【第4話】“欲望”を食らう悪魔と、初めての戦い
空間はモノクロに染まり、音が消えた。
動いているのは――俺とリリィ、それと目の前の男と、その背後に浮かぶ白面の悪魔だけ。
白面は笑わない。
感情を持たない仮面のような顔。
しかし、その目の奥から、ぞわりとした寒気が溢れてくる。
「彼女は“グラウ”。契約者の欲望を食べて、永遠に生きる悪魔さ」
黒髪の男は、淡々と説明する。
「永遠……? 食べる……?」
「つまり、“君の欲望”がエサになるってことだよ」
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「面倒ね」
リリィ(Sモード)が一歩前に出る。
尻尾が艶やかに伸び、先端から黒い炎が揺らめく。
「やめときなさい、坊や。あんたの悪魔は、私の相手にはならないわよ」
「へえ、強気だね。でも……試してみないとわからないだろ?」
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グラウがすっと腕を上げた。
瞬間、地面から黒い“鎖”が伸び、俺の足首を絡め取る。
「うわっ!? な、なんだこれ――」
「……この鎖はね、契約者の“最も深い欲望”に直接つながるんだ」
男の声がやけに近い。
「お前の欲望……なんだと思う? 守られたい? 支配されたい? それとも――」
「黙れっ!」
その瞬間、リリィが鎖を尻尾で叩き切った。
黒い炎が一瞬だけ強く燃え上がる。
「私の契約者に触るな」
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しかし、グラウは微動だにしない。
その足元から、新たな鎖が何本も伸び――今度はリリィの体を絡め取った。
「くっ……!」
「ほら、君の悪魔も、欲望に縛られてる」
男の声はどこまでも冷たい。
「ねえユウト」
リリィの声が震える。
でも、その目は真っ直ぐに俺を見ていた。
「お願い。あんたの“欲望”を――私にちょうだい」
「はあ!? 今そんな……!」
「そうしなきゃ、この封印は解けない。戦えないのよ!」
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頭の中がぐちゃぐちゃになる。
“欲望”って、つまり……あの……?
「……考えすぎよ。あんたが私に望むこと、全部でいいの」
リリィが微笑む。
その顔は、今までで一番――悪魔らしかった。
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胸の奥から、何か熱いものがこみ上げる。
逃げ場もなく、ただ一つ、はっきりと願ってしまう。
> ――リリィを、もっと強く。俺を守れるくらいに。
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次の瞬間、リリィの角が倍の長さに伸び、尻尾が炎を纏う。
鎖が焼き切れ、黒い炎が渦を巻いた。
「……これよ。この力……!」
声が低く艶やかに響く。
リリィの衣装は漆黒に変わり、背中にコウモリのような翼が広がった。
「さあ、坊や。ここからが本番よ」
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グラウが動いた。
鎖が十方向から襲いかかる。
しかし、リリィは一歩も引かない。
尻尾の一撃で三本を砕き、炎の翼で残りを薙ぎ払う。
「やっぱり……強いな、君は」
黒髪の男が笑みを浮かべる。
「でも、僕の目的は戦いじゃない――“君を揺らす”ことだ」
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その瞬間、俺の耳元で囁く声がした。
「ねえ……本当に、彼女を信じられるの?」
振り返ると、そこには――俺自身の姿をした影が立っていた。
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次回予告(第5話)
【第5話】“もう一人の俺”と、悪魔の真実
> 戦いの最中、現れたのは“もう一人の自分”。
それは、悪魔との契約で生まれた“欲望の化身”だった。
信じるか、裏切るか――リリィとの絆が試される時が来る。