『生けるぬいぐるみ』の異名を持つトコトコ族のヌーグルちゃん、婚約破棄されて村を飛び出し、最終的に王妃となる~ヌーグルちゃんが王様のお嫁さんになったからって、急におともだちみたいな顔してもダメ!~
「ヌーグルちゃん、デッカイもんなぁ……」
パーティー会場のどこかで、誰かが言ったの。
ヌーグルちゃん、たしかにトコトコ村の誰よりも『デッカイ』なの……。
トコトコ村に住むトコトコ族は、二足歩行の小柄な獣人。他の種族からは、『生けるぬいぐるみ』って呼ばれてる。
ヌーグルちゃんは、白ヒグマのトコトコ族。真っ白な毛皮のクマさんなの。
トコトコ村は、ここ数日は春祭りをしてたの。今はその後夜祭のダンスパーティー中だった。
ヌーグルちゃん、春らしいピンクのフリフリのドレスを着てるの。
「ヌーグルちゃんは、小柄で可憐なこのニャーナちゃんにいじわるをした! 洗濯物を洗った水をかけたり、愛用のブラシを盗んだり、終いには突き飛ばしただろう!」
黒い燕尾服姿のウルールカくんが、右腕にニャーナちゃんをつかまらせて、ヌーグルちゃんをにらみつけてた。
ヌーグルちゃん、四歳の時から、十年間もウルールカくんの婚約者をやってたのに……。
白ネコのトコトコ族のニャーナちゃんは、ウルウルした目でヌーグルちゃんを見てる。ニャーナちゃんも、ピンクのフリフリのドレスを着てた。まるでヌーグルちゃんの真似っこしてるみたい……。
ウルールカくんは、白オオカミのトコトコ族で、村長さんの息子なの。次の村長さんとして、ヌーグルちゃんと一緒に村を守っていくことになってたの……。
「あたしが小さくってかわいいから……。あたしが悪いの……」
ニャーナちゃんは、弱々しく下を向いた。
「そんなことないよ」
ウルールカくんがニャーナちゃんをなぐさめてる。
「ヌーグルちゃん、いじわるなんてしないもん!」
このままじゃ、ヌーグルちゃん、いじめっこにされちゃう!
「嘘をつくな! ぼくはヌーグルちゃんとの婚約を破棄する!」
ウルールカくんは、ニャーナちゃんを守るみたいに抱き寄せた。ニャーナちゃんのこと、ヌーグルちゃんから守ってあげようとしてるみたい!
ヌーグルちゃん、ウルールカくんと一緒に村を守れるように、ずっといろんな武術の練習をしてきたの。それなのにひどいよ!
「ウルールカくん、ヌーグルちゃんの婚約者なのに、ヌーグルちゃんのこと信じてくれないんだ……!」
ヌーグルちゃんはショックだったの。ずっといろんなこと、一生懸命にやってきたのに……。
「まあまあ、ヌーグルや、仕方ないだろう」
「こうなっちゃうとねえ」
ヌーグルちゃんのパパとママが、ヌーグルちゃんをなだめようとしてきたの。一人娘のヌーグルちゃんと一緒に怒ってくれないんだ……。
「ヌーグルちゃんとニャーナちゃんだとねえ……」
「ニャーナちゃんは、しっぽがシュッと長くて色っぽいけど……。ヌーグルちゃんのしっぽは、まん丸だもんなあ」
パーティー会場のどこかで、また誰かが言ったの。呆れてるみたいだった。
ヌーグルちゃんが、誰よりも大きな女の子だから?
みんな、ちっちゃくってかわいいニャーナちゃんの方がいいの?
ヌーグルちゃん、パーティー会場を見まわしたの。そうしたら、村のみんなは、ヌーグルちゃんからスッと目を逸らしたの。
「みんな嫌い! もう知らない!」
ヌーグルちゃん、悲しくなっちゃって、泣きながらパーティー会場から走り出たの。
お外は夜で真っ暗だった。お空には、大きなまん丸のお月様と、キラキラのお星様がいっぱいあった。
「こんな村、だいっきらい!」
ヌーグルちゃん、おうちの自分の部屋に戻ると、ドレスを脱ぎ捨てた。
このウィータ王国には、王妃様や王女様たちを守る女性の近衛騎士たちがいるの。その女性の近衛騎士たちは『鋼鉄の向日葵』って呼ばれていて、ヌーグルちゃんみたいに大きな女の人ばっかりなんだって。
「ヌーグルちゃんには、『鋼鉄の向日葵』が似合ってるよねえ」
前にニャーナちゃんと取り巻きの女の子たちが、ヌーグルちゃんを見てクスクス笑いながら言ってたの。
ヌーグルちゃん、デッカイし、力が強いの! 村長夫人として村の自警団の団長になるために、ずっと武術も練習してた!
「本当に『鋼鉄の向日葵』になってやるんだから!」
ヌーグルちゃん、自警団のユニフォームを着たの。薄茶色の革の兜と鎧とブーツなの。
『鋼鉄の向日葵』だったら、これまで練習してきた武術だって生かせるもん!
