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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
30/87

(20)大女優と冒険者

「エイジャ!ひさしぶりね、びっくりしたわ。舞台を観に来てくれたの?」

まだ化粧を落としていない、舞台衣装のままのロミーナが、嬉しそうにエイジャ達を迎えた。

「はい、すごく良かったです。俺、感動して……」

「客として観るのは初めてだったのね。あなたのこんな顔、初めて見るわ」

ロミーナはまた泣き出しそうになっているエイジャの顔を自らのハンカチでぬぐった。

「この街には仕事で来たのかしら?」

「はい、そうなんです。そうしたら偶然、ロミーナさんが舞台をされてたので……」

「嬉しいわ。その格好もよく似合っていて素敵よ。

そちらは?」ロミーナはフェルダとベルの方に視線を移した。

「あ、今一緒にお仕事をしている……仲間なんです。こちらがフェルダさん、それから、ベル」

「初めまして、ロミーナさん。アタシ、ずっと以前からあなたのファンで……今日はエイジャにお願いして、図々しくも押し掛けてしまってすいません。今夜の舞台もすごく素敵でしたわ」

フェルダが挨拶し、ロミーナは笑顔を見せた。

「ありがとうね。エイジャにこんな仲間がいたなんて、知らなかったわ。

 そちらのお嬢さんも、かわいらしいこと」

「あ、私、ベルです……初めまして。舞台、すごく良かったです」

ベルが緊張しながら挨拶する。

「よろしくね、ベル。あなたはエイジャの恋人なのかしら?」

「ええっ、そんな、恋人だなんてっ、そのっ、そんなんじゃ!」

ベルが顔を真っ赤にして手を振った。

「こんなにきれいな女性を二人も連れて、両手に花ね、エイジャ」

くすくすと笑いながら、ロミーナがエイジャに言った。

「あ、もう一人仲間がいるんです。今夜は来れなかったんですけど」

「あら、そうなの。残念ね。私はまだここで公演があるけれど、あなた達はまだこの街にいるのかしら?」

「いえ……明日にはもう立つんです」

「まあ、慌ただしいのね」

ロミーナは残念そうに言った。

「まあ、あなたにはまた王都に戻ったら会えるものね。エイジャ」

「はい、ありがとうございます。その時は、今日みたいに泣かないでちゃんとボディガードをしますから」

エイジャの言葉を聞いて、ロミーナは笑った。



「あなた方、この後お時間は?この劇場の地下にバーがあるの。私、公演の後はいつもそこでお酒を頂くのよ」

ロミーナが言った。そういえば、王都の劇場でもロミーナは舞台の後は必ずバーに立ち寄っていた。

「もうぜんっぜん何の予定ありませんわ!アタシもお酒が大好きで!」

大乗り気のフェルダに、エイジャが尋ねる。

「フェルダさん、ルチアが待ってるんじゃないですか?」

「いいのいいの。劇場に行く事は書き置きしてきてあるんだし。きっと部屋で休んでるわよ。

あのロミーナ=アイマーロとお酒が飲めるのよ!?こんなチャンス逃してなるものですか!」

なんとしてもこの機会を逃すまいとするフェルダに、エイジャは苦笑して頷いた。


劇場地下のバーは会員制で、客は身なりの良い金持ち風の人間ばかりだった。

ベルが居心地悪そうにきょろきょろと辺りを見回している。

エイジャもプライベートでこのような場所で飲んだ事はなかったが、ロミーナのボディガードとして出入りしていた経験があるため、ベルよりはいくらか落ち着いていられた。

フェルダは慣れた素振りで高級酒を注文し、ロミーナとお芝居の話に花を咲かせている。

「この劇場は、思い出深い場所なの。初めて立ったときは、私はまだ旅芸人の一座にいて、前座として立ったのよ」

ロミーナの話を聞いて、エイジャはベルに話を振った。

「ベルもそうだよね。前座として立った事があるんだろ?」

「う、うん。こんなちゃんとした劇場に立つ事ってほとんどなかったけど、母さんがここの支配人と知り合いだったみたいで」

「まあ、あなたもそういう仕事を?」

ロミーナが興味を示し、ベルの方へ体を向けた。

「いえ、もう昔の事ですけど。子供の頃、家族で旅芸人の一座をしていて。一度だけ、前座に上がった事があるんです。今は家族は皆、亡くなってしまったので」

「まあ……なんて事。かわいそうに」

