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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
18/87

(13)潜入捜査-3

「ルチア!どう?動きあった?」

店の裏口を見張っていたベルが、正面入り口を見張っていたルチアの様子を見にやって来た。

「裏口は今、フェルダさんが見てるから……ルチア?」

「あ?ああ、今、エイジャが出てきた。客を見送ってたようだ。一気に客が出てきたから、そろそろ閉店なんだろうな」

「あ、エイジャ出てきたんだ。こっちに気づいてた?問題ないか、合図できたらするって言ってたんだけど」

「ああ、手を振っていた。問題ないんだろう」

「……で?あんまり可愛いんで惚けてたわけ?」

ベルがルチアをからかうような、蔑むような眼差しを向ける。

「……何を言ってるんだ、お前は。

はっきり言っておくがな、何を勘違いしているのか知らんが、俺には男色の趣味はない。

エイジャに対してお前が想像しているような気持ちを抱くわけがないだろう」

「どうだか。王宮騎士団って男ばっかりだから男色が普通だって言うじゃない」

「なんだそれは。そんな話どこで聞いた?」

「前に王都で買った絵物語に書いてあったもの!」

ルチアは片手を額に当てて呻いた。

「そんなものはデタラメだ。

……だいたい、俺には婚約者がいるんだからな」

ベルは思ってもいなかったルチアの言葉に、口をぽかんと開けた。

「婚約者ぁ!?それって、女なの!?」

「当たり前だろう。男同士で結婚できるか」

「そうだけど……びっくり。ねえねえ、どんな人?どこで知り合ったの?王宮騎士団ってすっごくもてるっていうもんねー。ファンの一人だったとか!?」

「何でそんな事をお前に話さなきゃいけないんだ。

もう持ち場に戻れ。フェルダに閉店するようだと伝えておいてくれ」

「……はーい」

ベルはそれ以上追求してくる事もなく、素直にその場を後にした。

その後ろ姿を見送り、ルチアはため息をつく。


ベルの指摘は、悔しいが間違っていなかった。

店の扉が開き、出てきたエイジャの姿を目にして、先程自分に対して言い聞かせたエイジャ=弟説が早速ぐらついてしまった。

フェルダに化粧を施されたのだろう、エイジャは先程よりも更に女らしさを増していた。

酔っぱらいの客に抱きつかれているのを見て、相手の男を切り倒したくなった事は否定できない。

こちらに気づいたエイジャが手を振ってきたが、動揺していたルチアは手を振り返すどころか、反応に迷って顔を下に向けてしまった。

(何をやってるんだ俺は)

自分自身に呆れ返った所にベルがやってきたのだ。


結果的にベルの疑いをはっきりと否定する事で、ぐらついていた感情にピリオドを打つ事ができた……と思う。

そう、もしも……万が一、エイジャに対して、例えばベルの言うような、特別な気持ちを抱く事が……もし、あったとしても。

自分には婚約者がいて、エイジャにもおそらく恋人がいるだろう。あれだけ女性の扱いのうまい奴だ、もてないはずがない。

エイジャだって、俺が女として見ていただなんて知ったら、どれだけ嫌がるか。

自分の身に置き換えて考えてみると、迷惑な事この上ない。

(だいたい、今はこんな事で悩んでる場合じゃないんだぞ……

その為にエイジャは危険を冒して潜入捜査の任に付いているっていうのに、俺がこんな状態でどうするんだ)

ルチアはそう自分を叱咤し、頭を切り替えた。



閉店後の店内では、ディノを前にして女の子達が集められていた。

「今日もごくろうさんだったな。ちょっとしたトラブルはあったが、まあリナルド様もまたほとぼりが冷めればいらっしゃるだろう。

次に店にお見えになった時は、今日の事には触れないようにしろよ。

で、今日は王都への馬車が出る日だな。

今回栄転するのは……ノーラとセルマ、それにエステラだったな。おめでとう」

わっと店内に女の子達の拍手が沸き起こる。

名前を呼ばれた女の子が三人、ディノの元へ歩み出た。エイジャに休憩を取らせてくれた、リーダー格のノーラも今回の転勤メンバーの一人のようだ。

エイジャは急展開に面食らっていた。閉店後に、次に転勤があるのはいつなのか探りを入れようと思っていたら、今日だったとは。

「みんな、ありがとう。私達、王都に行ってもがんばるから、みんなもがんばって、この店を盛り上げて行ってね」

ノーラが三人を代表してそう謝辞を述べると、また女の子達から拍手が贈られた。

嬉しそうに顔を見合わせる三人。

本当に、王都への転勤というのはこの店では栄誉な事とされている事が分かる。

「……あの!」

エイジャは声をあげた。

女の子達が一斉にこちらを向く。

「なんだ?エミリー。どうした?」

ディノが尋ねる。

「あ、あの……あつかましいお願いなんですが……私も、王都に行きたいんですが……だめでしょうか……」


いちかばちかの賭けだった。

女の子達から次に馬車が出る日時や人数などを聞き出して帰り、ルチア達とどういう形で取引現場を押さえるかを検討する予定だったが、それが今晩とあってはこのまま帰るわけにはいかない。