まわりもみーんなデッカイ女の人だったら、ヌーグルちゃんと仲良くしてくれるはずだもん!
ヌーグルちゃん、デッカイままで、自分らしく生きるんだもん!
「だいっきらーい!」
一回、力いっぱい叫んだら、余計に涙が出てきたの。
ヌーグルちゃん、おうちどころか、村を飛び出して、夜の森の中を走ったの。フクロウが「ホーホー」って鳴いてて、ちょっぴり怖かったけど、気にしないでずっと走ったの。
走って走って、朝になる頃、隣町に到着したの。
隣町の東門には、ちょうど馬車が止まってた。
「志願兵ども! みんな乗ったな?」
軍服を着た人間のオジサンが、幌馬車の荷台に向かって声をかけてた。
――志願兵っていうことは、この馬車に乗ったら、隣国との戦争に行かれるってこと!?
ヌーグルちゃんはただの平民のトコトコ族だから、きっと近衛騎士なんて簡単にはなれないの。
だけど、戦争で大活躍すると、王様からご褒美がもらえるって、前に聞いたことがある。
ヌーグルちゃん、決めた! 王様に頼んで『鋼鉄の向日葵』に入れてもらう!
トコトコっと馬車に近寄って、ピョーンと荷台に飛び乗った。
「ヌーグルちゃんです! よろしくお願いします! みなさん、一緒にがんばりましょう!」
ヌーグルちゃん、馬車にいる人間の男の人たちにご挨拶した。
人間の男の人たちは、誰もお返事してくれなかった。すごく元気がなかったの。
この人たちも、きっといろいろあったんだと思う。
ヌーグルちゃんだって婚約破棄されなかったら、戦争に行く馬車になんて乗らなかったもん。
ここには仲間がいっぱいいるんだもん!
ヌーグルちゃん、さみしくないよ!
馬車がガラガラ動き出したから、ヌーグルちゃんも馬車のすみっこに座ったの。
みんな一言もしゃべらなかった。
◇
馬車は何日もかけて、ヌーグルちゃんを戦場に連れて行ってくれたの。
ヌーグルちゃんたち、一番前に並んでいいことになったの! すっごく活躍しやすそう!
長い木の先端に小さな金具がある、槍っていう武器を持たされた。
村の自警団の武器は、畑仕事で使うクワとかスキとか鎌だったの。
金属の多さでいったら、槍よりクワとかスキとか鎌の方が多くて強そうだった。
馬車に一緒に乗ってきた人間のみんなは、軍隊の兵隊さんのお洋服を着せられてた。
ヌーグルちゃんは人間よりうんと小さいから、お洋服のサイズがあわなかった……。
「そのままの格好でかまわん」
って言ってもらえたから、ほっとした。追い返されちゃうかと思ったんだもん。
ヌーグルちゃんたち、戦場で横一列に並んだの。ここには人間以外の少数民族もちょっとだけいた。エルフ、竜人、いろんな妖精族、巨人族。人間よりだいぶ大きい子や小さい子は、みんな自分で持ってきたお洋服を着てた。
ヌーグルちゃんたちの目の前には、薄茶色のレンガでできた敵国の国境の防壁がある。
ヌーグルちゃん側の総大将は、王様の甥っ子らしいの。王様には、王太子のまま亡くなったお兄さんがいるんだって。
敵国の国境を守っているのは、敵国の王様の弟なの。ヌーグルちゃん側の総大将のお姉さんと結婚した人らしかった。
王族は、このウィータ王国でも、敵国でも、みんな人間がやってるの。人間たちも、なんだかいろいろ複雑みたい……。
――太鼓がドンドコ打ち鳴らされて、「突撃ー!」っていう号令が聞こえた。
ヌーグルちゃん、槍を持って、トコトコトコトコ前進したの!
絶対に『鋼鉄の向日葵』になるんだもん! がんばらなくちゃ!
ヌーグルちゃんたちの後ろから、縦長の木の箱がいくつもガラガラって音をたてながら進んできた。
「おお、攻城櫓が来たぞ!」
人間の兵隊さんの誰かが言った。
ヌーグルちゃん、攻城櫓っていう縦長の車輪のついた箱のこと、初めて見たの。なにに使うのか、わかんなかった。
「あれはなんですかー!?」
ヌーグルちゃん、まわりの人たちに質問してまわったの。
「あいつはな、防壁の上に、誰よりも早く上がれる道具だっ!」
一人の兵隊さんが、全力疾走しながら教えてくれた。
「そうなんですね! ありがとうございます!」
ヌーグルちゃん、兵隊さんと並走しながら、ちゃんとお礼を言ったの。
その兵隊さんは、梯子を使って攻城櫓に入ったの。他の人たちも、次々に攻城櫓に吸い込まれていった。
――みんな、手柄を立てたいんだ!
ヌーグルちゃん、出遅れちゃったの!
