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『生けるぬいぐるみ』の異名を持つトコトコ族のヌーグルちゃん、婚約破棄されて村を飛び出し、最終的に王妃となる~ヌーグルちゃんが王様のお嫁さんになったからって、急におともだちみたいな顔してもダメ!~

作者: 赤林檎
掲載日:2026/02/13

「ヌーグルちゃん、デッカイもんなぁ……」


 パーティー会場のどこかで、誰かが言ったの。


 ヌーグルちゃん、たしかにトコトコ村の誰よりも『デッカイ』なの……。


 トコトコ村に住むトコトコ族は、二足歩行の小柄な獣人。他の種族からは、『生けるぬいぐるみ』って呼ばれてる。


 ヌーグルちゃんは、白ヒグマのトコトコ族。真っ白な毛皮のクマさんなの。


 トコトコ村は、ここ数日は春祭りをしてたの。今はその後夜祭のダンスパーティー中だった。


 ヌーグルちゃん、春らしいピンクのフリフリのドレスを着てるの。


「ヌーグルちゃんは、小柄で可憐なこのニャーナちゃんにいじわるをした! 洗濯物を洗った水をかけたり、愛用のブラシを盗んだり、終いには突き飛ばしただろう!」


 黒い燕尾服姿のウルールカくんが、右腕にニャーナちゃんをつかまらせて、ヌーグルちゃんをにらみつけてた。


 ヌーグルちゃん、四歳の時から、十年間もウルールカくんの婚約者をやってたのに……。


 白ネコのトコトコ族のニャーナちゃんは、ウルウルした目でヌーグルちゃんを見てる。ニャーナちゃんも、ピンクのフリフリのドレスを着てた。まるでヌーグルちゃんの真似っこしてるみたい……。


 ウルールカくんは、白オオカミのトコトコ族で、村長さんの息子なの。次の村長さんとして、ヌーグルちゃんと一緒に村を守っていくことになってたの……。


「あたしが小さくってかわいいから……。あたしが悪いの……」


 ニャーナちゃんは、弱々しく下を向いた。


「そんなことないよ」


 ウルールカくんがニャーナちゃんをなぐさめてる。


「ヌーグルちゃん、いじわるなんてしないもん!」


 このままじゃ、ヌーグルちゃん、いじめっこにされちゃう!


「嘘をつくな! ぼくはヌーグルちゃんとの婚約を破棄する!」


 ウルールカくんは、ニャーナちゃんを守るみたいに抱き寄せた。ニャーナちゃんのこと、ヌーグルちゃんから守ってあげようとしてるみたい!


 ヌーグルちゃん、ウルールカくんと一緒に村を守れるように、ずっといろんな武術の練習をしてきたの。それなのにひどいよ!


「ウルールカくん、ヌーグルちゃんの婚約者なのに、ヌーグルちゃんのこと信じてくれないんだ……!」


 ヌーグルちゃんはショックだったの。ずっといろんなこと、一生懸命にやってきたのに……。


「まあまあ、ヌーグルや、仕方ないだろう」


「こうなっちゃうとねえ」


 ヌーグルちゃんのパパとママが、ヌーグルちゃんをなだめようとしてきたの。一人娘のヌーグルちゃんと一緒に怒ってくれないんだ……。


「ヌーグルちゃんとニャーナちゃんだとねえ……」


「ニャーナちゃんは、しっぽがシュッと長くて色っぽいけど……。ヌーグルちゃんのしっぽは、まん丸だもんなあ」


 パーティー会場のどこかで、また誰かが言ったの。呆れてるみたいだった。


 ヌーグルちゃんが、誰よりも大きな女の子だから?


 みんな、ちっちゃくってかわいいニャーナちゃんの方がいいの?


 ヌーグルちゃん、パーティー会場を見まわしたの。そうしたら、村のみんなは、ヌーグルちゃんからスッと目を逸らしたの。


「みんな嫌い! もう知らない!」


 ヌーグルちゃん、悲しくなっちゃって、泣きながらパーティー会場から走り出たの。


 お外は夜で真っ暗だった。お空には、大きなまん丸のお月様と、キラキラのお星様がいっぱいあった。


「こんな村、だいっきらい!」


 ヌーグルちゃん、おうちの自分の部屋に戻ると、ドレスを脱ぎ捨てた。


 このウィータ王国には、王妃様や王女様たちを守る女性の近衛騎士たちがいるの。その女性の近衛騎士たちは『鋼鉄の向日葵』って呼ばれていて、ヌーグルちゃんみたいに大きな女の人ばっかりなんだって。


「ヌーグルちゃんには、『鋼鉄の向日葵』が似合ってるよねえ」


 前にニャーナちゃんと取り巻きの女の子たちが、ヌーグルちゃんを見てクスクス笑いながら言ってたの。


 ヌーグルちゃん、デッカイし、力が強いの! 村長夫人として村の自警団の団長になるために、ずっと武術も練習してた!


「本当に『鋼鉄の向日葵』になってやるんだから!」


 ヌーグルちゃん、自警団のユニフォームを着たの。薄茶色の革の兜と鎧とブーツなの。


『鋼鉄の向日葵』だったら、これまで練習してきた武術だって生かせるもん!


 まわりもみーんなデッカイ女の人だったら、ヌーグルちゃんと仲良くしてくれるはずだもん!


