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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
2/87

(2)ローブの男

王宮裏門を守る番兵に組合からの紹介状を見せ、正門に比べればこじんまりとした、だが一般の貴族の家の正門よりも余程大きな扉を開いてもらい、中に控えていた兵に案内されて廊下を進む。

いつも依頼を受ける控え室の前を通り過ぎ、その先の階段を上がる。通された部屋は身分の高い人物の執務室といった趣きで、エイジャは「今回の案件は、いつもとはちょっと勝手が違うらしい」と気づいた。

程なくして、依頼主であろう男性がローブ姿の人物を伴って現れ、その場に膝をついて礼を執る。

「エイジャ・キュラビオだな。良い、顔を上げよ」

「はい」

許されて顔を上げる。

細身だが威厳のある、壮年の男性。身なりからして王宮の宰相あたりではないかと察しを付ける。

隣に佇むローブ姿の人物は、顔をすっぽりとフードで隠しており面立ちを知る事はできないが、小柄とはいえない宰相よりも頭一つ分以上は背が高く、おそらくこちらも男性だろう。

「急いで呼び立ててすまぬな。いつも王宮からの依頼を如才なくこなしているとか。その腕を見込んで頼みたい仕事がある」

「過分なご評価、恐れ入ります。俺……いや、私でお役に立てるものであれば、何なりと」

「ふむ、今回は少し長旅になる。彼にシアル公国大公家へ書簡を届けてもらう、その任に付き従ってほしい。名はルチアという」

そういってローブ姿の男、ルチアを紹介した。

「シアル……公国……大公家!?」

告げられた目的地に驚いて思わずそのままを返してしまい、慌てて謝罪を口にする。

「驚くのも無理からぬ事。このような案件、本来なら王宮抱えの冒険者に任せる物……色々と事情があってな。お前は口が固く、王宮への忠義も厚いと聞いている。特例ではあるが、この依頼引き受けてくれるか」

「……精一杯勤めさせて頂きます」

そう絞り出すのがやっとだった。



今すぐに出発してほしいと依頼人に告げられ、エイジャはそのままルチアと連れ立って王宮裏門を出た。

「馬はどこに」

街への道を足早に歩きながら、初めてルチアが口を開く。

低いが艶のある、高貴ささえ感じさせる若い男の声。

やはりただの王宮抱えの冒険者というような感じではないな、とエイジャは考える。

「ああ……街の外れの馬小屋に世話を頼んで……マス。ええと、ルチア様は、馬は?」

「俺に対しては敬語はいらない。呼び名もルチアでいい。俺の馬は街門の外に準備させている」

「えっ、あ、そうなんですか?……っと。じゃあ、ルチア。えーと、お聞きだと思うけど、俺はエイジャ。魔術師。補助が得意。武術は全然ダメ。よろしく」

共に旅する冒険者として最低限の自己紹介をし、にこりと微笑んで見せる。

魔獣や野盗との戦いに巻き込まれる事もある為、まずはお互いの戦い方をある程度明かしておく事は無事に旅をすすめるのに必要不可欠だ。

「俺は魔術は使えない。剣士だ」

ルチアの返答に、エイジャは驚いて目を瞬かせる。

「へえ、そうなんだ。その姿、魔術師なのかと思った」

ルチアが深々と着込んでいるローブは、普通は魔術師が着るものだ。

「訳あって、この街の中では顔を出せない。まずは馬を飛ばし、隣街のユズールで宿を取ってから詳しい話を聞かせる」

淡々と簡潔に告げられる言葉。いかにも訳あり案件……本当にこれまでのものとは違う。気を引き締めて掛からないと……とエイジャは唇を引き結んだ。

第一、シアル公国大公家への書簡など、普通はどんな案件よりも最優先されて、王宮選りすぐりの冒険者をその任に当てるはずだ。

それが、この街の中では顔を出す事もできないと語る謎の男と、一介のフリーの冒険者に託されるなど……考えられない事だ。


アストニエル王国の東に位置するシアル公国とは、もう千年近く前、大陸を三分する大戦を経て不可侵の条約を結び、うまく共存してきた。長い時の中で、時には関係に緊張が走る事もあったが、三すくみの状態があるからこそ戦争に至る事はなく、何とか平和が続いてきた。