ヌーグルちゃんも慌てて、一つの攻城櫓の梯子を上ったの。
攻城櫓の中は、人間でいっぱいだった。
ヌーグルちゃん、ここでは小さいから、なんとか隙間に入り込めたの。
「ヌーグルちゃんです! みなさん、よろしくお願いします!」
元気にご挨拶すると、「おお、よろしくな!」って返事してもらえたの。
「ヌーグルちゃんとやら、見ない顔だな」
攻城櫓の人たちは、とっても気さくだったの。
「はい、戦場は初めてです! がんばりますので、よろしくお願いします!」
「礼儀正しいな。お貴族様か?」
「トコトコ族です!」
「そうか。まあ、がんばれや」
みんな励ましてくれたりして、とってもやさしかったの!
ヌーグルちゃん、戦争は初心者だから、最初は様子を見ようと思ってたの。攻城櫓に乗り込んだのも、最後だったしね。
だけど、防壁が近づくにつれて、わかったの。
――ヌーグルちゃん、もしかして一番良いポジションを取っちゃった!?
ヌーグルちゃんの乗った攻城櫓が、一番に防壁に到着しそう!
しかも、ヌーグルちゃん、一番前の真ん中に陣取ってる!
えーっ!?
ヌーグルちゃん、一番乗りで、敵国に攻め入れるってこと!?
どうしよう!? 勝手がわかんない!
こんな槍とかいう、金属が先っぽにちょっとついてる武器で、本当に戦えるの!? 槍って、ほとんどが木の棒なんですけどー!?
「へへっ、手柄を立ててやるぜ!」
誰かが震える声で言った。
そうだった!
ヌーグルちゃん、怖気づいていられないの!
王様に頼んで『鋼鉄の向日葵』にしてもらうんだもん!
すごい手柄を立てなくちゃ!
手柄……?
手柄って?
自警団の手柄は、泥棒さんを捕まえるとかだったけど……。
兵隊さんって、なにをやったら手柄なの?
――ヌーグルちゃん、なんにもわかんない!
考えている間にも、攻城櫓は進んでいった。
防壁からは、先端に火のついた矢がいっぱい飛んできた。けれど、ヌーグルちゃんの両隣にいる人が槍をブンブンふって、矢をみーんな弾いてくれたの。
「わあ、すごーい! 強いんですね! とっても強いんですね!」
ヌーグルちゃん、両隣の人を褒めたの!
「おうよ!」
「俺たちゃ、いつも一番櫓に乗ってるからな!」
この攻城櫓って、一番櫓だったんだ! だから先頭なんだ! ヌーグルちゃん、なんにも知らなかったの!
槍ってすごいの! 防壁に到着する前に、防壁にいる敵の兵隊さんたちを追い払うお道具だったの! 木の棒が長いのって、意味あったんだ!
ヌーグルちゃん、他のみんなと一緒になって、槍をブンブンして敵の兵隊さんを追い払ったの!
防壁が近くなったから、ヌーグルちゃん、ピョーンと大ジャンプして防壁に飛び移ったの!
「おう、やるなあ!」
「すげえ!」
両隣の人が褒め返してくれたの! 和気あいあいなの!
「勇敢なるヌーグルちゃんに続けー!」
攻城櫓から、みんながドンドン飛び移ってきたの!
ヌーグルちゃん、一番に防壁の上に到着したから、他のみんなのために槍で敵の兵隊さんたちを追い払ったの!
「なんだ、あの動きは!」
「気を付けろ! 足を持って行かれるぞ!」
「すごい槍さばきだ!」
敵の兵隊さんたちは、ヌーグルちゃんにびっくりしてた!
「ヌーグルちゃん、さすが一番櫓に乗るだけあるな!」
「なるほどな! 自信があったわけか!」
味方の兵隊さんたちも、いっぱい褒めてくれたの!
「ありがとうございます! ヌーグルちゃん、がんばります!」
みんな先輩だから、ヌーグルちゃん、ちゃんとお辞儀してお礼を言ったの。
そうしたら、崩れたレンガの横っちょに、金色のペンダントが落ちてるのを見つけたの。
ヌーグルちゃん、その楕円形の平べったいペンダントを拾ったの。これって、ロケットペンダントっていう、大事なものが入れられるペンダントなの!
ロケットペンダントをパカッと開けると、金髪の束が入ってたの。ロケットペンダントの蓋の裏には、金髪の綺麗な女の人が描かれてた。この金髪って、きっとこの女の人のだよね!
ヌーグルちゃん、すっごく大事なものを拾っちゃったの!
「このペンダント、誰のですかー?」
ヌーグルちゃん、槍を左手に持って、右手でロケットペンダントをよく見えるように掲げたの。
「落とし物ですよー! 誰のですかー?」
ヌーグルちゃん、防壁の上をトコトコ右に行ったり、左に行ったりして、持ち主を探してあげたの。
矢がビュンビュン飛び交って、剣と剣や、剣と槍が、ガキンガキンぶつかりあってた。
ヌーグルちゃん、激戦だあ、って思いながら、一生懸命に持ち主を探したの。
こんな戦場にまで持ってくるロケットペンダントなんて、きっと中身の髪の毛は遺品とかだもん!
落としちゃった人は、絶対に悲しいと思う!