 ヌーグルちゃん、デッカイままで、自分らしく生きるんだもん!


「だいっきらーい!」


 一回、力いっぱい叫んだら、余計に涙が出てきたの。


 ヌーグルちゃん、おうちどころか、村を飛び出して、夜の森の中を走ったの。フクロウが「ホーホー」って鳴いてて、ちょっぴり怖かったけど、気にしないでずっと走ったの。


 走って走って、朝になる頃、隣町に到着したの。


 隣町の東門には、ちょうど馬車が止まってた。


「志願兵ども! みんな乗ったな?」


 軍服を着た人間のオジサンが、幌馬車の荷台に向かって声をかけてた。


 ――志願兵っていうことは、この馬車に乗ったら、隣国との戦争に行かれるってこと!?


 ヌーグルちゃんはただの平民のトコトコ族だから、きっと近衛騎士なんて簡単にはなれないの。


 だけど、戦争で大活躍すると、王様からご褒美がもらえるって、前に聞いたことがある。


 ヌーグルちゃん、決めた! 王様に頼んで『鋼鉄の向日葵』に入れてもらう!


 トコトコっと馬車に近寄って、ピョーンと荷台に飛び乗った。


「ヌーグルちゃんです! よろしくお願いします! みなさん、一緒にがんばりましょう!」


 ヌーグルちゃん、馬車にいる人間の男の人たちにご挨拶した。


 人間の男の人たちは、誰もお返事してくれなかった。すごく元気がなかったの。


 この人たちも、きっといろいろあったんだと思う。


 ヌーグルちゃんだって婚約破棄されなかったら、戦争に行く馬車になんて乗らなかったもん。


 ここには仲間がいっぱいいるんだもん!


 ヌーグルちゃん、さみしくないよ!


 馬車がガラガラ動き出したから、ヌーグルちゃんも馬車のすみっこに座ったの。


 みんな一言もしゃべらなかった。



 馬車は何日もかけて、ヌーグルちゃんを戦場に連れて行ってくれたの。


 ヌーグルちゃんたち、一番前に並んでいいことになったの! すっごく活躍しやすそう!


 長い木の先端に小さな金具がある、槍っていう武器を持たされた。


 村の自警団の武器は、畑仕事で使うクワとかスキとか鎌だったの。


 金属の多さでいったら、槍よりクワとかスキとか鎌の方が多くて強そうだった。


 馬車に一緒に乗ってきた人間のみんなは、軍隊の兵隊さんのお洋服を着せられてた。


 ヌーグルちゃんは人間よりうんと小さいから、お洋服のサイズがあわなかった……。


「そのままの格好でかまわん」


 って言ってもらえたから、ほっとした。追い返されちゃうかと思ったんだもん。


 ヌーグルちゃんたち、戦場で横一列に並んだの。ここには人間以外の少数民族もちょっとだけいた。エルフ、竜人、いろんな妖精族、巨人族。人間よりだいぶ大きい子や小さい子は、みんな自分で持ってきたお洋服を着てた。


 ヌーグルちゃんたちの目の前には、薄茶色のレンガでできた敵国の国境の防壁がある。


 ヌーグルちゃん側の総大将は、王様の甥っ子らしいの。王様には、王太子のまま亡くなったお兄さんがいるんだって。


 敵国の国境を守っているのは、敵国の王様の弟なの。ヌーグルちゃん側の総大将のお姉さんと結婚した人らしかった。


 王族は、このウィータ王国でも、敵国でも、みんな人間がやってるの。人間たちも、なんだかいろいろ複雑みたい……。


 ――太鼓がドンドコ打ち鳴らされて、「突撃ー!」っていう号令が聞こえた。


 ヌーグルちゃん、槍を持って、トコトコトコトコ前進したの!


 絶対に『鋼鉄の向日葵』になるんだもん! がんばらなくちゃ!


 ヌーグルちゃんたちの後ろから、縦長の木の箱がいくつもガラガラって音をたてながら進んできた。


「おお、攻城櫓が来たぞ!」


 人間の兵隊さんの誰かが言った。


 ヌーグルちゃん、攻城櫓っていう縦長の車輪のついた箱のこと、初めて見たの。なにに使うのか、わかんなかった。


「あれはなんですかー!?」


 ヌーグルちゃん、まわりの人たちに質問してまわったの。


「あいつはな、防壁の上に、誰よりも早く上がれる道具だっ!」


 一人の兵隊さんが、全力疾走しながら教えてくれた。


「そうなんですね! ありがとうございます!」


 ヌーグルちゃん、兵隊さんと並走しながら、ちゃんとお礼を言ったの。


 その兵隊さんは、梯子を使って攻城櫓に入ったの。他の人たちも、次々に攻城櫓に吸い込まれていった。


 ――みんな、手柄を立てたいんだ!


 ヌーグルちゃん、出遅れちゃったの!


