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地味な陰キャの私。秘密の図書室で、完璧な王子様の”裏の顔”を知ってしまいました  作者: 久遠翠


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第12話「秘密じゃない、ふたりの放課後」

 文化祭のクラス劇は、伝説になった。

『星降る夜のソナタ』は最優秀賞を受賞し、そして、主演俳優による舞台上での公開告白は、湊高校の歴史に長く語り継がれることになった。

 あの日以来、私と橘くん――いや、慶一郎くんは、学園公認のカップルとして、たくさんの生徒たちに温かく(そして、少しだけ面白がって)見守られることになった。

「あ、橘先輩と山崎先輩だ」

「美男美女でお似合いだよねー」

 廊下を二人で歩いているだけで、そんな声が聞こえてくる。以前なら、いたたまれなくて逃げ出していたはずの注目も、今はもう、怖くなかった。隣に、彼がいてくれるから。

「……なんか、照れるな」

 慶一郎くんが、少し恥ずかしそうに笑う。

「そうだね」

 私も、笑い返す。彼の隣で笑うことが、すっかり自然になっていた。

 分厚い眼鏡も、長い前髪も、もうない。クラスメイトとも、少しずつ話せるようになった。まだ、大勢の前で話すのは少し苦手だけど、それでも、以前のように石ころのように息を潜めているだけの私ではなかった。

 そして、私たちの関係で、一つだけ変わらないものがあった。

 それは、毎月二十五日の放課後、旧校舎の『第三図書準備室』で会うこと。

 文化祭が終わって最初の二十五日。私は、少しだけ緊張しながら、あのドアを開けた。

「よっ、静。待ってた」

 そこには、当たり前のように、慶一郎くんがいた。彼は私を名前で呼び、そして、私のことも「慶一郎くん」と呼ぶように言った。

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ」

 私たちは、いつもの窓際の席に向かい合って座る。差し込む西日も、古書の匂いも、何も変わらない。

 でも、決定的に違うことが一つだけあった。

 もう、これは「秘密」の時間じゃない。

「で、どうだった? この間貸したラノベ」

 慶一郎くんが、目を輝かせて尋ねる。

「うん、すごく面白かった! 特に、ヒロインが主人公を助けるために、過去に戻るシーンが……」

「だろ!? あそこの伏線回収、鳥肌立ったよな! まさか、冒頭に出てきたあのアイテムが、ここで活きてくるなんて!」

 私たちは、付き合う前と何も変わらず、夢中で物語について語り合った。周りの目を気にする必要のない、素の自分でいられるこの時間が、私たちにとっては、やっぱり一番大切な時間だった。

 ひとしきり話し終えた後、ふと、慶一郎くんが真面目な顔で私を見た。

「なあ、静」

「ん?」

「俺さ、静の書く物語が、やっぱり一番好きだ」

 真剣な声に、どきりとする。

「だから、これからも、書き続けてほしい。静の物語の、一番最初の読者は、俺がいい」

「……慶一郎くん」

「そして、いつか……静の物語の、主人公に、俺はなりたいな」

 彼は、そう言って、はにかむように笑った。

 その笑顔に、胸がきゅっと締め付けられる。

 この人は、いつもそうだ。私が一番欲しい言葉を、まっすぐに、何のてらいもなくくれる。

「……うん。書くよ。慶一郎くんが、世界で一番かっこいい主人公の物語を」

 私も、精一杯の笑顔で答えた。

 彼は満足そうにうなずくと、そっと、私の手を握った。少し汗ばんだ、大きな手。その温かさが、私の心にじんわりと広がっていく。

 もう、私は一人じゃない。

 これからも、きっと、色々なことがあるだろう。悩んだり、落ち込んだりすることもあるかもしれない。

 でも、大丈夫。

 彼と、そして、物語と一緒なら、私は、どんな未来へも歩いていける。

 窓の外では、夕焼けが空を美しく染めていた。

 秘密じゃない、二人だけの放課後。

 私たちの物語は、まだ、始まったばかりだ。

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