「おお、それは! そのロケットペンダントは……!」
防壁が一段高くなった見張り台みたいな場所に、銀色の立派な鎧を着たヒゲのオジサンがいたの。手には大きな斧を持ってる。
敵国のヒゲのオジサンは、ヌーグルちゃんのロケットペンダントを指さしてた。
「あなたのロケットペンダントですか? 落ちてましたー!」
ヌーグルちゃん、槍を使ってピョーンと飛んで見張り台に上がって、ヒゲのオジサンにロケットペンダントを渡してあげたの。
「ありがとう、ウィータ王国の小さな白き兵士よ……」
「これって大事なものですよね! 見つかって良かったですね!」
「貴様の慈悲は忘れぬ……!」
ヒゲのオジサンは、泣きながら首にロケットペンダントを付けた。
落とし物を届けただけじゃ、手柄にならないよね!?
ヌーグルちゃん、戦わないとなの!
見張り台には、ヒゲのオジサンと仲間が数人しかいないの……。ここだと、あんまりいっぱいの敵は倒せない……。
ヌーグルちゃん、もうここに用はないかなって思ったの。だから、ピョーンと飛び降りて、元の場所に戻ったの。
ヌーグルちゃんって、人間よりうんと小さいトコトコ族だから、槍を突き出しても足しか突き刺せないの。
「イテッ!」
って言われる程度じゃ、活躍とは言えないと思う……。
ヌーグルちゃん、胸壁って呼ばれてるバルコニーの柵みたいなところに飛び乗ったの。槍を持ってグルグルまわって、まわりの敵をみーんな倒したの。
だけど……、やっぱり戦場って初めてだから、勝手がわかんなくって……。
ドンドン回転のスピードが上がっちゃって、火が燃えてる丸いお鍋みたいなのを槍で吹き飛ばしちゃったの!
「あーっ!」
って叫んだ時には、もうお鍋はお空を飛んで行って、建物の屋根に落ちちゃったの!
「兵糧庫に火が……!」
「なんて連中だ!」
「俺らの飯が燃えちまう!」
敵国の兵隊さんたちは大騒ぎになった。
「やることがエグいな!」
「負けてらんねえ!」
味方の兵隊さんたちも、なんだか盛り上がってきちゃったの……。
どうしよう、どうしようって思っている間も、ヌーグルちゃん、グルグル回っちゃって……。
槍と一緒に、ビューンって、防壁の上から敵国に飛んでっちゃったの。
「わぁーっ!」
って叫びながら、ヌーグルちゃん、槍を地面に突き刺したの。戦場から離れちゃったら、手柄を立てられないもん!
そうしたら、槍の木がグーンと曲がってから、反対側にポーンって弾き飛ばされちゃった!
「兵糧を守れ!」
「急げー! 火を消せー!」
なんて叫んでる敵の兵隊さんたちの頭上を飛び越えて、ヌーグルちゃん、誰もいない出口の前に着地したの。大きな両開きの扉で、硬そうな木でできてるの。
みんな、うんと遠くの兵糧庫で戦ってるみたいだった。
防壁の上にも、どうやって戻ったらいいのか、全然わかんない。
ヌーグルちゃん、あんまり戦場には向いてないのかも……。
『鋼鉄の向日葵』には、王都に行って、騎士の試験とか受けたらなれるかもしれないよね……。普通は戦争なんて、あんまり行かないもん……。
――こっそり抜け出しちゃおうかな……?
この門には誰もいないもん、きっとバレないよね……?
ヌーグルちゃん、木でできたカンヌキを「えーい!」って叫びながら押し上げて、門をちょこっとだけ開けて、トコトコ外に出たの。
そうしたら、青いお空の下、地平線の前に、ウィータ王国の兵隊さんたちがズラーッと横並びで立ってたの。
「あ……っ!」
逃げ出したこと、こんな大勢に見つかっちゃった!
どうしよう……!
絶対に怒られちゃう……!
だけど、今から門の内側に戻っても、槍がないから手柄なんて立てられないの……。
ヌーグルちゃんがオロオロしていると、白い馬が一頭、ヌーグルちゃんに向かって走ってきたの!
「どうしよう! 捕まっちゃう……!」
その白い馬に乗った人は弓を構えて、ヌーグルちゃんに向けて矢まで射ってきたの!
ヌーグルちゃん、目をまん丸にして固まってたら、ヌーグルちゃんの真後ろで、敵国の兵隊さんが一人、ドサッと倒れたの。
「あの人間の男の人、ヌーグルちゃんのこと助けてくれたんだ!」
男の人は弓矢を構えてるから、馬のスピードが落ちてない!
このままだと男の人が門に激突しちゃう!
ヌーグルちゃん、急いで門を両方とも全開にしたの!
「よくやった!」
白い馬に乗った男の人は、ヌーグルちゃんの鎧の首元をグイッとつかんで、馬に乗っけてくれたの!
ヌーグルちゃん、男の人と一緒に、敵国の国境の町を馬で駆け抜けたの。
男の人の後ろからは、大勢の騎兵の人たちもついてきた。
「門が破られたぞー!」
っていう敵国の兵隊さんっぽい声がした。
えーっ、すごーい!