ロミーナは心底同情するような表情を見せた。

「私も子供の頃から旅芸人として国内を旅していたのよ。もう記憶もおぼろげだけど、生家はとても貧乏でね……。口減らしのために、旅芸人の一座に売られたのね。

一座には同い年の仲良しの女の子がいて、私はいつもその子と二人で歌を歌っていたものよ。

あなたを見ていると、彼女を思い出すわ」

大女優に見つめられて、ベルは一層そわそわと視線を泳がせた。

「いつまでも彼女と一緒に旅をするんだと思っていたけど……座長の男が、何か悪い事をしたみたいで捕まってしまって、一座はバラバラになってしまったの。ちょうどあなた位の年の頃だったわ。

彼女は、同じ一座にいた男の子と一緒になったって噂を聞いたけど、今はどうしているのか……」

「ロミーナさんは、その時から女優さんになったんですか?」

「ええ……私は、面倒を見てくれる人が現れてね。その人の力添えで、女優として舞台を踏ませてもらうようになって……最初は端役ばかりだったけど、少しずついい役を付けてもらえるようになって。

あの時、彼に会って歌劇女優としての道が開けなければ、今頃どうなっていたか分からないわ」

「とてもいい出会いをされたんですね」

フェルダが頷く。

「そうね……そう。あの出会いが、全てね……」

ロミーナは少し遠くを見るような目つきをした後、視線を手元のグラスに落とした。



劇場の裏手で待機していた馬車の前で、ロミーナはエイジャ達を振り返った。

「今夜は付き合って下さってありがとうね。また王都での公演の時には招待状を送りますわ」

「やだ、本当ですか!?ありがとうございますっ、嬉しい〜っ」

フェルダが感激して答えた。手には首尾よく手に入れたロミーナのサインがある。

「ベルさん、機会があればまた舞台に立ってごらんなさい。一度経験した人間は、舞台の感触を忘れられないものよ。私の力添えが必要な時は、言って頂戴ね」

「あ、はいっ、ありがとうございます……」

ベルは急いでお辞儀した。

「エイジャはまた、ボディガードとしてのお役目、お願いするわね」

「はい、また王都で」

エイジャは答えながら、ふと馬車の背後を横切る人影を見た。随分と急いだ様子で、早足で歩いていく。馴染み深い、すらりと背の高いシルエット。

「ルチア!」

突然どこからか掛けられた声に、ルチアは立ち止まって辺りを見回し、走り寄ってきたエイジャに気付いて顔を向けた。

「なんだ、エイジャ。何をしてるんだ?」

「ルチアこそ。俺達、ホテルに手紙を残してきたんだよ。読んでないの?」

「これからホテルに向かう所だったんだ。お前、その格好は?」

そう言われてエイジャは自分が正装だった事を思い出し、少し恥ずかしくなって視線を落とした。

「俺達、劇場でお芝居を観てたんだよ。来て、紹介したい人がいるんだ」

エイジャはルチアの腕を引き、ロミーナの前に連れて行った。

「ロミーナさん、もう一人の仲間のルチアです。

ルチア、こちらが今日のお芝居の主演をされてたロミーナさんだよ。王都で公演される時は、俺がボディガードをしてるんだ」

ルチアは面食らったようにロミーナを見つめた。

「ロミーナ=アイマーロ?」

「私をご存知ですの?光栄ですわ」

「いや、それは……当然、王都に住む者なら、皆存じ上げてますよ。

エイジャ、ボディガードなんてしていたのか?大女優じゃないか」

「うん、そうだよ。今日偶然ここで公演されてたから、ご挨拶に行ったんだ。お芝居、すっごく良かったよ」

「エイジャったら、号泣しちゃって大変だったのよねぇ」

フェルダが笑う。

「私がお誘いして、お酒に付き合って頂いてましたの。ご一緒できれば良かったですわ」

ロミーナはそこまで話して、ふと何か思い当たったようにルチアの顔を見つめた。

「……ルチア、さんと仰いましたね?……どこかでお会いした事が?」

「いえ……、ただ、私もエイジャと同じように、普段は王都におりますので。王都のどこかでお見かけした事があったのかもしれません」

「まあそうでしたの、どうりで。いえ、知っている方にどこか似ているように思ったものですから」

ではごめんあそばせ、と優雅な動作で礼をとり、ロミーナは馬車に乗り込んで去って行った。

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