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金の王 銀の姫  作者: tara
第一章
10/87

(8)旅は道連れ、世は情け-3

窓がないので今がどの時分なのかは分からないが、おそらく夜更け近くになって扉の向こうに現れた気配に、目を閉じて休んでいたルチアが先に顔を上げた。

まどろんでいたエイジャも気がつき、ドアに意識を集中させる。

数人の男の荒い足音が近付き、ガチャリと鍵を開ける音がした。

(打ち合わせ通りに)

お互いに目で合図をして、どかどかと部屋に入ってきた男達を無言で迎える。

一見、普通の村人に見える男達だが、表情は醜く歪み、二人を品定めするように、無遠慮に眺めてくる。

一番最後に入ってきたのはベルの父親。態度から言って、この男達を束ねる首領格である事が分かる。

「こいつらか、ベルが連れてきた上玉だって?」

「確かに高く売れそうな顔してるなぁ。文官風の優男ってのはお前だな……そっちは、本当に男か?女じゃねえのか?」

「かーわいそうに、震えてやがるぜ、こいつ」

腕を掴まれ、エイジャは身体を固くして精一杯怖がって見せた。

ルチアも男達に囲まれ、抵抗する気もないかのように、憔悴した表情を見せる。

「ベルの言った通りだな。この剣は飾りか?見た目だけは大層だな、これも高く売れそうだぜ」

一人の男がルチアから剣を奪い、上機嫌で自分の腰に差した。

ベルの父親がその後ろで、指示を飛ばす。

「早くそいつら縛っちまえ。まあ、可哀想に怖くて抵抗もできねえみたいだがな」

エイジャとルチアは、抵抗せずおとなしく縄をかけられ、男達にうながされて部屋を出た。


先頭をルチアから剣を奪った男が歩き、その後ろにルチア。ルチアの左右に男が一人ずつ、その後ろにエイジャが続く。エイジャも左右を男達に固められ一番後ろをベルの父親が歩いている。

廊下を進み、玄関から外へ出る時、エイジャの視界の端に黒鳶色の頭が映った。

すぐに家の陰にその姿は消えたが、馬上で近くに見たベルの髪色に違いなかった。

「男に騙されるのはバカだが、女に騙されるのはお人好しだ」とか何とか言ってルチアはなぐさめてくれたが、我ながら情けない。

どうも自分は女性に甘い。それは今まで、たくさんの女性の優しさに助けられてここまで生きてこられたからなのだが……


動き出すタイミングを見逃さないよう、前を歩くルチアの背中に気を配る。

しばらく歩かされると、二頭引きの幌馬車が停まっているのが見えてきた。

詰めれば5〜6人程は乗れそうな荷台だが、見たところ先客はおらず、エイジャの後ろにも他に連れて来られた人間はいないようだ。

(捕らえられたのは俺達だけか……良かった)