あの門すっごく硬そうなのに、紙みたいにビリビリって破ったりできるんだ!
誰がそんなことしたんだろ!?
国境の町は、あっという間に戦場になって、あっちでも、こっちでも、矢がビュンビュン、剣とか槍がガキンガキンしてた。
「我らの『最強の白ヒグマ』ここにあり! 怯むなー!」
白い馬に乗った男の人は、剣の先をお空に向けて、味方の兵隊さんたちを元気に励ましてた。
ヌーグルちゃんの後ろにいるその男の人は、あっちこっちから飛んできた矢も、向かってきた剣の先も、投げつけられた槍も、みーんな、剣でなんとかしてくれたの。
もしかして、ヌーグルちゃん、すっごく強くて偉い人に捕まっちゃった!?
ヌーグルちゃん、後ろにいる男の人を見てみた。短めの金髪はゆるいウェーブで、瞳は青くて、若くてかっこいい男の人だったの。
「えっ、かっこいい……!」
ヌーグルちゃん、思わず声に出して言っちゃったの。トコトコ族から見ても、すっごくかっこいい男の人だったんだもん!
「もしや、メスか? 女の子なのか?」
男の人が、ちょっとびっくりした顔をした。
「そうです! 女の子です!」
「そうだったのか。白き猛者よ、防壁の上で活躍する姿も見ていたぞ」
「え……っ!?」
白き猛者って、ヌーグルちゃんのこと!? 全然女の子っぽくない!
「あれほどの活躍をして、褒美になにを望む?」
もしかして、この男の人、ご褒美の用意の担当者!?
「ヌーグルちゃん、王妃様……」
あれ? この国、今ちゃんと王妃様っているの? 王女様しかいない……? 守る相手は、王妃様でも、王女様でも、どっちでもいいんだけど……。とにかく騎士にしてもらって、『鋼鉄の向日葵』に入れてもらいたいって言わなきゃ!
「ほう、なるほど。王妃の座を望むか」
「えっ!?」
男の人は、ヌーグルちゃんが黙っているうちに、勝手に王妃様の座席をくれるみたいなことを言い出したの。
「えっと……、そうじゃなくって……」
ヌーグルちゃん、椅子が欲しいわけじゃないって、ちゃんと説明しようとしてたのに……。
建物の陰から、銀色の立派な鎧を着たオジサンが飛び出してきたの。あの人は、見張り台にいた敵国のヒゲのオジサン!
「おのれ、ギャレット! 姉上を娶っておきながら死なせた上に、我が国に攻め入ろうとは! どれだけ卑劣なのか!」
男の人は、ヒゲのオジサンに剣を向けた。
「お姉さんって、ロケットペンダントの絵の人!?」
ヌーグルちゃん、びっくりして訊いたの。あの絵の女の人って、この男の人のお姉さんだったの!?
「ロケットペンダント?」
「落とし物だったの! 拾って届けてあげたら、ヒゲのオジサン、泣いちゃったの!」
ヌーグルちゃん、一生懸命に説明したの!
「ギャレットが、姉上の絵姿を持ち歩いているというのか?」
ヒゲのオジサンは、ギャレットっていう名前みたい。
「髪の毛も入ってた!」
「そうか……、遺髪まで……」
男の人は、なんだか辛そうな顔をしてギャレットさんを見たの。
「貴様の国の王が、身重のマーガレットを連れて挨拶に来いと、我らに強いたのだろうが!」
ギャレットさんは木こりなのか、巨大な斧で斬りかかってきた。
「なんだと!?」
「我らは戦争を避けるため、仕方なく国境を越えることにした。だが、臨月のマーガレットは山中で産気づき、息子を残して、死の国へと旅立ってしまったのだ!」
ギャレットさんは泣きながら、男の人に斬りかかってくる。男の人は、剣でガキンガキンと斧を弾いていた。
「クソッ、そういうことか! 王も、『王家の影』も、ギャレットが姉上を殺したと言っていた。我が配下たちは、ギャレットが王命で姉上を連れて旅立ち、山中で出産させたと……」
「王はお前たち姉弟の親代わり。信じたかった気持ちはわかる。だがな……!」
「ああ、私にもわかった……。私に貴国を攻めさせるため、王は臨月の姉を挨拶に来させようとしたのだろう。……だが、貴国の王もどうなのだ? 貴方に我が国を攻めさせるため、我が国の要求を飲んだのでは?」
えっ、そんな難しい政治のお話になっちゃうの!?
「ああ……、そうか……。だから、兄上は……」
ギャレットさんは攻撃をやめてくれた。
「どちらの王もクズだ! クズどもが、我が姉上を殺したのだ! 私がどちらの王も討ち取り、姉上の仇を討つ!」
そう宣言してからの男の人は、とーっても素早かったの。
まずギャレットさんに味方になってもらってた。
ギャレットさんと二人で、国境の町にいる兵隊さんたちを敵も味方も全員まとめて、一つの軍隊にしてた。
男の人はギャレットさんと馬を並べて、王都に行くことにしたの。
ヌーグルちゃん、ずーっと男の人と一緒の馬に乗ってた。
男の人はヴィンセント殿下っていう、王様の甥っ子だったの。
ヴィンセント殿下って、正統なる王家の血筋に連なる、我らの王なんだって! ヌーグルちゃん、ずっと一緒に馬に乗ってたけど、そんなこと全然気づかなかったの!