 ヌーグルちゃんも慌てて、一つの攻城櫓の梯子を上ったの。


 攻城櫓の中は、人間でいっぱいだった。


 ヌーグルちゃん、ここでは小さいから、なんとか隙間に入り込めたの。


「ヌーグルちゃんです! みなさん、よろしくお願いします!」


 元気にご挨拶すると、「おお、よろしくな!」って返事してもらえたの。


「ヌーグルちゃんとやら、見ない顔だな」


 攻城櫓の人たちは、とっても気さくだったの。


「はい、戦場は初めてです! がんばりますので、よろしくお願いします!」


「礼儀正しいな。お貴族様か?」


「トコトコ族です!」


「そうか。まあ、がんばれや」


 みんな励ましてくれたりして、とってもやさしかったの!


 ヌーグルちゃん、戦争は初心者だから、最初は様子を見ようと思ってたの。攻城櫓に乗り込んだのも、最後だったしね。


 だけど、防壁が近づくにつれて、わかったの。


 ――ヌーグルちゃん、もしかして一番良いポジションを取っちゃった!?


 ヌーグルちゃんの乗った攻城櫓が、一番に防壁に到着しそう!


 しかも、ヌーグルちゃん、一番前の真ん中に陣取ってる!


 えーっ!?


 ヌーグルちゃん、一番乗りで、敵国に攻め入れるってこと!?


 どうしよう!? 勝手がわかんない!


 こんな槍とかいう、金属が先っぽにちょっとついてる武器で、本当に戦えるの!? 槍って、ほとんどが木の棒なんですけどー!?


「へへっ、手柄を立ててやるぜ!」


 誰かが震える声で言った。


 そうだった!


 ヌーグルちゃん、怖気づいていられないの!


 王様に頼んで『鋼鉄の向日葵』にしてもらうんだもん!


 すごい手柄を立てなくちゃ!


 手柄……?


 手柄って?


 自警団の手柄は、泥棒さんを捕まえるとかだったけど……。


 兵隊さんって、なにをやったら手柄なの?


 ――ヌーグルちゃん、なんにもわかんない!


 考えている間にも、攻城櫓は進んでいった。


 防壁からは、先端に火のついた矢がいっぱい飛んできた。けれど、ヌーグルちゃんの両隣にいる人が槍をブンブンふって、矢をみーんな弾いてくれたの。


「わあ、すごーい! 強いんですね! とっても強いんですね!」


 ヌーグルちゃん、両隣の人を褒めたの!


「おうよ!」


「俺たちゃ、いつも一番櫓に乗ってるからな!」


 この攻城櫓って、一番櫓だったんだ! だから先頭なんだ! ヌーグルちゃん、なんにも知らなかったの!


 槍ってすごいの! 防壁に到着する前に、防壁にいる敵の兵隊さんたちを追い払うお道具だったの! 木の棒が長いのって、意味あったんだ!


 ヌーグルちゃん、他のみんなと一緒になって、槍をブンブンして敵の兵隊さんを追い払ったの!


 防壁が近くなったから、ヌーグルちゃん、ピョーンと大ジャンプして防壁に飛び移ったの!


「おう、やるなあ!」


「すげえ!」


 両隣の人が褒め返してくれたの! 和気あいあいなの!


「勇敢なるヌーグルちゃんに続けー!」


 攻城櫓から、みんながドンドン飛び移ってきたの!


 ヌーグルちゃん、一番に防壁の上に到着したから、他のみんなのために槍で敵の兵隊さんたちを追い払ったの!


「なんだ、あの動きは!」


「気を付けろ! 足を持って行かれるぞ!」


「すごい槍さばきだ!」


 敵の兵隊さんたちは、ヌーグルちゃんにびっくりしてた!


「ヌーグルちゃん、さすが一番櫓に乗るだけあるな!」


「なるほどな! 自信があったわけか!」


 味方の兵隊さんたちも、いっぱい褒めてくれたの!


「ありがとうございます! ヌーグルちゃん、がんばります!」


 みんな先輩だから、ヌーグルちゃん、ちゃんとお辞儀してお礼を言ったの。


 そうしたら、崩れたレンガの横っちょに、金色のペンダントが落ちてるのを見つけたの。


 ヌーグルちゃん、その楕円形の平べったいペンダントを拾ったの。これって、ロケットペンダントっていう、大事なものが入れられるペンダントなの!


 ロケットペンダントをパカッと開けると、金髪の束が入ってたの。ロケットペンダントの蓋の裏には、金髪の綺麗な女の人が描かれてた。この金髪って、きっとこの女の人のだよね!


 ヌーグルちゃん、すっごく大事なものを拾っちゃったの!


「このペンダント、誰のですかー?」


 ヌーグルちゃん、槍を左手に持って、右手でロケットペンダントをよく見えるように掲げたの。


「落とし物ですよー! 誰のですかー?」


 ヌーグルちゃん、防壁の上をトコトコ右に行ったり、左に行ったりして、持ち主を探してあげたの。


 矢がビュンビュン飛び交って、剣と剣や、剣と槍が、ガキンガキンぶつかりあってた。


 ヌーグルちゃん、激戦だあ、って思いながら、一生懸命に持ち主を探したの。


 こんな戦場にまで持ってくるロケットペンダントなんて、きっと中身の髪の毛は遺品とかだもん!


 落としちゃった人は、絶対に悲しいと思う!