だが、シアル公国現大公の代になってから何かときな臭い噂を聞く。

野心に溢れ、領土拡大に息巻く大公が、不可侵条約を破棄してアストニエル王国に攻め込んでくるのではという憶測が、これまで何度も持ち上がっては消えてきた。

(戦争が……始まるのか?アストニエル王はどうお考えなのか……)

暗い考えに支配されそうになるのを、ぶん、と頭を振って切り替える。

(今は、とにかく依頼を無事に完遂する事を考えよう……書簡の中身は、俺には伺い知る事はできないんだし)



エイジャの愛馬を馬小屋から連れ出し、ルチアも王都街門の外で待機していた兵から馬を受け取って、ひたすら隣町ユズールへと馬を走らせる。

半刻ほど走った頃、ずっと黙っていたルチアがちらと後ろを見やった。

「……付けられていたか……」

「えっ?」

「エイジャ、追っ手だ。俺が切る。守りを頼む。お前も顔を隠せ」

言い終わらない内に馬から飛び降りたルチアに驚き、慌ててエイジャも馬を止める。言われた通り、襟元に巻いていたスカーフを口元の上まで引き上げ、目だけを残して顔を隠す。

敵の姿は見えない。が、ローブの下から剣を抜いたルチアには確信があるようだ。エイジャも詠唱を開始した。

ルチアと自分に守りを施し、神経を研ぎすませて敵の気配を探る。確かに近づいてくる。数は……?

敵は突然目の前に姿を見せ、切り込んできた。ルチアが気づいていなければ不意をつかれて命を落としていたかもしれない。

エイジャが張った守りの術にはじかれ、敵が一度距離を取る。人数は5人。顔は覆面で覆われて見えない。現れ方からいって、姿を隠す術を操る魔術師がいるはずだ。

大剣を手にしたリーダーらしき男がルチアに切り掛かる。守りの術が不必要なほど、軽々と大剣をかわして後ろを取る。背中への一撃を受け、男が倒れ込む。

剣を手にしているのは残り3人、1人は少し下がった所で詠唱を始めた。あれが魔術師。

エイジャも更に詠唱を繋ぐ。敵の魔術師の施そうとしている魔術を探り、それを相殺する。火には水を。闇には光を。

二人の魔術師の間で、目には見えない一見地味な応酬が続く。だが空間がビリビリと魔力で震える。敵の魔術を打ち消しながら、隙間を縫って攻撃魔術を練る。

その間にルチアは2人を片付けて、剣を持つ残り一人を標的に定めた。

が、深く被ったフードの視界の悪さに、今しがた倒した男が起き上がり、剣を振りかぶったのに気づくのが遅れた。

その時、詠唱へ没頭するエイジャの漆黒の髪が、魔力を受けてフワリとたなびき、攻撃魔法の準備を完了する。

「デ・トルナド・ゲベルト」

静かに発動を命じる。次の瞬間、襲撃者の体が次々と、突風を受けたように空に舞い上がった。

空中で一瞬静止した後、ルチアの目の前に、猛スピードで落下してきた五人の体が叩き付けられた。

到底立ち上がれない程のダメージを受けて呻く姿に、ルチアが声を掛ける。

「……その様子で、口が聞けるか?首謀者を話してほしいんだがな」

だが、5人は一瞬にして姿を消した。

「えっ、うそっ……空間転移術……!?」

人や物を、別の空間へ瞬間的に移動させる空間転移術。

古代には徳の高い魔術師が操っていたという話も聞くが、今ではその術の習得の難しさ、必要な魔力の膨大さから廃れてしまった秘術。王宮の魔術研究所で研究が行われているらしい、という噂を伝え聞くぐらいで、実際に目にした事などない。

そんなものを行使できるなんて、一体今の襲撃者達の正体はなんなんだ。

自分が関わろうとしている世界の、想像以上の危険さに戸惑うエイジャを、ルチアが振り返った。

「いい、どうせ口を割らない連中だ。追うよりも先を急ぐ」

3人と切り結んだとは思えないほど、全く息切れもせず、告げた。

「助かった。ありがとうな、エイジャ」

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