ノーラ達を行かせてしまえば、おそらくブローカーの手に渡って売られてしまうだろう。

おそらく相手方も人目を避けて少数でくるはず。自分だけでも馬車に同乗して行けば、女の子達を守る事はできる。

裏口をベルが見張っているはずだから、エイジャが裏口から馬車に乗り込むのを見れば、後から追ってきてくれるはずだ。


働き始めたばかりだというのに、王都栄転に立候補したエイジャに対して、女の子達は冷ややかな視線を投げかけてきたが、ディノはまんざらでもない表情を見せた。

「フーン……そうか。エミリーは王都で働きたくてうちの店に来たのか?」

「あ……はい、実は、そうです」

エイジャは頷いた。ディノが少し思案する。

「そうだな……、いいだろう、急だが、エミリーも連れていってやろう」

女の子達がどよめく。ずっるーい、という小さな声が聞こえた。

「うるせえぞ、おまえら!エミリーが今日一日でボトル何本入れさせたか分かってんのか!?

悔しかったらもっと働け。解散!」

ディノはぞんざいにその場を締めると、ばらばらと帰り支度を始めた女の子達の間を縫って、エイジャに近付いて来た。


「あの、ありがとうございます!あつかましいお願いを聞いて下さって」

エイジャが頭を下げると、ディノはにやにやと笑いながらエイジャの肩を抱いた。

「まあ、お前みたいな女は貴族好みだからな、王都でもいい働きができるだろう。で、今日この後すぐに出立できんのか?家族に挨拶してくるか?」

優しい言葉を掛けてくるのが薄気味悪いな、と思いながら、エイジャは首を振る。

「いいえ、家族はいないんです。私一人で生きていかなくちゃいけないので、王都でがんばりたいんです」

「そうかそうか、じゃあ何の問題もないな。しばらくしたら馬車が出るから、ちょっと休憩しておけ」

ディノはエイジャのでまかせに何の疑いも持っていないようだ。上機嫌の様子でその場を去って行った。

入れ替わりに、ザックが駆け寄ってきた。

「エ、エミリー!なんで!?俺、王都に行くのは危ないんじゃないかって、言っただろ……!?」

息せき切ってそう尋ねてくるザックに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「すいません……心配おかけして。

でもやっぱり、王都に行ってみたいんです。大丈夫!私、がんばります」

ザックを安心させるようににっこりと微笑んで見せたが効果はなく、さらに心配そうに顔を歪める。

「ホント女の子って、男の忠告を全然聞かないんだなぁ……、さっき、挨拶してたノーラ。あの子も、恋人に散々反対されてたのに、結局恋人に黙って行く事にしたらしいし」

「そうなんですか!?」

「ノーラに聞いてみなよ。よく相手の男が閉店後にノーラを迎えに来ては、店をやめろだの嫌だのって喧嘩してたんだ。

俺は、男として恋人の肩を持つけどね」

もしかすると、フェルダさんの店に相談に来ていた男性だろうか。

ザックはエイジャの気が変わらない様子なのを見ると、「とにかく、もう一度考え直してみてよ!」と言い残して走って行った。

(あんなに心配かけて、悪い事したなぁ……。いい奴だな、ザックって)

エイジャはそう考えながら、女の子達に囲まれて話をしていたノーラに近付いた。


「あの……ノーラさん」

エイジャに気づいた他の女の子達が、少し面白くなさそうにエイジャに視線を投げかける。

「みんな、そんな顔しないの。エミリーの心意気を買ってあげましょうよ」

姉御肌のノーラが周りにそう声を掛け、エイジャに微笑みかけた。

「エミリー、一緒に王都に行く事になるわね。これからよろしく。がんばりましょう」

握手を求められ、エイジャも手を握り返す。

「ノーラさん、……あの、恋人と別れて王都に行くって、本当ですか?」

ノーラの笑顔がひきつる。

触れにくい話題だったのか、周りの子達は気まずい顔をしてそそくさとその場を離れていった。

「……ずいぶんストレートな物言いするのね。誰から聞いたのか知らないけど」

「すいません。でも、あの、ノーラさんこそすごい心意気だと思って」

自分でもよく分からない言い訳だったが、ノーラはそこは気にならなかったようで、少し視線を落としてため息を付いた。

「彼はずっと私がここで働いてる事に反対してたの。恋人としてはそりゃあ、自分の彼女が他の男に言いよられてるのはイヤだったでしょうけど。

でもあの人、この店は怪しいって、王都に行くだなんて絶対許さないって……」

「今日出発する事も、告げてらっしゃらないんですか」

エミリーが尋ねると、ノーラは口元だけで小さく笑った。

「ひどいわよね、私。でも、どうしても自分の力を王都で試してみたいのよ。

私、彼に一緒に王都に行くって言ってほしかったの。勝手よね……」

「恋人さんは、ノーラさんの事が心配で王都に行くのを止めてらっしゃったんでしょう?

せめて一言、ご挨拶なさってから発った方が良いんじゃないですか?」

「……・・」

ノーラは黙って考え込んだ。

「……もう、遅いわ。馬車はもう間もなく出発するし……

彼とは昨夜もひどい喧嘩をしたの。きっと今日は迎えに来ないはずだから」

「ノーラさん……」


その時、裏口で馬のいななきと足音が聞こえた。

「さあ、待たせたな。出発しよう」

ディノがこちらに声をかけた。

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