ヴィンセント殿下はギャレットさんと一緒に王宮を攻めて、王様も、王妃様も、王太子たちも、他の王族も、みーんな処刑しちゃったの!
「新たなる我らの国王陛下にご挨拶いたします!」
ヌーグルちゃん、ギャレットさんと並んで、王様になったヴィンセント殿下の前でひざまずいたの。
玉座の間っていうところなの!
「私をこの玉座へと導いた『最強の白ヒグマ』よ」
国王陛下が近寄ってきて、ヌーグルちゃんのこと立たせてくれたの。
「はい、国王陛下!」
ヌーグルちゃん、元気にお返事したの! ご褒美で『鋼鉄の向日葵』に入れてもらうの! ちゃんとお話しなくっちゃ!
「そなたの望み、この私が叶えよう」
「ありがとうございます!」
わあ、よかったー! ヌーグルちゃん、『鋼鉄の向日葵』になれるの!
国王陛下はヌーグルちゃんの前でひざまずいて、ヌーグルちゃんの右手を握ったの。
ヌーグルちゃんが握手かなって思ってたら、国王陛下はヌーグルちゃんの手にチューしたの!
「あわわわわ!」
なんで!? なんでチューするの!?
「これより、『最強の白ヒグマ』ヌーグルちゃんが我が妃だ!」
国王陛下はスッと立って、ヌーグルちゃんを抱き上げたの。
「え……?」
我が妃ってなに!? 椅子がもらえる話……?
「国王陛下と王妃殿下に、我が忠誠を捧げます」
ギャレットさんが、国王陛下とヌーグルちゃんに言うんだけど……。それってヌーグルちゃんが王妃様ってこと!?
「その……、国王陛下、トコトコ族とご結婚なさるのですか?」
大臣っぽいオジサンが、国王陛下に訊いたの。
「そうだ。ヌーグルちゃんと戦場で約束した。なにか問題でも?」
国王陛下が冷たく笑う。
「いいえ! いいえ! とても愛らしい王妃殿下でございます!」
大臣っぽいオジサンは、冷や汗をハンカチで拭いてた。
ヌーグルちゃん、王妃様になりたいなんて言ってない……。どうしよう……。
「あの、やっぱり、王妃様は……。ヌーグルちゃん、トコトコ族だし……」
ヌーグルちゃん、ちゃんと説明しようとしたの。ヌーグルちゃんがなりたいのは、『鋼鉄の向日葵』ですよって……。
「ヌーグルちゃんよ、あれほどの活躍をしたのだ。どんな望みも思うがままだ。遠慮することはない」
国王陛下は、うっとりしてるみたいに目を細めた。とーってもうれしそうなの!
「えっと……、王妃様になったら『鋼鉄の向日葵』は……」
「もちろん護衛に付けよう。安心しろ。ヌーグルちゃんのことは、この私が絶対に守ると誓おう」
こんなに喜ばれると、断りにくいの……。
ヌーグルちゃん、『鋼鉄の向日葵』に護衛される側になっちゃった……!
◇
国王陛下は、あっという間に盛大な結婚式の準備をしちゃったの! お仕事すっごくスピーディー!
ヌーグルちゃん、大聖堂をトコトコ歩いて、神様の前でヴィンセント陛下に永遠の愛を誓ったの!
ウェディングドレスはリボンとフリルがいっぱいで、ウェディングベールもすっごく綺麗なレースだったの!
結婚式と同時に戴冠式もやったの! ヴィンセント陛下とヌーグルちゃん、立派な黄金の冠をかぶせてもらったの!
「国王陛下、王妃殿下、おめでとうございます!」
ギャレットさんや臣下の人たちが、いーっぱいお祝いしてくれたの!
それで、夜になったら……。
ヌーグルちゃん、お風呂に入れられて、とってもかわいい白いネグリジェを着せてもらったの。
侍女たちに寝室に案内してもらうと、お部屋にはヴィンセント陛下がいたの! 寝台に腰かけて、ヌーグルちゃんを見てる!
「おやすみなさいませ」
侍女たちは全員、どこかに行っちゃった。
「待ちくたびれたぞ」
ヴィンセント陛下は、白くて薄い布でできた裾の長いパジャマを着てた。おズボンはちょっと丈が短くて、お膝が隠れるくらいの長さだった。
寝台の横の燭台が、ヴィンセント陛下を照らしてる。トコトコ族が『生けるぬいぐるみ』なら、ヴィンセント陛下は『生ける彫刻』なんじゃない?
寝台には、真っ赤な薔薇の花びらが撒かれてる! 身体を拭いたりする布でてきた白鳥が二羽、向かい合って飾ってある!
これって……! これって……!