「おお、それは! そのロケットペンダントは……!」


 防壁が一段高くなった見張り台みたいな場所に、銀色の立派な鎧を着たヒゲのオジサンがいたの。手には大きな斧を持ってる。


 敵国のヒゲのオジサンは、ヌーグルちゃんのロケットペンダントを指さしてた。


「あなたのロケットペンダントですか? 落ちてましたー!」


 ヌーグルちゃん、槍を使ってピョーンと飛んで見張り台に上がって、ヒゲのオジサンにロケットペンダントを渡してあげたの。


「ありがとう、ウィータ王国の小さな白き兵士よ……」


「これって大事なものですよね! 見つかって良かったですね!」


「貴様の慈悲は忘れぬ……!」


 ヒゲのオジサンは、泣きながら首にロケットペンダントを付けた。


 落とし物を届けただけじゃ、手柄にならないよね!?


 ヌーグルちゃん、戦わないとなの!


 見張り台には、ヒゲのオジサンと仲間が数人しかいないの……。ここだと、あんまりいっぱいの敵は倒せない……。


 ヌーグルちゃん、もうここに用はないかなって思ったの。だから、ピョーンと飛び降りて、元の場所に戻ったの。


 ヌーグルちゃんって、人間よりうんと小さいトコトコ族だから、槍を突き出しても足しか突き刺せないの。


「イテッ!」


 って言われる程度じゃ、活躍とは言えないと思う……。


 ヌーグルちゃん、胸壁って呼ばれてるバルコニーの柵みたいなところに飛び乗ったの。槍を持ってグルグルまわって、まわりの敵をみーんな倒したの。


 だけど……、やっぱり戦場って初めてだから、勝手がわかんなくって……。


 ドンドン回転のスピードが上がっちゃって、火が燃えてる丸いお鍋みたいなのを槍で吹き飛ばしちゃったの!


「あーっ!」


 って叫んだ時には、もうお鍋はお空を飛んで行って、建物の屋根に落ちちゃったの!


「兵糧庫に火が……!」


「なんて連中だ!」


「俺らの飯が燃えちまう!」


 敵国の兵隊さんたちは大騒ぎになった。


「やることがエグいな!」


「負けてらんねえ!」


 味方の兵隊さんたちも、なんだか盛り上がってきちゃったの……。


 どうしよう、どうしようって思っている間も、ヌーグルちゃん、グルグル回っちゃって……。


 槍と一緒に、ビューンって、防壁の上から敵国に飛んでっちゃったの。


「わぁーっ!」


 って叫びながら、ヌーグルちゃん、槍を地面に突き刺したの。戦場から離れちゃったら、手柄を立てられないもん!


 そうしたら、槍の木がグーンと曲がってから、反対側にポーンって弾き飛ばされちゃった!


「兵糧を守れ!」


「急げー! 火を消せー!」


 なんて叫んでる敵の兵隊さんたちの頭上を飛び越えて、ヌーグルちゃん、誰もいない出口の前に着地したの。大きな両開きの扉で、硬そうな木でできてるの。


 みんな、うんと遠くの兵糧庫で戦ってるみたいだった。


 防壁の上にも、どうやって戻ったらいいのか、全然わかんない。


 ヌーグルちゃん、あんまり戦場には向いてないのかも……。


『鋼鉄の向日葵』には、王都に行って、騎士の試験とか受けたらなれるかもしれないよね……。普通は戦争なんて、あんまり行かないもん……。


 ――こっそり抜け出しちゃおうかな……?


 この門には誰もいないもん、きっとバレないよね……?


 ヌーグルちゃん、木でできたカンヌキを「えーい!」って叫びながら押し上げて、門をちょこっとだけ開けて、トコトコ外に出たの。


 そうしたら、青いお空の下、地平線の前に、ウィータ王国の兵隊さんたちがズラーッと横並びで立ってたの。


「あ……っ!」


 逃げ出したこと、こんな大勢に見つかっちゃった!


 どうしよう……!


 絶対に怒られちゃう……!


 だけど、今から門の内側に戻っても、槍がないから手柄なんて立てられないの……。


 ヌーグルちゃんがオロオロしていると、白い馬が一頭、ヌーグルちゃんに向かって走ってきたの!


「どうしよう! 捕まっちゃう……!」


 その白い馬に乗った人は弓を構えて、ヌーグルちゃんに向けて矢まで射ってきたの!


 ヌーグルちゃん、目をまん丸にして固まってたら、ヌーグルちゃんの真後ろで、敵国の兵隊さんが一人、ドサッと倒れたの。


「あの人間の男の人、ヌーグルちゃんのこと助けてくれたんだ!」


 男の人は弓矢を構えてるから、馬のスピードが落ちてない!


 このままだと男の人が門に激突しちゃう!


 ヌーグルちゃん、急いで門を両方とも全開にしたの!


「よくやった!」


 白い馬に乗った男の人は、ヌーグルちゃんの鎧の首元をグイッとつかんで、馬に乗っけてくれたの!


 ヌーグルちゃん、男の人と一緒に、敵国の国境の町を馬で駆け抜けたの。


 男の人の後ろからは、大勢の騎兵の人たちもついてきた。


「門が破られたぞー!」


 っていう敵国の兵隊さんっぽい声がした。


 えーっ、すごーい!


 あの門すっごく硬そうなのに、紙みたいにビリビリって破ったりできるんだ!


 誰がそんなことしたんだろ!?


