見守っていたエイジャは、ラヴィスの片足に力がこもったのに気付いた。

「……ルチアッ!」

収めかけた剣を抜いたラヴィスの体がルチアに突進する。

「くっ・・!」

「ガルディアス・ダーガ!」

エイジャの詠唱が一歩早かった。ラヴィスの剣はルチアの手前で弾かれ、咄嗟にルチアは剣を振りかぶる。

「やめてっ……!」

ロミーナの叫び声が、ルチアに一瞬の迷いを与えたのか、すんでの所で剣を避けたラヴィスは部屋の右手に走り出した。

けたたましい音を立てて扉を蹴破り、外に飛び出す。すぐにルチアが後に続く。

扉は廊下に続いていた。ラヴィスは廊下に帯のように倒れ、呻いている部下達の姿を目にして舌打ちする。

部下の体を躊躇無く踏みつけながら足を進めるラヴィスに、足蹴にされた男が縋り付いた。

「ラ……ラヴィス様……!」

「ええい、邪魔をするな!」

足を振って男を振り落とそうとするラヴィスを、なおも他の男が引き止める。

「どこへ行かれるのです、私達はどうなるのですか……!」

「お前らの事など知らん!離せ!」

「そんな……ラヴィス様……!」

「所詮お前ら等使い捨ての駒に過ぎんのだ!気安く触るな!身の程をわきまえよ!」

主の言葉に衝撃を受けたか、縋り付くのも止めて体を震わせた男の体を、ラヴィスは手にしていた剣で払った。

「ぐああっ……!」

倒れこむ部下の方を振り返る事もなく、くるりと向きを変えて逃げようとするラヴィス。

追いついたルチアが剣を構え直した時、ラヴィスの体は後ろから衝撃を受け、前向きにつんのめった。

「あ・・あ……お前、なんて事を……!」

ラヴィスの口から恨みの言葉が漏れる。背中を見ようと首を回す。

背中には一本のナイフが刺さっていた。

「嘘だ……嘘だ……ラヴィス様、私らが使い捨てだなんて……嘘だと言って下さい……!」

ぐらりと体勢を崩したラヴィスの後ろに立っていたのは、今しがたラヴィスによって剣を振われた男だった。

肩から胸にかけての傷は、ラヴィスにたった今つけられたものだが、致命傷に至る程に深いらしく、顔色はすでに死人のように白い。

「ぐっ……そ、そうだ……!使い捨てだなどと言ったのは、嘘だ……!早く治癒を……!」

ラヴィスは自分を刺した男の腕に縋り付いた。

「ラヴィス様……」

男は少し微笑んだように見えた。

「早く、早く治癒の術をかけんかっ……、お前はもう死ぬ!その前に早く私の傷を治せ、この野郎っ……!!」

ラヴィスが叫ぶ。

男は表情を変えず、一歩後ろに引いた。

「やはり……それがあなたの本心……あなたに付いてきた我々も……皆……一緒に……ここで死ぬのです」

息も絶え絶えに、男はがくりと膝を付いた。

「フィアマ・エスト」

男の体から炎が噴き上がった。

「何を……貴様……!!」

炎に焼かれながら、男は詠唱を続けた。炎は一瞬のうちに辺り一帯に燃え広がった。


(まずい……残りの命を魔力に変えたか……!)

