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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
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(8)旅は道連れ、世は情け-4

「元々、カルロスがいなけりゃ何もできない奴らの集まりよ。もう追ってくる事はないわ」

焚き火を前にして、ベルが言う。

闇の中をランプの灯りを頼りに荒れ地を進み、ベルを保護したあたりを通り過ぎた所で、丁度良い岩陰を見付けた。近くには小さいが川も流れている。

朝になるまで、少しでも野宿をして身体を休める事にした。

「これだけははっきり言っとく。あんた達には感謝してる。ありがと」

ベルは頭を下げた。

「なんだ、殊勝だな。気持ち悪いぞ」

ルチアのあんまりな言い草に、エイジャが口を尖らせる。

「そんな言い方ないだろ、ルチア。

ベル、気にしないで。事情があったんだし、君に助けられたのは事実なんだから。

ちゃんと、人のいる所までは送っていくから、心配しないで」

「エイジャ……」

川でくんできた水で湧かした、温かいお茶を手渡され、ベルは瞳をうるませた。

「お前のその性格のせいで、この先俺は何度も命の危険にさらされるような気がしてならん……」

ルチアの呟きは誰にも受け取られる事なく、闇に消えていった。



日がすっかり上がり、仮眠を取った三人は先を急いで出発した。

カルロスが乗ってきた馬にベルが乗り、三頭の馬が進む。

横並びに三頭の馬が並んで歩いているのには訳があった。


出発前。

川へ水を汲みにエイジャが座を離れた隙に、ベルがルチアにすり寄った。

「ね、あんた達の旅の目的ってどこ?私も連れて行ってよ」

「なんでお前を連れていかなきゃならないんだ。近くの街まで同行してやるだけで有難いと思ってくれ」

「私、結構役に立つわよ。ただの観光旅行でフラフラ旅してるわけじゃないんでしょう?」

「役に立つか立たないか以前に、まったく信用できない。いつ裏切られるか分からん娘を連れて歩く程の余裕はないからな。

 だいたい、何で俺達に付いてきたいんだ。お前の行きたい場所へ勝手に行けばいいだろう」

「ルチアが好きなの!」

「嘘つけ」

「嘘だけど」

「どっちかと言うと、お前が好きなのはエイジャだろう」

そう言われて、ベルの頬が一気に赤くなったのを目にして、ルチアの方が驚いた。

「なっ・・なっ!何それ!そんなんじゃ!」

「……お前、そうしてると年相応の娘みたいだなぁ」

感心したようにじろじろと顔を眺めてくるルチアに、ベルが牙をむく。

「うるさいわねっ!そんなんじゃないのよ!」

お前の方が俺の事が好きだとか言ったんじゃなかったのか、とルチアは心の中でつっこむ。


「……カルロスの一味にはね、私から近付いたのよ」

「やっぱりそうなんじゃないか。捕われたなんて言ったのは嘘だったんだな」

「そりゃ最初に近付いたのは私からだったけど、逃げ出せなくなったのは本当よ!