 国境の町は、あっという間に戦場になって、あっちでも、こっちでも、矢がビュンビュン、剣とか槍がガキンガキンしてた。


「我らの『最強の白ヒグマ』ここにあり! 怯むなー!」


 白い馬に乗った男の人は、剣の先をお空に向けて、味方の兵隊さんたちを元気に励ましてた。


 ヌーグルちゃんの後ろにいるその男の人は、あっちこっちから飛んできた矢も、向かってきた剣の先も、投げつけられた槍も、みーんな、剣でなんとかしてくれたの。


 もしかして、ヌーグルちゃん、すっごく強くて偉い人に捕まっちゃった!?


 ヌーグルちゃん、後ろにいる男の人を見てみた。短めの金髪はゆるいウェーブで、瞳は青くて、若くてかっこいい男の人だったの。


「えっ、かっこいい……!」


 ヌーグルちゃん、思わず声に出して言っちゃったの。トコトコ族から見ても、すっごくかっこいい男の人だったんだもん!


「もしや、メスか? 女の子なのか?」


 男の人が、ちょっとびっくりした顔をした。


「そうです! 女の子です!」


「そうだったのか。白き猛者よ、防壁の上で活躍する姿も見ていたぞ」


「え……っ!?」


 白き猛者って、ヌーグルちゃんのこと!? 全然女の子っぽくない!


「あれほどの活躍をして、褒美になにを望む?」


 もしかして、この男の人、ご褒美の用意の担当者!?


「ヌーグルちゃん、王妃様……」


 あれ? この国、今ちゃんと王妃様っているの? 王女様しかいない……? 守る相手は、王妃様でも、王女様でも、どっちでもいいんだけど……。とにかく騎士にしてもらって、『鋼鉄の向日葵』に入れてもらいたいって言わなきゃ!


「ほう、なるほど。王妃の座を望むか」


「えっ!?」


 男の人は、ヌーグルちゃんが黙っているうちに、勝手に王妃様の座席をくれるみたいなことを言い出したの。


「えっと……、そうじゃなくって……」


 ヌーグルちゃん、椅子が欲しいわけじゃないって、ちゃんと説明しようとしてたのに……。


 建物の陰から、銀色の立派な鎧を着たオジサンが飛び出してきたの。あの人は、見張り台にいた敵国のヒゲのオジサン!


「おのれ、ギャレット! 姉上を娶っておきながら死なせた上に、我が国に攻め入ろうとは! どれだけ卑劣なのか!」


 男の人は、ヒゲのオジサンに剣を向けた。


「お姉さんって、ロケットペンダントの絵の人!?」


 ヌーグルちゃん、びっくりして訊いたの。あの絵の女の人って、この男の人のお姉さんだったの!?


「ロケットペンダント?」


「落とし物だったの! 拾って届けてあげたら、ヒゲのオジサン、泣いちゃったの!」


 ヌーグルちゃん、一生懸命に説明したの!


「ギャレットが、姉上の絵姿を持ち歩いているというのか?」


 ヒゲのオジサンは、ギャレットっていう名前みたい。


「髪の毛も入ってた!」


「そうか……、遺髪まで……」


 男の人は、なんだか辛そうな顔をしてギャレットさんを見たの。


「貴様の国の王が、身重のマーガレットを連れて挨拶に来いと、我らに強いたのだろうが!」


 ギャレットさんは木こりなのか、巨大な斧で斬りかかってきた。


「なんだと!?」


「我らは戦争を避けるため、仕方なく国境を越えることにした。だが、臨月のマーガレットは山中で産気づき、息子を残して、死の国へと旅立ってしまったのだ!」


 ギャレットさんは泣きながら、男の人に斬りかかってくる。男の人は、剣でガキンガキンと斧を弾いていた。


「クソッ、そういうことか! 王も、『王家の影』も、ギャレットが姉上を殺したと言っていた。我が配下たちは、ギャレットが王命で姉上を連れて旅立ち、山中で出産させたと……」


「王はお前たち姉弟の親代わり。信じたかった気持ちはわかる。だがな……!」


「ああ、私にもわかった……。私に貴国を攻めさせるため、王は臨月の姉を挨拶に来させようとしたのだろう。……だが、貴国の王もどうなのだ? 貴方に我が国を攻めさせるため、我が国の要求を飲んだのでは?」


 えっ、そんな難しい政治のお話になっちゃうの!?


「ああ……、そうか……。だから、兄上は……」


 ギャレットさんは攻撃をやめてくれた。


「どちらの王もクズだ! クズどもが、我が姉上を殺したのだ! 私がどちらの王も討ち取り、姉上の仇を討つ!」


 そう宣言してからの男の人は、とーっても素早かったの。


 まずギャレットさんに味方になってもらってた。


 ギャレットさんと二人で、国境の町にいる兵隊さんたちを敵も味方も全員まとめて、一つの軍隊にしてた。


 男の人はギャレットさんと馬を並べて、王都に行くことにしたの。


 ヌーグルちゃん、ずーっと男の人と一緒の馬に乗ってた。


 男の人はヴィンセント殿下っていう、王様の甥っ子だったの。


 ヴィンセント殿下って、正統なる王家の血筋に連なる、我らの王なんだって! ヌーグルちゃん、ずっと一緒に馬に乗ってたけど、そんなこと全然気づかなかったの!