ヴィンセント陛下は立ち上がって、ヌーグルちゃんの前まで来た。
ロウソクの火がヴィンセント陛下の動きにあわせて、ユラユラと揺れ動いてる。
「そう緊張するな、我が花嫁よ」
ヴィンセント陛下は「フッ」と笑って、ヌーグルちゃんを抱き上げたの。
ヌーグルちゃんの心臓、ドキドキしすぎて爆発しちゃうかもなの……!
ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんを抱っこしたまま寝台に近寄って、片手で上掛けをヒラッとさせたの。
寝台の上の薔薇の花びらも白鳥の飾りも、みーんな飛んでっちゃった!
ヴィンセント陛下は、ヌーグルちゃんをそっと寝台に座らせてくれたの。
「かわいいな」
なんて言われて、ネグリジェも、下着も、ポイポイッと脱がされちゃったの。
ヌーグルちゃん、とってもびっくりしちゃったの。
「こうして見ると、完全に白熊のぬいぐるみだな」
「え……」
どういう意味なんだろ? 王妃様に見えないってこと?
「幼き日、母が私を罰するため、我が友である白熊のぬいぐるみを燃やしてしまったことがある」
ヴィンセント陛下は辛そうな顔をした。ヴィンセント陛下のお母さんは、前王と一緒にヴィンセント陛下のお父さんを毒殺して、王弟だった前王に嫁ぎ直して王妃様になった人だったの。この前、前王と一緒に処刑されてた!
「亡き父が贈ってくれた、実に愛らしい白熊のぬいぐるみだった。私は燃えゆく白熊のぬいぐるみに向かい、いつか我が元へ戻ってくるよう願った」
ヴィンセント陛下は、とっても悲しそうだったの。
「それは辛かったですね……。何歳くらいの時だったんですか……?」
「私が三歳だったか、四歳だったか……」
ヴィンセント陛下は十九歳で、ヌーグルちゃんは十四歳だから、ヌーグルちゃんが生まれるちょっと前のお話なの。
どうしよう、ヌーグルちゃん、「ただいま」って言ってあげたらいいの? 「嘘つき!」って怒られない?
「私は愚か者である故……、ヌーグルちゃんが、我が白熊のぬいぐるみのように思えてならないのだ……」
ヴィンセント陛下は、ヌーグルちゃんをそっと寝台に横たわらせたの。
どうしよう! これから、どうなっちゃうの……!?
ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんの足の向こうで、パジャマの上着を脱いだの。
「彫刻は美術館に帰ってくださーい!」
こんな顔と身体の人、人間なわけないもん!
ヴィンセント陛下はヌーグルちゃんのお顔の横に手をついた。ヴィンセント陛下のお顔がすっごく近くにある。これって、このままチューされちゃう!?
「私のことは、ヴィンスと呼んでほしい」
なに言っちゃってるのー!? かっこよすぎ! ヌーグルちゃん、ドキドキしすぎて死んじゃいそう!
「ヴィンス」
ヌーグルちゃん、がんばってご要望にお応えしたの!
ヴィンスは、すっごくうれしそうに笑った。
王様な上に、こんなにかっこいいなんて、絶対に反則だと思う!
「かわいいな。お腹までモッフモフだね」
ヴィンスはヌーグルちゃんの裸んぼのお腹に、お顔を押しつけてきたの!
『お腹がモッフモフ』って、どういう意味!?
――こんなの、えっちすぎるー!
ヌーグルちゃん、気絶しちゃったの!
◇
翌朝、目が覚めると、ヌーグルちゃん、裸んぼのヴィンスに腕枕されてたの。
「あわわわわ」
ヌーグルちゃん、ヴィンスと一夜を共にしちゃったの!
これはもう、本当に夫婦になっちゃったの!
「おはよう、ヌーグルちゃん。ヌーグルちゃんからは、お日様の匂いがするのだな」
ヴィンスが目を開けて、笑いかけてきた。
「ひゃー!」
ヌーグルちゃん、恥ずかしくて両手でお目々を隠したの。
「そう恥ずかしがるな」
ヴィンスったら、からかってくる!
「だって! だって!」
「心から愛している。大事にする」
ヴィンスがぎゅっと抱きしめてくれた。
ヌーグルちゃん、そのまま、また気絶しちゃったの……!
しばらくして意識が戻ったら、ヴィンスがとっても心配そうにしてた。
「……ヌーグルちゃんはどうだろうか? 私を愛してくれるか?」
「わかんない! ヴィンスがかっこよすぎて、なんにもわかんない!」
ヌーグルちゃんが正直に答えると、ヴィンスは「ククッ」と笑ってた。笑いごとじゃないと思うの!
ヴィンスは簒奪王から王位を簒奪し返したとかいう、なんだか難しいことをしたらしかった。
ヌーグルちゃんとヴィンスは、初夜の次の日からは、もう国内の各地の貴族とか、隣国の使者とかのご挨拶を受けないといけなくなったの。
ヌーグルちゃん、ヴィンスのお妃様になったから、豪華なドレスを着て、みんなのご挨拶を受けて、いろんなお話を聞いたりしてたの。
そうやって十日くらいしたら、トコトコ村のパパやママやみんなが王宮に来たの。
ヌーグルちゃん、謁見の間でパパやママやみんなと会ったの。会いたくなかったけど……。
「ヌーグル、本当にお妃様になったのか!」
「まあ、あの大柄なヌーグルが!」
パパとママは、とっても驚いてた。失礼しちゃうの!