 いつも監視が付いていたし、一味を抜けたいなんて言ったら監禁されそうだったんだから」

「だいたい、なんで自分から近付いたんだ」

「……人攫いの情報を探ってるの」

ベルの瞳が揺らいだ。

「肉親でも攫われたか?」

ルチアが問う。ベルはその質問には答えず、自嘲めいた笑顔を作った。

「おかげで、人攫いの片棒担ぐ羽目になったけどね」

「俺達に付いてきても、お前の望む情報は得られないと思うが」

「思い当たる筋はもう当たり尽くしたのよ。全然手掛かりに近づけないから、方向を変えてみようと思って。

ルチアのその剣、王宮騎士団のでしょ」

言い当てられて、ルチアは瞠目した。

「あんた達の事情はよく分からないけど、王宮関係者と一緒にいれば、普通は手に入らない情報にも触れられるじゃない。

 ね、迷惑は掛けないから、お願い!連れて行って。

 逆に、私みたいなのしか知らない情報筋だってあるのよ。お互い様で役に立てる事もあると思うわ!」

ベルは顔の前で手を合わせた。

「……連れて行くも行かないも、だめだって言ったってお前勝手に付いてくるんだろう」

「……いいのっ?」

目を輝かせたベルに、ルチアが釘を刺す。

「そのかわり、もう俺達を騙すような事はするな。

 特に、エイジャに嘘をつくな。これ以上騙されたら、あいつ女性不信になりかねん」

「……ルチアとしてはそっちの方がいいんじゃないの……」

ぼそっと呟かれた言葉に、ルチアのこめかみがぴくりと動く。

「何か言ったか?」

「別にっ。じゃ、これから私達は旅のパートナーね!よろしく♪」

ルチアが差し出された手を無視していると、そこにエイジャが戻ってきた。

「何?どうしたの?」

「あっ、エイジャ!ルチアが、私も旅に付き添っていいって!」

「えっ、そうなんだ!?ルチア、いいの?本当?」

「いいも何も、付いてくるって言って聞かないんだ、仕方ないだろう」

ルチアが心底迷惑そうに答える。

「私、役に立つからっ♪よろしくね、エイジャ!」

ルチアに無視された握手を、エイジャに向ける。

「うん、よろしく!ベル」

エイジャは手を握り返し、ニコリと微笑んだ。



ベルはエイジャに馬を並べて進み、しきりに話しかける。

下手な事を言わないか、また何かエイジャが騙されないかと心配で、それにルチアが馬を並べる。

それで三頭の馬が横並びに進む羽目になっているのだった。


「フェルダさんにベルを紹介しなくちゃね」

エイジャの言葉に、ベルが尋ねる。

「なに、誰?フェルダって?エイジャの仲間?」

「次の街で待ち合わせてるんだよ。すごくきれいな女の人……

に見える、男の人だよ」

「何それ。エイジャの事?」

「えっ?いや、俺?なんで?」

噛み合っているのかいないのかよく分からない会話を耳にしながら、ルチアは考えを巡らせる。

もちろん、ただベルの勢いに押されて同行を承諾したわけではない。


もう何年も前から、アストニエル王国内で頻発している人攫い事件。

王宮にもその報告はあがってきており、騎士団が調査にあたっている。

だが、ある一味を摘発する事ができても、助け出せるのはその時捕まっていた人達だけ。

それまでに攫った人間をどこに流したのか、途中までは辿れてもその先が分からないまま終わってしまう。

あまりにもその足取りが掴めない為、国外へ連れ出されているのではないかという見方が強まっていた。

そんな中、シアル大公周辺に人身売買の一味の影があるという情報が入ってきたのだった。


自国内での人身売買ももちろん人として許されるものではないが、それが国外から攫ってきたものとなると、これは侵略行為の一種。

不可侵条約に抵触する国際問題となる。


ベルがこれまでに人攫いの一味に接触して得てきた情報の中には、王宮騎士団が追ってきた中では手に入らなかったものもあるだろう。

油断のならない相手ではあるが、有益な情報を得る為には仕方がない。

ルチアは、そう考えていた。


(ベルの事情はおいおい聞き出していくとして……本当に目的はそれだけなのか、警戒していなくてはな……

必要があれば、フェルダに催眠術をかけさせるか……)

「そっか……じゃ、ベルはその双子の弟さんを探してるんだね」

「うん。もう5年前よ。体が弱くて、気も小さくて。私みたいに立ち回れるような子じゃないの。だから、心配で……」

ベルの言葉が耳に立ち、ルチアは二人の会話に意識を向けた。

「なんだって?」

「ルチア、何だ、聞いてなかったの?

 ベルはね、5年前に攫われて行方不明になっちゃった、双子の弟さんを探してるんだって。その為に、いろんな人攫いの一味に接触して探ってきたんだよ」

「ああ……、そうなのか」

「そうなのか、じゃないでしょ。さっき話したじゃない。まったく覚えてないわけ!?」

ベルが突っかかる。

「いや、双子の弟ってのは初めて聞くな。

 そこらへんはあまり話したくないのかと……」

「聞かれれば必要な事は喋るわよ。

 だから変な薬飲ませたり、術かけて喋らそうとしないでよね」

「やだな、ベル。そんな事するわけないだろ」

ベルの言葉を冗談と受け取ったエイジャが屈託ない微笑みを向ける。

対照的に、図星を指されて表情を強ばらせるルチアだった。


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