 ヴィンセント殿下はギャレットさんと一緒に王宮を攻めて、王様も、王妃様も、王太子たちも、他の王族も、みーんな処刑しちゃったの!


「新たなる我らの国王陛下にご挨拶いたします!」


 ヌーグルちゃん、ギャレットさんと並んで、王様になったヴィンセント殿下の前でひざまずいたの。


 玉座の間っていうところなの!


「私をこの玉座へと導いた『最強の白ヒグマ』よ」


 国王陛下が近寄ってきて、ヌーグルちゃんのこと立たせてくれたの。


「はい、国王陛下!」


 ヌーグルちゃん、元気にお返事したの! ご褒美で『鋼鉄の向日葵』に入れてもらうの! ちゃんとお話しなくっちゃ!


「そなたの望み、この私が叶えよう」


「ありがとうございます!」


 わあ、よかったー! ヌーグルちゃん、『鋼鉄の向日葵』になれるの!


 国王陛下はヌーグルちゃんの前でひざまずいて、ヌーグルちゃんの右手を握ったの。


 ヌーグルちゃんが握手かなって思ってたら、国王陛下はヌーグルちゃんの手にチューしたの!


「あわわわわ!」


 なんで!? なんでチューするの!?


「これより、『最強の白ヒグマ』ヌーグルちゃんが我が妃だ!」


 国王陛下はスッと立って、ヌーグルちゃんを抱き上げたの。


「え……?」


 我が妃ってなに!? 椅子がもらえる話……?


「国王陛下と王妃殿下に、我が忠誠を捧げます」


 ギャレットさんが、国王陛下とヌーグルちゃんに言うんだけど……。それってヌーグルちゃんが王妃様ってこと!?


「その……、国王陛下、トコトコ族とご結婚なさるのですか?」


 大臣っぽいオジサンが、国王陛下に訊いたの。


「そうだ。ヌーグルちゃんと戦場で約束した。なにか問題でも?」


 国王陛下が冷たく笑う。


「いいえ! いいえ! とても愛らしい王妃殿下でございます!」


 大臣っぽいオジサンは、冷や汗をハンカチで拭いてた。


 ヌーグルちゃん、王妃様になりたいなんて言ってない……。どうしよう……。


「あの、やっぱり、王妃様は……。ヌーグルちゃん、トコトコ族だし……」


 ヌーグルちゃん、ちゃんと説明しようとしたの。ヌーグルちゃんがなりたいのは、『鋼鉄の向日葵』ですよって……。


「ヌーグルちゃんよ、あれほどの活躍をしたのだ。どんな望みも思うがままだ。遠慮することはない」


 国王陛下は、うっとりしてるみたいに目を細めた。とーってもうれしそうなの!


「えっと……、王妃様になったら『鋼鉄の向日葵』は……」


「もちろん護衛に付けよう。安心しろ。ヌーグルちゃんのことは、この私が絶対に守ると誓おう」


 こんなに喜ばれると、断りにくいの……。


 ヌーグルちゃん、『鋼鉄の向日葵』に護衛される側になっちゃった……!



 国王陛下は、あっという間に盛大な結婚式の準備をしちゃったの! お仕事すっごくスピーディー!


 ヌーグルちゃん、大聖堂をトコトコ歩いて、神様の前でヴィンセント陛下に永遠の愛を誓ったの!


 ウェディングドレスはリボンとフリルがいっぱいで、ウェディングベールもすっごく綺麗なレースだったの!


 結婚式と同時に戴冠式もやったの! ヴィンセント陛下とヌーグルちゃん、立派な黄金の冠をかぶせてもらったの!


「国王陛下、王妃殿下、おめでとうございます!」


 ギャレットさんや臣下の人たちが、いーっぱいお祝いしてくれたの!


 それで、夜になったら……。


 ヌーグルちゃん、お風呂に入れられて、とってもかわいい白いネグリジェを着せてもらったの。


 侍女たちに寝室に案内してもらうと、お部屋にはヴィンセント陛下がいたの! 寝台に腰かけて、ヌーグルちゃんを見てる!


「おやすみなさいませ」


 侍女たちは全員、どこかに行っちゃった。


「待ちくたびれたぞ」


 ヴィンセント陛下は、白くて薄い布でできた裾の長いパジャマを着てた。おズボンはちょっと丈が短くて、お膝が隠れるくらいの長さだった。


 寝台の横の燭台が、ヴィンセント陛下を照らしてる。トコトコ族が『生けるぬいぐるみ』なら、ヴィンセント陛下は『生ける彫刻』なんじゃない?


 寝台には、真っ赤な薔薇の花びらが撒かれてる! 身体を拭いたりする布でてきた白鳥が二羽、向かい合って飾ってある!


 これって……! これって……!


 ヴィンセント陛下は立ち上がって、ヌーグルちゃんの前まで来た。


 ロウソクの火がヴィンセント陛下の動きにあわせて、ユラユラと揺れ動いてる。


「そう緊張するな、我が花嫁よ」


 ヴィンセント陛下は「フッ」と笑って、ヌーグルちゃんを抱き上げたの。


 ヌーグルちゃんの心臓、ドキドキしすぎて爆発しちゃうかもなの……!


 ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんを抱っこしたまま寝台に近寄って、片手で上掛けをヒラッとさせたの。


 寝台の上の薔薇の花びらも白鳥の飾りも、みーんな飛んでっちゃった!


