表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
22/87

(13)潜入捜査-7

お互いの無事を喜び合った後、ザックはエイジャの身体のあちこちに残る傷跡を見て、顔をしかめた。

「エミリー……なんか気を失ってたって聞いたけど、大丈夫なのか?傷だらけだし……」

ザックに心配そうに尋ねられ、エイジャは笑って答えた。

「うん、もう大丈夫。

ザック、ごめん。いろいろ……黙ってて」

「ああ……」

ザックは頭を掻いた。

「セルマとエステラに聞いた……

あの……エミリー、男だって………本当?」

恐る恐る、といったふうに聞いてきたザックに、エイジャは苦笑しながら頷く。

「……しんっっっっじらんねえ……」

はあああ、とものすごく大きなため息を付いて、ザックはその場にしゃがみこむ。

エイジャは慌てて自分もしゃがみこみ、ザックに目の高さを合わせた。

「ごめん!ほんとにごめん!そういう作戦だったんだ。あの店が怪しいっていう話があったんで、潜入捜査しなくちゃいけなくて……俺、こんな見た目だから、女装して潜り込んだんだ……騙してごめん!」

しゃがんだ姿勢のまま、膝頭に額を付けて謝るエイジャを、ザックは泣きそうな顔をしながら見つめる。

「いや……エミリーは悪くないよ……エミリーがいなかったら、ノーラもセルマもエステラも……俺も、あの人買いに売られてた。

エミリーに助けられたんだ。ありがとう」

「ザック……」

騙されていた事をなじる事もなく、礼を述べるザックに、エイジャは救われる思いがした。

ふいに熱い涙がこみあげてきて、エイジャは勢い良くザックに抱きついた。

ザックはバランスを崩して尻餅をつき、目を白黒させる。

「ありがとう!ザック、ほんとにごめん!なのに、許してくれて……ほんとにありがとう!」

「ああああああの、エミリー、いやその、分かってんだけど、男同士なんだけど、なんかこの状況やば、っていうか向こうでエミリーの仲間の男がすげえ顔してんだけど!!!」

狼狽えるザックの視界の先には、ザックを殺さんとばかり射るように睨みつけてくるルチアの姿があった。



エイジャ達が乗ってきた馬車に店の女の子達を乗せ、ザックが御者をしてザクセアの街へ戻る事になった。

もう一台の馬車には客車に捕縛した二人の男と一命を取り留めたディノ、見張り役にフェルダが同乗し、ベルが御者をしている。

二頭の馬にエイジャとルチアが乗り、馬車の後ろを付いて歩く。

捕縛した男達の見張りをフェルダ一人にまかせるのは危険ではないか、とエイジャは尋ねたが、ルチアが「フェルダ一人で十分」と言い切った所を見ると、心配ないのだろう。

見覚えのある峡谷まで戻ってきた所で、一行は進行を止めた。

馬車の客車の扉が開き、ノーラが飛び降りて木に縛り付けられていた恋人の元へ走る。

「ブルーノ!!」

「ノーラ!!」

ブルーノの縄をほどいているノーラの姿を馬上から見ながら、ルチアが少しきまり悪そうに呟く。

「あの男は連れて行くと足手まといになりそうだったから、置いて行ったんだ」

「ひどい、ルチア」

エイジャが口を尖らせて抗議すると、ルチアが肩をすくめた。

「俺達がここを通った時、木に縛り付けられたまま大騒ぎしてたんだぞ。こっそり後を付けてるってのに、あんなうるさいのを連れて行ったらどうなる」

それは……仕方がないかもとエイジャも納得した。

「でもブルーノさんは、ノーラさんを助ける為に一人で追いかけてきて、危険を顧みず、馬車を止めたんだよね。ノーラさんは、嬉しいと思うよ」

恋人達が人目も憚らず再会を喜び合う様子を見ながら、エイジャがぽつりとこぼした。

「……お前なら、嬉しいか」

ルチアに尋ねられ、エイジャはうーんと唸った。

「どうかな……。それより、大事な人には、危ない事しないで欲しいな」

エイジャの答えに、ルチアはため息をつく。

「そう思うなら、お前ももう少し自分の身を大事にしてくれ……」

「ん?何か言った?」

「いや、いい。ほら、行くぞ」

ブルーノの馬は主から遠く離れる事なく、すぐ近くの木陰にいた。その馬にブルーノとノーラが仲睦まじく二人乗りして、一行はザクセアの街に戻った。



ザクセアの街に着くと、ザックやノーラ達を店まで送った後、ディノと人買いの二人の身柄はフェルダの店へ移された。

すぐにザクセアに駐屯する王宮兵に引き渡すのかと考えていたエイジャは面食らったが、成る程、この人買いの存在自体が、シアル大公の侵略行為を証明する事になるかもしれないのだ。安易に王宮兵に渡してしまうわけにもいかない。


