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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
23/87

(14)正論と私情

「ええっっ!!何それ!?もうあの三人の身柄を王都に移しちゃったって……どういうこと!?」

もう太陽が真上に昇ろうという時刻になってから囲んだ、朝食の席で。

ベルは思わずテーブルに両手をついて立ち上がり、向かいの席で美しくナイフとフォークを使うルチアに詰め寄った。

「これから先の尋問は王都で俺達の手の者が行う。報告は随時入る予定だ。俺達は先を急ぐ」

「だって……話は明日聞くって、フェルダさん……」

「あら、アタシ達が直接尋問するとは言ってなかったと思うけど……だいたい、アタシの尋問ってエグイわよ。見たかったの?」

フェルダがニヤリと笑い、ベルは背筋に寒気を感じて椅子に座り直した。

「ベル……あの人達に、聞きたい事があったんじゃない?」

エイジャが心配そうにベルの顔を覗き込んだ。

「……」

「お前の双子の弟の事は、何か知っている事がないか聞き出すように指示してある。後で弟の名前や背格好なんかの情報を纏めて送る手はずになっているから、心配するな」

ルチアはそう説明したが、ベルは答えず、朝食に手を付けないまま席を立って部屋を出て行ってしまった。


「ねえ、ルチア。ベルは……自分で聞きたかったんじゃない?」

エイジャが言うと、ルチアはナイフを置き、無作法に肘を付いた。

「あいつは人攫いに対して私怨が深すぎるんだ。もしかしたら聞きたくないような話を聞かなければいけないかもしれないからな」

「ベルはどんな事でも、自分の耳で聞きたかったんだよ、きっと……。

それで傷つく事があったとしても、弟さんの足取りを自分の手で掴みたかったんじゃないかな」

「あいつがあの調子でキャンキャンがなりたてた所で、口を割るような連中じゃない。専門家にまかせて確かな情報を得る方があいつにとってもいいだろう」

ルチアの言葉を受け、フェルダが口を挟む。

「ベルちゃんには申し訳ないけど、あいつらの尋問にはかなりの慎重さが必要なの。

こちらがベルちゃんの弟さんの情報を欲しているっていう事を相手に掴まれたら、それをあちらの交渉材料にされてしまうわ。

相手のペースにさせる材料を持ち込むわけにはいかないのよ」

つまり、ベルの弟の事は最優先事項ではないということ。

フェルダが言った事の意味を理解し、エイジャは唇を噛んだ。

分かっている。これは二国間の、ひいては大陸全土を巻き込むかもしれない戦争に関わる問題。フェルダの言っている事は正しい。

でも……ベルの気持ちは?

エイジャは何も言い返せず、手早く食事を済ませて席を立った。



ベルの寝室の扉をノックしてみたが、返事はない。

家の中を一通り探し歩いてみたが、ベルの姿はなかった。

(外に出たのかな……)

エイジャは玄関から外に出、ベルの姿を探しながら大通りに向かって歩いて行った。


大通りは買い物客でごった返していた。

商人の街らしく様々な店が立ち並ぶ通りを、人ごみの中にベルの姿がないか、きょろきょろと見回しながら進む。

しばらく歩いた所で、大きな包みを抱えて店から出てきたベルの姿を見つけた。

「ベル!」

名前を呼んで駆け寄ると、ベルはぱあっと顔を綻ばせた。

「エイジャ……追って来てくれたの?」

「うん、ベル、傷ついたんじゃないかと思ってさ……、何、これ?」

持つよ、とベルの抱えていた包みを受け取りながら、エイジャは尋ねた。

「買っちゃった♪ストレス発散には買い物が一番だもん。ね、ね、どう?これ」

ベルがくるりと廻って見せる。先程朝食の席で着ていたのとは違うワンピースを着ていた。

ウエストからふわりとスカートが広がり、裾にはレースが縫い付けられている。

明るい蜜柑色がベルのキャラクターによく合っていて、ベルを年頃の娘らしく可憐に見せていた。

「よく似合ってるよ。かわいい」

エイジャが微笑むと、ベルは頬を赤く染めてはにかんだ。

「ね、エイジャ、お茶飲まない?私、朝ご飯食べてなかったからお腹すいちゃった!付き合って」

そう言ってエイジャの腕を引いた。

「いいけど、俺お金持って来てないよ」

「大丈夫!これがあるもん」

ベルはバッグから金色のカードを出して見せた。

カード中央には王宮の紋章が刻印されている。そういえばユズールの町で買い物した時に、ルチアがこれで清算していたっけ、と思い出した。

「王宮騎士団のゴールドカードよ。ルチアから借りてきちゃった」

「えっ、ルチアが貸してくれたの?」

ルチア、ああ見えてベルにもちゃんと優しくしてるんだな、とエイジャは考えたが、

「まさか、あの男が私にこんなもの貸してくれるわけないじゃない。さっきルチアの部屋から取ってきたのよ」

二の句が継げずに絶句しているエイジャに、何とも無さげにベルが続ける。

「あいつ、ちょっとガードが甘いわよね。さすがにお届け物の書簡とか剣なんかは部屋には置いてなかったけど、財布もカードも部屋に置きっぱなしなんて信じられない。どういう育ちよって感じ」