 ヴィンセント陛下は、ヌーグルちゃんをそっと寝台に座らせてくれたの。


「かわいいな」


 なんて言われて、ネグリジェも、下着も、ポイポイッと脱がされちゃったの。


 ヌーグルちゃん、とってもびっくりしちゃったの。


「こうして見ると、完全に白熊のぬいぐるみだな」


「え……」


 どういう意味なんだろ? 王妃様に見えないってこと?


「幼き日、母が私を罰するため、我が友である白熊のぬいぐるみを燃やしてしまったことがある」


 ヴィンセント陛下は辛そうな顔をした。ヴィンセント陛下のお母さんは、前王と一緒にヴィンセント陛下のお父さんを毒殺して、王弟だった前王に嫁ぎ直して王妃様になった人だったの。この前、前王と一緒に処刑されてた!


「亡き父が贈ってくれた、実に愛らしい白熊のぬいぐるみだった。私は燃えゆく白熊のぬいぐるみに向かい、いつか我が元へ戻ってくるよう願った」


 ヴィンセント陛下は、とっても悲しそうだったの。


「それは辛かったですね……。何歳くらいの時だったんですか……?」


「私が三歳だったか、四歳だったか……」


 ヴィンセント陛下は十九歳で、ヌーグルちゃんは十四歳だから、ヌーグルちゃんが生まれるちょっと前のお話なの。


 どうしよう、ヌーグルちゃん、「ただいま」って言ってあげたらいいの? 「嘘つき!」って怒られない?


「私は愚か者である故……、ヌーグルちゃんが、我が白熊のぬいぐるみのように思えてならないのだ……」


 ヴィンセント陛下は、ヌーグルちゃんをそっと寝台に横たわらせたの。


 どうしよう! これから、どうなっちゃうの……!?


 ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんの足の向こうで、パジャマの上着を脱いだの。


「彫刻は美術館に帰ってくださーい!」


 こんな顔と身体の人、人間なわけないもん!


 ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんのお顔の横に手をついた。ヴィンセント陛下のお顔がすっごく近くにある。これって、このままチューされちゃう!?


「私のことは、ヴィンスと呼んでほしい」


 なに言っちゃってるのー!? かっこよすぎ! ヌーグルちゃん、ドキドキしすぎて死んじゃいそう!


「ヴィンス」


 ヌーグルちゃん、がんばってご要望にお応えしたの!


 ヴィンスは、すっごくうれしそうに笑った。


 王様な上に、こんなにかっこいいなんて、絶対に反則だと思う!


「かわいいな。お腹までモッフモフだね」


 ヴィンスはヌーグルちゃんの裸んぼのお腹に、お顔を押しつけてきたの!


『お腹がモッフモフ』って、どういう意味!?


 ――こんなの、えっちすぎるー!


 ヌーグルちゃん、気絶しちゃったの!



 翌朝、目が覚めると、ヌーグルちゃん、裸んぼのヴィンスに腕枕されてたの。


「あわわわわ」


 ヌーグルちゃん、ヴィンスと一夜を共にしちゃったの!


 これはもう、本当に夫婦になっちゃったの!


「おはよう、ヌーグルちゃん。ヌーグルちゃんからは、お日様の匂いがするのだな」


 ヴィンスが目を開けて、笑いかけてきた。


「ひゃー!」


 ヌーグルちゃん、恥ずかしくて両手でお目々を隠したの。


「そう恥ずかしがるな」


 ヴィンスったら、からかってくる!


「だって! だって!」


「心から愛している。大事にする」


 ヴィンスがぎゅっと抱きしめてくれた。


 ヌーグルちゃん、そのまま、また気絶しちゃったの……!


 しばらくして意識が戻ったら、ヴィンスがとっても心配そうにしてた。


「……ヌーグルちゃんはどうだろうか? 私を愛してくれるか?」


「わかんない! ヴィンスがかっこよすぎて、なんにもわかんない!」


 ヌーグルちゃんが正直に答えると、ヴィンスは「ククッ」と笑ってた。笑いごとじゃないと思うの!


 ヴィンスは簒奪王から王位を簒奪し返したとかいう、なんだか難しいことをしたらしかった。


 ヌーグルちゃんとヴィンスは、初夜の次の日からは、もう国内の各地の貴族とか、隣国の使者とかのご挨拶を受けないといけなくなったの。


 ヌーグルちゃん、ヴィンスのお妃様になったから、豪華なドレスを着て、みんなのご挨拶を受けて、いろんなお話を聞いたりしてたの。


 そうやって十日くらいしたら、トコトコ村のパパやママやみんなが王宮に来たの。


 ヌーグルちゃん、謁見の間でパパやママやみんなと会ったの。会いたくなかったけど……。


「ヌーグル、本当にお妃様になったのか!」


「まあ、あの大柄なヌーグルが!」


 パパとママは、とっても驚いてた。失礼しちゃうの!


