表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/25

【第5話】“もう一人の俺”と、悪魔の真実



 黒い炎と鎖がぶつかり合う音が、モノクロの空間に響き渡る。

 リリィは一歩も退かず、グラウと互角に渡り合っている……はずだった。


 だけど俺の足は、地面に縫いつけられたように動けない。

 視線の先に立っている“影”が、俺を見つめているからだ。



---


「……お前、誰だ」


「俺? 俺は……お前だよ」


 “そいつ”は笑った。

 俺と同じ顔、同じ声、同じ体。

 けど、目だけが違う。

 底の見えない闇みたいな黒。



---


「なあ、知ってるか? あの悪魔……お前を守ってるんじゃない。

 お前を食ってるんだ」


「……は?」


「欲望ってのはエサだ。あの女はそれを食べて強くなる。

 今は可愛く守ってくれてるふりをしてるけど、最後には――」


 耳の奥で、何かがざわざわと蠢く感覚。

 息が詰まる。

 心臓が痛い。

 まるで、俺の奥底に隠してたものを引きずり出されるみたいだ。



---


「お前、本当は望んでるだろ?」


「何を……?」


「誰かに支配されることだよ。

 責任も選択も全部投げ出して、

 “強い誰か”に縛られて、生きていたいって」


 その言葉に、心のどこかがビクリと反応する。



---


「違う……俺は……!」


 否定しようとした瞬間、戦場のリリィが俺を見た。

 その目は鋭く、それでいて……どこか甘い。


 影がにやりと笑う。


「ほら、見ろよ。あの目……お前の奥底をわかってる目だ。

 あれが、悪魔のやり方だ」



---


 その時だった。

 背後からグラウの鎖が迫る――!


「ユウトっ!」


 リリィの声。

 でも、俺は一瞬……影の方へ手を伸ばしそうになった。



---


「……選べ。俺を取るか、あの悪魔を取るか」

 影の声が頭の中で響く。


 心臓が早鐘を打つ。

 頭が真っ白になる。

 選ばなきゃ――



---


 その瞬間、リリィの尻尾が俺の腰を絡め取った。

 そして、ぐいっと引き寄せられる。


「……ごめんね。迷ってる暇はないの」


 唇が触れた。

 熱と衝撃が頭の中を突き抜ける。



---


 景色が一変する。

 モノクロの空間がひび割れ、影の姿が薄れていく。


「な……これは……!」


「契約者に口づけは、支配の証。

 これであんたは、完全に私のものよ」


 リリィが悪魔らしく笑った瞬間、影は霧のように消えた。



---


 だが、消える直前――影は確かに囁いた。


> 「また会うさ。次は……お前が本気で望んだ時にな」





---


 時間が動き出す。

 グラウと黒髪の男は距離を取り、じっとこちらを見ていた。


「……やっぱり、面白い契約者だ」

 男はそう言い残し、空間ごと消えていった。



---


 残された俺とリリィ。

 胸の奥で、何かが確かに変わってしまった感覚だけが残る。


「ねえユウト……あんた、私を信じる?」


 その問いに、俺は――まだ答えられなかった。



---


次回予告(第6話)


【第6話】契約の“第一段階突破”と、迫る監視者


> 影との遭遇を経て、契約は第一段階へ移行。

ユウトは強化された感覚と引き換えに、“欲望の証”という刻印を得る。


しかし、それを嗅ぎつけた悪魔世界の監視者が、二人の前に現れる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