ウルールカくんとニャーナちゃんも来てたし、村長さんや、他のみんなもいた。
みんな、ヌーグルちゃんより小さくてかわいいの……。
ヌーグルちゃん、やっぱり村の誰よりもデッカイなの……。
「ヌーグルの故郷の者たちか! よく来た!」
ヴィンスはニコニコと笑って、玉座から立ち上がった。
「わあ、王様だあ!」
ウルールカくんが叫んだ。
「王様、かっこいい!」
ニャーナちゃんも、ヴィンスに目が釘付けになってる。
「ヌーグル、結果として、よかったじゃないか!」
村長さんの言う『結果として』って、ウルールカくんに婚約破棄されたこと? ちっともよくなかったの!
「ニャーナたち、ヌーグルちゃんのおともだちなんです! 王様とも仲良くしてみたーい!」
ニャーナちゃんが、しっぽをフリフリして、ヴィンスにアピールしてる……。
村のみんなが、次々とかわいいポーズをしたりする。
どうしよう……。みんな、ヌーグルちゃんより、うんとかわいく見える……。
「そうか、ヌーグルちゃんのおともだちか」
ヴィンスが、ニャーナちゃんの言葉をくり返した。
――ヴィンスまで、なんでニャーナちゃんの言うことなんて信じるの!
ヌーグルちゃん、とっても悲しくなった。
「おともだちじゃないもん!」
ヌーグルちゃん、王妃様の椅子から飛び降りて、トコトコッとヴィンスの前に出たの。
「ヌーグルちゃん……、ひどい……」
ニャーナちゃんが目をウルウルさせる。
「みんな、みんな、おともだちじゃないもん! だいっきらーい!」
ヌーグルちゃん、もう一回、叫んだの。
ヴィンスが信じてくれないなら、ヌーグルちゃん、またどこか別な場所でがんばるだけだもん!
「そうか。この者たちは、我が妻の『おともだち』ではないのか」
ヴィンスがサッと片手を上げると、『鋼鉄の向日葵』の精鋭たちが集まって、ヌーグルちゃんとヴィンスを囲んで守ってくれたの。
同時に、大将軍になったギャレットさんの配下が、トコトコ村のみんなを捕らえたの。
ヌーグルちゃん、とってもびっくりしたの!
「王妃、この者たちをどうしたい?」
ヴィンスがヌーグルちゃんを抱き上げて、目線をあわせて訊いてきた。
「ヌーグルちゃん……、もう二度とトコトコ村には戻らないから……。トコトコ村のみんなも、もう会いに来ないでほしい……」
ヌーグルちゃんが小さな声で言うと、ヴィンスはヌーグルちゃんをギュッと抱きしめてくれたの。
「大嫌いだと言っていたな。辛い目にあわされたのか?」
「うん……。だけど、そのおかげで、ヴィンスに会えたの……。ヴィンスは、ウルールカくんとは違って、ニャーナちゃんよりヌーグルちゃんのこと信じてくれたの。だから、もういいの……」
「ウルールカくんとニャーナちゃんか……。そいつらも来ているのか?」
ヴィンスの身体が少し強張った。どうしたんだろ?
「うん……」
「恥知らずどもが! 大将軍、トコトコ村の者どもを全員、国外に追放しろ! 私と王妃の統べる国に、あの者どもが住むことは許さぬ!」
ヴィンスが叫ぶと、ギャレットさんの配下たちが、トコトコ村のみんなをどこかに連れて行った。
「すまなかったな。ヌーグルちゃんの故郷の者たちだからと、謁見の間にまで入れてしまった」
「ううん、ヴィンスは知らなかったんだもん……」
ヌーグルちゃん、ヴィンスをギュッと抱きしめた。ヴィンスも抱きしめ返してくれた。
「ヴィンス、信じてくれてありがとう」
「当然ではないか。ヌーグルちゃんを信じなくて、他の誰を信じようか」
ヴィンスは「フフッ」と笑って、ヌーグルちゃんの両方のほっぺにチューしてくれたの。
大臣たちがすっごくザワザワして、一人の大臣が発言の許しを求めてきた。
「あの……、国王陛下、本当にトコトコ族を妻になさったのですか?」
「見てわからないのか?」
ヴィンスは、本気で意味がわからないって感じだった。
「い、いえ……。とても仲睦まじく見えまする……」
「そうだろう」
ヴィンスはうっとりした顔で、ヌーグルちゃんを見たの。
ヌーグルちゃん、この素敵な王様と一緒に、ギャレットさんのいた敵国を征服したの!
近隣諸国も併合して、みーんな、ウィータ王国にしちゃったの!
征服王ヴィンセントの妻、『最強の白ヒグマ』である王妃ヌーグルちゃん。
裸んぼになったヴィンスがえっちすぎて、いまだにすぐ気絶しちゃうのはナイショなの!