 ウルールカくんとニャーナちゃんも来てたし、村長さんや、他のみんなもいた。


 みんな、ヌーグルちゃんより小さくてかわいいの……。


 ヌーグルちゃん、やっぱり村の誰よりもデッカイなの……。


「ヌーグルの故郷の者たちか! よく来た!」


 ヴィンスはニコニコと笑って、玉座から立ち上がった。


「わあ、王様だあ!」


 ウルールカくんが叫んだ。


「王様、かっこいい!」


 ニャーナちゃんも、ヴィンスに目が釘付けになってる。


「ヌーグル、結果として、よかったじゃないか!」


 村長さんの言う『結果として』って、ウルールカくんに婚約破棄されたこと? ちっともよくなかったの!


「ニャーナたち、ヌーグルちゃんのおともだちなんです! 王様とも仲良くしてみたーい!」


 ニャーナちゃんが、しっぽをフリフリして、ヴィンスにアピールしてる……。


 村のみんなが、次々とかわいいポーズをしたりする。


 どうしよう……。みんな、ヌーグルちゃんより、うんとかわいく見える……。


「そうか、ヌーグルちゃんのおともだちか」


 ヴィンスが、ニャーナちゃんの言葉をくり返した。


 ――ヴィンスまで、なんでニャーナちゃんの言うことなんて信じるの!


 ヌーグルちゃん、とっても悲しくなった。


「おともだちじゃないもん!」


 ヌーグルちゃん、王妃様の椅子から飛び降りて、トコトコッとヴィンスの前に出たの。


「ヌーグルちゃん……、ひどい……」


 ニャーナちゃんが目をウルウルさせる。


「みんな、みんな、おともだちじゃないもん! だいっきらーい!」


 ヌーグルちゃん、もう一回、叫んだの。


 ヴィンスが信じてくれないなら、ヌーグルちゃん、またどこか別な場所でがんばるだけだもん!


「そうか。この者たちは、我が妻の『おともだち』ではないのか」


 ヴィンスがサッと片手を上げると、『鋼鉄の向日葵』の精鋭たちが集まって、ヌーグルちゃんとヴィンスを囲んで守ってくれたの。


 同時に、大将軍になったギャレットさんの配下が、トコトコ村のみんなを捕らえたの。


 ヌーグルちゃん、とってもびっくりしたの!


「王妃、この者たちをどうしたい?」


 ヴィンスがヌーグルちゃんを抱き上げて、目線をあわせて訊いてきた。

「ヌーグルちゃん……、もう二度とトコトコ村には戻らないから……。トコトコ村のみんなも、もう会いに来ないでほしい……」


 ヌーグルちゃんが小さな声で言うと、ヴィンスはヌーグルちゃんをギュッと抱きしめてくれたの。


「大嫌いだと言っていたな。辛い目にあわされたのか?」


「うん……。だけど、そのおかげで、ヴィンスに会えたの……。ヴィンスは、ウルールカくんとは違って、ニャーナちゃんよりヌーグルちゃんのこと信じてくれたの。だから、もういいの……」


「ウルールカくんとニャーナちゃんか……。そいつらも来ているのか?」


 ヴィンスの身体が少し強張った。どうしたんだろ?


「うん……」


「恥知らずどもが! 大将軍、トコトコ村の者どもを全員、国外に追放しろ! 私と王妃の統べる国に、あの者どもが住むことは許さぬ!」


 ヴィンスが叫ぶと、ギャレットさんの配下たちが、トコトコ村のみんなをどこかに連れて行った。


「すまなかったな。ヌーグルちゃんの故郷の者たちだからと、謁見の間にまで入れてしまった」


「ううん、ヴィンスは知らなかったんだもん……」


 ヌーグルちゃん、ヴィンスをギュッと抱きしめた。ヴィンスも抱きしめ返してくれた。


「ヴィンス、信じてくれてありがとう」


「当然ではないか。ヌーグルちゃんを信じなくて、他の誰を信じようか」


 ヴィンスは「フフッ」と笑って、ヌーグルちゃんの両方のほっぺにチューしてくれたの。


 大臣たちがすっごくザワザワして、一人の大臣が発言の許しを求めてきた。


「あの……、国王陛下、本当にトコトコ族を妻になさったのですか?」


「見てわからないのか?」


 ヴィンスは、本気で意味がわからないって感じだった。


「い、いえ……。とても仲睦まじく見えまする……」


「そうだろう」


 ヴィンスはうっとりした顔で、ヌーグルちゃんを見たの。


 ヌーグルちゃん、この素敵な王様と一緒に、ギャレットさんのいた敵国を征服したの!


 近隣諸国も併合して、みーんな、ウィータ王国にしちゃったの!


 征服王ヴィンセントの妻、『最強の白ヒグマ』である王妃ヌーグルちゃん。


 裸んぼになったヴィンスがえっちすぎて、いまだにすぐ気絶しちゃうのはナイショなの!

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― 新着の感想 ―
ヌーグルちゃん、信じてくれて愛してくれる人に会えて、本当に良かったね。 ヌーグルちゃんの侍女になって、お手入れしてあげたいなぁ!
クマとして生まれたものに、ある意味最上級の幸せを、誠にありがとうございました。 戦場で、われ知らず戦ってしまうヌーグルちゃんは素敵でした。 はじめ、実物大のヒグマで想像してましたから、戦場無双、人間薙…
面白かったです。 偶然や勘違いで成功していく話、好きなんです! 所々に見えるヌーグルちゃんの勘違いが面白かったです。「椅子がもらえるの~?」など。 全くテイストが違う作品だったので、作風の幅広さに驚き…
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