【第6話】契約の“第一段階突破”と、迫る監視者
戦いの翌朝――俺は変化に気づいた。
鏡を見ると、首筋の右側に黒い紋様が浮かんでいる。
炎のような形をしたその紋様は、心臓の鼓動に合わせてわずかに光っていた。
「……これ、なんだよ」
「“欲望の証”よ」
リリィが紅茶を飲みながら、さらっと言う。
「第一段階突破の証拠。契約が深まって、あんたはもう普通の人間じゃなくなったわ」
「いや、そんな軽く言うな!」
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どうやらこの証は、悪魔と契約した人間だけが持つ刻印らしい。
しかも、この段階になると――
「感覚が鋭くなる。普通の人間じゃ感じない“悪魔の気配”がわかるのよ」
「……ってことは、またあいつらと会う可能性が……?」
「大いにあるわね♡」
にこっと笑うリリィ。
こいつ、絶対楽しんでる。
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昼休み。
学校の廊下で、不意に背筋がぞわりとした。
足音が一つ。
だけど、振り返っても誰もいない。
次の瞬間、耳元で低い声が囁いた。
「契約者、確認……」
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気づいた時には、周囲が一瞬で色を失っていた。
また、あのモノクロ空間。
目の前に立つのは、真っ白な軍服を着た長身の男。
銀色の髪、無表情の顔。
背には巨大な黒い槍を背負っている。
「……誰だ、お前」
「我は“監視者”ジーク。悪魔界の秩序を守る者」
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「契約は監視下に置かれる。ルールを破った場合――契約者は即座に処分」
「処分……って、殺すってことかよ!?」
「殺すのは悪魔の方だ。契約者は魂を回収される」
背筋が凍る。
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リリィが俺の前に立った。
いつもの小悪魔モードではなく、目が冷たい。
「……あたしの契約に口出しするつもり?」
「監視者の仕事だ。第一段階突破者には、必ず“試験”を課す」
ジークは黒槍を構える。
「契約の適合度を、この場で試す」
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「……面白いじゃない」
リリィがSモードに変身する。
角と翼が広がり、黒い炎が床を焦がす。
「でも、一つだけ勘違いしてるわね――」
彼女が振り返り、俺の目を見つめた。
「この試験、あんたも戦うのよ」
「はああああ!? 俺!?」
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ジークが地を蹴った瞬間、黒い槍が閃光のように突き出される。
「防げ、ユウト!」
リリィが叫ぶ。
その声に反応して、俺の体が勝手に動いた。
右手を突き出すと、紋様が熱く輝き――黒い炎の壁が現れる。
「……っ!? これ、俺が……!」
「そう、それが第一段階突破者の力よ。さあ、試験を始めましょうか」
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次回予告(第7話)
【第7話】監視者との死闘と、“欲望リンク”の発動
> ジークの試験は、容赦のない殺気と速度。
ユウトとリリィは、力を共有する“欲望リンク”を使わなければ勝てない状況に追い込まれる。
しかしその発動条件は――互いの欲望を完全にさらけ出すことに。