あっけにとられて一連のやり取りを見ていたルチアは、急いで部屋に戻る。

「エイジャ!火に飲まれる!逃げるぞ!」

ルチアは床に座り込んでいたロミーナを担ぎ上げた。

「階段の方はもう火が廻っている。窓から降りるぞ」

「わ、分かった……ってルチア、ここ何階なの!?」

「5階、最上階だ」

部屋の窓に走り寄り、窓を開けて下を見下ろす。

下の階の窓のひさしが足場になりそうだった。

「エイジャ、お前は身軽だからいけるな?」

「俺一人なら大丈夫だけど……ルチア、ロミーナさん抱えていけるの!?」

「行ける所まで行く。下にフェルダがいるはずだ。何とかしてくれと言えば何とかするだろ」

「ちょっ……そんな適当な……」

言いながらエイジャは窓に足を掛けたが、はっと表情を変えて足を戻した。

「どうした?」

「魔道具!さっき取られた!取り返さないと……」

「魔道具って……いつも持ち歩いてるやつか?そんなに大事なのか?」

「大事だよっ、俺、探してくる!」

きびすを返して部屋を飛び出そうとしたエイジャをルチアが慌てて引き止めた。

「待て、もうそっちは火が廻ってる!」

「だって、おじいちゃんの形見なんだ……!」

泣き出しそうな顔をしたエイジャを見て、ルチアは髪を掻きむしった。

「ラヴィスが持ってるのか?」

「ううん、魔術師の男だよ。いなかった!?」

(魔術師の男……火事を起こした張本人か!身につけているのならもうすでに燃えているかも……)

「分かった、そいつの居場所は俺が知ってる。取りに行ってくるから、お前は先に降りてろ」

「だめだよ!俺が行く!俺が顔を知ってる!」

「俺もそいつの顔は見た、大丈夫だから先に行け!」

ルチアは窓から身を乗り出して叫んだ。

「フェルダッ!!いるか!?」

「いるかって、いるわよずっとーっ!何してんの!?どうなってんのよ、人がどんどん出てきてるわよ!何なのその煙!?」

窓の下からフェルダとベルが声を張り上げる。

「火事だ!エイジャとロミーナさんを落とすからお前何とかしろ!」

「なんとかって……ちょっ、待って!5秒待って!」

フェルダが詠唱を始めたのを確認し、ルチアはロミーナの身体を窓から落とした。

「……キャアアアアーーッ!!!」

茫然自失していたロミーナが、落下途中で気が付き絶叫する。

「グラーブ・フォア!」

フェルダの詠唱が響く。ロミーナの身体は地表まであと少し、というところでピタリと落下を止めた。

「ごめんなさいロミーナさん、荒っぽい男で」

フェルダがロミーナを抱き寄せて立たせる。

「エイジャ!あなたも来なさい!」

「だって、ルチアが……」

エイジャはおろおろと部屋の中を振り返る。

「ルチアの言う通りになさい、後で怒られるわよ!」

最後の一言が効いたらしい。フェルダの詠唱に合わせ、エイジャは窓から飛び降りた。

宙でうまくバランスを取り、足から着地する。

「ふう、フェルダさんすっごい重力コントロール……俺も習いたい……」

ベルがエイジャの顔を見て悲鳴を上げた。

「どうしたのっ!?その顔!血まみれじゃないっ!!」

「あ……、大丈夫、たぶん前の古傷が開いちゃったんだと思う。そんなに血出てる?」

ベルが真っ青な顔してコクコクと頷いた。

「その顔じゃ、ルチアが相当怒ったでしょう」

フェルダに言われて、エイジャはしゅんと肩を落とした。

「後で説教だって」

「ま、そうでしょうねぇ。で、ルチアは?何してるの?」

「俺の魔道具を取り返しに行くって……」

「あ〜あ……いいカッコしちゃって」

フェルダが悩まし気に髪をかきあげた。


ホテルの玄関からは、火の出た最上階より下の階の客達が次々と走り出てくる。

通りの向こうから街の消防団がやってくるのが見え、同時に周辺の店の住民達がバケツリレーを始めた。

エイジャ達も消火活動に加わり、ホテルの客も皆が協力した事で、火は最上階とその一階下を少し焼いたところで消し止められた。



明けましておめでとうございます。

昨年はたくさんの方に「金の王 銀の姫」を読んでいただき、とても嬉しかったです。ありがとうございました。

今年も、最低でも週1更新を守ってがんばって続けていこうと思います。

というわけで一年の計は元旦にあり、で1月1日0時の更新。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

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