ルチアが一瞬後ろを振り返る。その目が合図を送ったのをエイジャは見逃さなかった。

先頭の男が馬車の荷台に手を掛けて振り向いた時、ルチアが動いた。


一瞬、身を屈めたと思うと、男に体当たりをくらわせてバランスを崩させる。

「なっ!!」

同時に、詠唱を終えたエイジャが術を発動させる。瞬間、ルチアを後ろ手に縛っていた縄から小さな炎が上がり、横に付いていた男達が驚いて身をかわす。

エイジャの左右を固めていた男達が慌ててルチアを捕らえようと腕を伸ばしたが、すでに縄は燃え落ち自由になった右腕で、ルチアが男から取り戻した剣を抜いていた。

半身を翻して一人、二人と男を切り倒し、続いて後ろから飛びかかってきた男も、勢いのまま薙ぎ払う。

騒ぎに気づき、村のあちこちから男が飛び出してきた。

エイジャは男達の手を逃れながら詠唱を続ける。

「こいつ!魔術師か!」

捕らえようと追いかけてくる男達に雷撃を落としながら走り、同時に自分を縛っている縄を発火させる。

「あっつ……!」

炭となった縄を払い落としつつ、馬車の御者席へ走り込む。

手綱を取ろうとして、そこにいた人物にぎょっとして目を見張った。

「ベル!」

「ハイ♪いらっしゃい、エイジャ♪」

咄嗟に詠唱しようとしたエイジャの口を、ベルの手の平が塞ぐ。

「大丈夫、逃がしてあげるわよ。ルチアは?まだ来ないの?」

「えっ?えっ??」

混乱するエイジャに、ベルがニッと八重歯を見せて笑う。

「また騙そうとしてるのかって思ってるでしょ、まー信用してくれとは言いにくいけど!」

その時、左から御者席に踏み込んでこようとした男の手の甲を、ベルは脇から抜いた短刀でぐさりと差した。

御者席から豪快に蹴落としてこちらを振り向く。

「このお馬さん達、あなた達の馬でしょ。このまま逃げるわ」

言われて前を見ると、たしかに馬車に繋がれているのは見覚えのある愛馬だ。

(ベルに手加減するなって言われたのに!どうすればいいんだよ〜っ!)

その時、馬車が大きく揺れた。振り返ると、御者席に乗り込んだルチアがベルを見て言葉を失っている。

「なっ、ベル、お前!」

「はいはい、出るわよ〜っ!」

ベルが手綱を引く。馬車は勢い良く走り出した。



猛スピードで林を抜けると、先程通った荒れ地が見えてくる。

ベルが馬車の速度を少し落としたのを見計らって、ルチアがベルを問いつめた。

「どういう事だ、ベル。お前はあいつらの一味じゃないのか」

「んー、まあそうとも言えるけど、一味っていう程深い付き合いでもないし、だいたい私も捕われてたみたいなもんだったし」

「そうだったんだ!?ベルもあいつらに捕まってたんだね」

「そうなのっ、エイジャ!私、逃げ出したくても逃げられなかったの」

瞳をうるませてエイジャに訴えるベルに、ルチアが呆れたように返す。

「おいエイジャ、またすぐ信用するな……

ベル、そんな言葉やすやすと信じられるわけないだろう。自分のやった事を分かってるのか」

「あなた達なら、逃げ出せるだろうと思ってたわよ。でも、ちゃんとあいつらに嘘の情報流しておいたでしょ?

 文官風の優男に、女みたいなひょろっとした男の二人連れ。ご大層な剣は差してるけどただの飾りで、抜いた事もなさそうだなんて話しておいたんだから」

「最初から、自分の逃走を手助けさせようとしてあの村に連れて行ったっていうのか?」

「うーん、そうなればいいなとは思ったけど、ほら、あの時もずっと遠くから村の男達が監視してたのよね。村に着くまでに私が変な動きをしたらすぐ襲ってくる手はずになってたし。

 第一、このお馬さん達を馬車に繋いでおいたのは私よ。これでも信用できない?

 それに、あいつらが馬で追ってこないのは不思議じゃない?」

「そういえば……全然追いついてこないな」

「さっき、村の馬小屋にいる馬を全部放して村の外に逃がしておいたのよ。足がないから追ってこられないってわけ」

涼しい顔で言ってのけるベルは、とても保護した時の弱々しい少女と同一人物とは思えない。

「分かった、とりあえずその言葉だけは信じる。

 じゃあ、一度止めてくれ。馬車のままではスピードが遅くなるし、目立つからな」

りょーかい、と返事して、慣れた手つきでベルが馬車を止める。


「あー、この馬車、街で売ったら結構いい値になりそうなのになぁ」

馬車から馬を外しながら、ベルが繰り言を言う。

「じゃあお前がそうしろ。行くぞ、エイジャ」

自分の馬に跨がったルチアが、同じく馬に跨がったエイジャに声を掛ける。

「えっ!ちょっと待ってよ!私置き去り!?」

「どうしてこのままお前を連れて行かなきゃいけないんだ。

お前の言葉が真実なら、やつらは追ってこられないんだろう?