「……後で怒られるよ?」

「どうせカードでツケた分、後で王宮に請求がいくだけだもん。誰が使ったかなんて分かんないし。帰ったらコッソリ戻しとくから大丈夫♪

ね、ね、何食べる?悔しいからおもいっきり贅沢しちゃおうよ。

なにが『指示してあるから心配するな』よ。私を挟んだら面倒な事になるから、黙って勝手に送致したくせに。協力だけさせといて、私の弟の事なんか結局どうだっていいのよ。ルチアのバカ!変態!」


口は悪いが、言い分はもっともだとエイジャは思った。

ベルは弟の行方を追うために、エイジャ達に協力してくれているのだ。昨夜もベルは男達を捕縛したりと大活躍したのに、一言の相談もなく、身柄を移してしまうなんてちょっとあんまりだと思う。

……フェルダとルチアの意見が正しい事が分かっているだけに、「私情を挟むな」と、自分も言われたような気がして。

だからさっき、何も言い返せなかったんだ。


「よしっ、何かすっごくおいしくてすっごく高い物食べちゃおっか!ルチアのカードで!」

「そうそう!あと、後で王宮に請求がいった時に『お前何買ってんの?』って担当者にニヤニヤされちゃうような恥ずかしい物買っちゃいましょうよ!ルチアのカードで!」

おー!と盛り上がるエイジャとベルだった。


店を物色しながら繁華街を歩いていると、後ろから掛けてくる声があった。

「エミリー!」

この名前で呼ぶ人間は限られている。

「ザック!」

ザックは笑顔で近付いてくると、素早くエイジャの全身を見回した。

「もう傷、大丈夫なのか?エミリー……って、あ、エミリーなんて女の名前なわけないか……」

気まずそうに言ったザックに、エイジャは苦笑した。

「うん……ごめん。俺、エイジャって言うんだ。エミリーっていうのは、あの時咄嗟に付けた名前。

傷はもう大丈夫。一応まだ絆創膏はしてるけど、もう痛みはほとんどないよ」

ほら、と前髪を上げ、額の絆創膏を見せる。

「そっか……良かった」

ザックは心底ほっとした顔をした。

「エイジャか。うーん、いまだに信じられないや。男だなんてさ……」

「あんたも変態仲間?エイジャに変な気起こさないでよね」

ベルがエイジャの腕に抱きついてザックを睨む。

「あ、君は昨日の」

「ベルよ」

「縄をかけるのが異様にうまかった女の子だね。素人とは思えないくらい」

「……あんたもとろくさそうに見えて結構いい性格してるわね」

ベルとザックの間に流れる不穏な空気を察し、エイジャが慌てて話を変える。

「あの、ザック、今から店!?」

「あ、うん。ディノさんはいないけど……女の子達はいつも通り、出勤してくるしさ……」

「そうだね……。お店、どうするの?」

店に向かって一緒に歩きながら、エイジャは尋ねた。

「うん……昨夜さ、エイジャ達と別れてから、ノーラやセルマ達と話したんだ。

女の子達はみんな、あの店が好きなんだ。

ディノさんがやってきた事は許せないし、今でも何か信じられないけど……。

今まで、王都に転勤した子達……つまり、売られてしまったって事だけど……その子達が無事でいてくれて、もし戻ってくる事ができたら……

家族なんかいない子もいたし、あの店しか帰ってくる場所ってないと思うんだ。

その為にも、店は続けるべきなんじゃないかって」

「そっか……。それがいいかもしれないね」

「ディノさんは、どうなった?エイジャ達がどこかに連れて行ったんだろ?」

「ああ、もう王都に送致されたよ。これから、王宮で詳しく話を聞く事になると思う」

「王宮で?ああ、そっか……エイジャ達って、王宮に使える秘密結社のメンバーなんだよな」

「ひみつけっしゃ!?」

エイジャが驚くと、ザックは声を潜めた。

「大丈夫、誰にも言わないから。それで、反国家分子の調査をしてるんだろ?昨日ベルに聞いたよ」

ベルを見ると、しれっとした顔でよそ見をしている。

ああ、そういう事にしてあるのか。

エイジャは納得して、話を合わせる事にした。

「そ、そうなんだ。だから、ディノさん……ディノは、もうここに戻ってくる事はないと思う」

「そっか……。そうだよな」

ザックはつぶやいた。

「なんか……悪人だって分かってはいるんだけど、変な気持ちだよ。

乱暴だったし嫌な奴だなって思う事は多かったけど、女の子達を人買いに売るなんて、そこまでしてたのかってさ……」

「あいつに同情しちゃだめよ。あんた達に見せてたのは表の顔。

人身売買以外にもありとあらゆる事やってんだから」

ベルが言い放つと、ザックは黙り込んだ。

「そうだよ、ザック。ディノさんの事は忘れて、ザック達がいいお店にしていけばいいと思うよ。

ザック、優しいし面倒見がいいから、きっといいオーナーになるよ。昨日、セルマさん達もそう言ってたしさ」

エイジャが言うと、ザックは苦笑した。

「みんなは俺が支配人になって、ノーラがママになるのがいいって言うんだけどさ。

でも、勝手に支配人になんてなっちゃっていいのかなぁって思うよ。

第一、店の権利書なんかは金庫に入ってるはずだけど、金庫の鍵がないし」

「あら、そんなの気にする事ないわよ。もうディノは戻ってこないんだもん。勝手にもらっちゃえばいいのよ。

権利書の場所も分かってるんなら、何も怖くないじゃない」

「でも、鍵が……」

「あーもう、鍵ぐらい私が開けてやるわよ。行きましょ」

足を速めたベルに、エイジャとザックは慌てて付いて行った。






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