フェルダが店の奥の部屋のクローゼットの扉を開け、掛けられていたドレスを横に寄せると、奥に出てきたのは地下に続く長い石の階段だった。

思いも寄らない光景に言葉を失っているエイジャをよそに、ルチアはディノ達を連れ、慣れた様子で階段を降りて行く。

ディノ達は意識はあるものの、まるで夢遊病者のように虚ろな目をして、おとなしく指示に従っている。

その姿に薄気味悪さを感じながら、エイジャとベルも後に続いて階段を降りて行った。


「さ、入りなさい」

地下にあったのは石壁に囲まれた鉄製の牢獄だった。

ディノ達は何の抵抗も見せず、素直に牢獄に入って行く。

フェルダがカチャリと扉に鍵を掛けて振り向いた。

「お疲れさま。話を聞くのは明日にして、とりあえず少し休みましょ」

「あ……はい」

エイジャがまだ緊張を解けずに答えると、フェルダは微笑んで見せた。

「大丈夫よ。催眠術が掛かってるから、この三人にも朝まで寝てもらうわ」

フェルダは男達に向かって、小声で何かを命じた。すると、立ち尽くしていた男達はがくりとその場に膝をつき、体を横たえて眠ってしまった。

「フェルダさん……そんな術も使えるんですか」

「こっわー……。一番敵に回したくないタイプね」

エイジャとベルが少したじろいでいるのを見て、フェルダがおかしそうに笑う。

「そうよぉ。アタシを敵に回すとコワイわよ〜!」

無言で頷くルチアが、その言葉に間違いがない事を示していた。



浴室で汚れを落とし、一人に一部屋があてがわれた寝室で、エイジャはようやく肩の力を抜いてベッドに倒れ込んだ。

ああ、長い一日だった。

もう外はうっすらと白み、夜明けが近い……

(フェルダさんは、明日は寝坊していいからゆっくり休めって言ってくれたし……お言葉に甘えちゃおう……)

緊張が解けた途端、一気に眠気が襲ってきて、エイジャは眠りについた。


同じ頃、ベルはまだ眠れずにベッドで横になっていた。

疲労困憊ながら寝付けずに考え続けていたのは、捕らえた男達の事だった。


取引現場に追いついてすぐの事、飛び出して行ったルチアが取引相手の男達を切り、そのまま二人を放り出してエイジャを追いかけて行ってしまったので、後を追ってきたベルが急いで二人を捕縛した。

一応、こういう時の縄の掛け方は心得ている。そんな自分に呆れながらも手際良く縛っていると、男の一人が薄らと目を開けた。

(ヤバッ!)

ベルは手近にあった石で男の頭を殴りつけ、再度昏倒させた。だが、殴りつける瞬間、男がベルの顔を見て放った一言に、耳を疑った。

「ノエル様!?」

ゴン、と鈍い音を立てて石が命中し、男は気を失った。

ベルは手にした石を取り落として、今自分に向けて放たれた言葉を頭の中で繰り返した。

(ノエル、さま……!?)

その名は、忘れる訳もない、生き別れとなった自らの双子の弟の名前だった。


ノエルなんてありふれた名前……どこにでもある。

意識朦朧としていた男が、自分を誰かと見違えて、意味もなく口走った名前だろう……

そう考えようとしても、やはり疑いが頭をもたげる。

あまり似ていないと言われながらも、その言葉には「双子の割に」という前置きが付いていた。目や口元なんかは、やっぱり双子だと言われていた。

あの男は、弟の所在を知っているのではないか。双子の自分の顔を弟と見違えて、咄嗟に名を呼んだのでは……

しかしそうだとすると、なぜ「様」を付けたのか。

人買いに売られていった弟が、人買い達に「様」を付けられる立場にいるとは考えられない。

やはり偶然の一致、人違いだきっと……


何となく、誰にも話す事はできなかった。

ルチアとフェルダは王宮の人間だ。今は目的が一致して行動をともにしているが、いざという時、自分の弟の身を最優先にしてくれる確証はない。

エイジャは心からベルの身を案じてくれているが、それだけにルチア達に隠し事をさせる気にはなれなかった。

明日になったら……フェルダが男達に話を聞くはずだ。隙を見て、ノエルという名に心当たりがあるのか、聞いてみよう。

そう思うと、どうしてもベルの意識は研ぎすまされてしまい、眠りに付く事はできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランキングクリックして下さった方、どうもありがとうございました!

皆様の↓クリックから執筆のモチベーションを頂いておりますのでよろしくお願いします。

◆◇◆◇◆◇◆【 NEWVEL 】ランキングクリック◆◇◆◇◆◇◆

今月もよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