後は自分で何とかしろ」

「ひっどい!騙したわね!卑怯者!」

「どちらが卑怯者だ。騙したのはお前の方だろう」

逃がすものかと馬の前に立ち塞がるベルに、ルチアが冷たく言い放つ。

「ルチア、夜更けに女の子一人、こんな所に置いていけないよ。

次の街か、せめてもう少し人通りのある所までは連れていってあげない?」

「エイジャ!優しいっ!!」

ベルが拳を握りしめてエイジャを見つめる。

「お前、お人好しにも程があるぞ……」

ルチアが呆れたようにこぼす。

「馬はなくても、あいつら徒歩で追ってくるわよ!村の正体を外部に知られるわけにいかないもの!

 私一人、徒歩で逃げてたら絶対に捕まっちゃうわよ!殺されるかも!夢見が悪いと思わないの!?」

「そうだな、あの村の正体を知ったやつは生かしておくわけにはいかねえな」

ふいに後ろから掛けられた声に、エイジャとルチアは虚を突かれて振り向いた。

声の主は二人を素早く抜き去り、次の瞬間にはベルを羽交い締めに捕らえていた。


「ベルのお父さん!」

「いやエイジャ、これお父さんじゃないから。お父さんって言ったの、嘘だから」

エイジャの天然発言に、羽交い締めにされ喉元に短剣を突きつけられながら、ベルが突っ込む。

「ベル、馬を逃がしたってのも嘘だったのか?」

ルチアが尋ねる。

「ほお、やっぱり馬を逃がしてくれたのはベル、お前か。

 俺の馬だけは戻ってきてくれたぜ。お前が良く躾けてくれてたおかげでな」

ベルがぎりっと唇を噛んだ。

「カルロス、私はもうあんたの一味を抜ける。私達の事は放っておいて。村の事は絶対に口外しないわ」

「ほお、だからここは逃して下さいってか?そんな要求が通ると思うか?このアマ」

腰の剣に手を掛けたルチアに、カルロスの制止が飛ぶ。

「おっと動くな。仕方がねえからお前らは逃がしてやるよ。この女は置いていきな。

 なかなか役に立つ女なんでな。悪いようにはしねえ、安心して去りな」

ベルの表情が曇る。

エイジャはじっと黙ってその様子を見ていたが、やがてルチアに顔を向けた。

「分かった。行こう、ルチア」

「えっ、おい、いいのか、エイジャ」

ルチアは少し慌てて、馬を進ませ始めたエイジャを追う。

ベルは、何も言わなかった。

「言っておくが、俺らの仲間はそこいらの街にうようよしてる。

 夜道を安全に歩きたきゃ、余計な事は言わん事だな」

後ろ姿にカルロスが声を掛けた。

二人を乗せた後ろ姿が闇に紛れたのを見届け、カルロスが短剣を持った手を下げ、羽交い締めを解いた。

俯いたベルの腕を取り、自分の馬に向かって歩き始める。

「行くぞベル。てめえみたいなすれっからしが、まっとうな道に戻ろうなんて、図々しいんだよ。

 てめえは俺らみたいなやつらと一緒にいるのがお似合いだ」

ベルはうなだれ、腕を引かれるままカルロスの後に続く。


「フィアマ・エスト!」

闇の中から詠唱が響いた、と思った瞬間、カルロスの頭に上空から炎が降り注いだ。

「うわ……ああっ!!!」

驚愕したカルロスが思わずベルの腕を放す。

髪から炎を上げるカルロスの姿にあっけにとられていたベルの体がふわりと浮き、背中の方へ腕を引っ張られた。

「キャッ……」

何が何だか分からないまま、ただ近くにあったものに必死でしがみつく。

「大丈夫?荒っぽかったね、ごめん!」

頭上から掛けられた声は優しい。

「エイジャ……!」

「しっかり掴まってて。エス・ファ・フォブラーヌ!」

ベルを抱いたまま、馬上からエイジャの詠唱は続く。カルロスを包む炎は勢いを増す。

「こ……の……っ……クソ魔術師が……っ!!」

エイジャの方へ走り込んでこようとしたカルロスの背後を、ルチアが捕らえていた。

躊躇ない一刀のもとに切り伏せる。

「がああ……っ……!」

カルロスの伸ばした腕はベルに届かず、その場に倒れ込んで動かなくなった。


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