第7話
第7話:街の喧騒と奇妙なステータス2
悠斗とルーナは、森の奥深くへと足を踏み入れた。ルーナの優れた嗅覚のおかげで、グリーンリーフは驚くほど簡単に見つかった。彼女は、地面に生える小さな薬草を指差し、「ユウト、これ!」と嬉しそうに教えてくれる。その度に悠斗は、「ルーナ、すごいな!」と褒め、彼女の頭を優しく撫でた。ルーナは嬉しそうに目を細め、喉をゴロゴロと鳴らす。
「よし、これで10本!」
悠斗は、集めたグリーンリーフを、奴隷商人から奪った布袋に慎重に詰めた。これで街に入れる。安堵の息を吐き、悠斗はルーナの手を引いて、来た道を戻り始めた。
再び街の門にたどり着くと、先ほどの門番が不審そうな顔で悠斗たちを見ていた。
「おい、本当に持ってきやがったのか?」
「はい、これです!」
悠斗は、布袋からグリーンリーフを取り出し、門番の前に差し出した。門番は、薬草を一本一本確認し、やがて渋々といった表情で頷いた。
「……確かに10本あるな。まあ、約束は約束だ。入れ」
門番は、不機嫌そうに通行を許可した。悠斗はホッと胸を撫で下ろし、ルーナの手を引いて、ついに街の門をくぐった。
街の中は、外から聞こえていた通り、活気に満ち溢れていた。石畳の道には、多くの人々が行き交い、露店からは様々な品物を売る声が響き渡る。香辛料の匂い、焼き立てのパンの匂い、そしてどこからか漂う甘い香りが、悠斗の鼻腔をくすぐった。
「うわぁ……すごいな!」
悠斗は、まるで観光客のように目を輝かせた。現代日本とは全く異なる、ファンタジーの世界がそこにはあった。ルーナもまた、目を丸くして周囲を見回している。彼女は、生まれて初めて街に来たのだろうか。その小さな猫耳が、周囲の喧騒に反応して、ぴこぴこと忙しなく動いている。
「ユウト……すごい……たくさんの人……」
ルーナは、悠斗の服をギュッと掴み、少し怯えたように彼の背中に隠れた。人混みに慣れていないのだろう。悠斗は、ルーナの頭を優しく撫で、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だよ、ルーナ。俺がついてるから」
まずは、どこで寝泊まりするか、そして食料をどうするかだ。悠斗は、周囲を見回し、宿屋らしき建物や、食べ物を売っている店を探した。しかし、どの店も、悠斗の財布の中身では到底手が出ないような値段が表示されているように見えた。
(くそっ、やっぱり金がないと始まらないのか……)
悠斗は、再び途方に暮れそうになった。そんな時、彼の目の前に、再び半透明のウィンドウが浮かび上がった。
【ステータス:魔力(未覚醒)】
【助言:この街には、『冒険者ギルド』という場所があります。そこでは、様々な依頼を受けることができ、報酬として金銭を得ることが可能です。あなたの現在のステータスとスキルであれば、より高難易度の依頼に挑戦することも可能でしょう。】
「え、冒険者ギルド?」
悠斗は、ステータス画面からの突然の「助言」に驚いた。しかも、やけに具体的な情報だ。まるで、彼の思考を読んでいるかのように。
(おいおい、もしかしてこのステータス、本当に俺の行動を監視して、指示を出してるのか?)
悠斗は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。しかし、同時に、その「助言」が的確であることも理解できた。金がない以上、依頼を受けて稼ぐしかない。
「ルーナ、冒険者ギルドって知ってるか?」
悠斗が尋ねると、ルーナは首を傾げた。やはり、彼女も知らないようだ。
「よし、じゃあ、まずは冒険者ギルドを探そう!」
悠斗は、ルーナの手を引いて、街の中を歩き始めた。ステータス画面は、その後も悠斗の行動を見守るかのように、彼の視界の端に静かに浮かんでいた。
(本当に、ただのシステムなのか? それとも……)
悠斗の心に、漠然とした疑問が芽生え始めていた。このステータスは、彼を助けてくれているのか、それとも、何か別の目的のために彼を導いているのか。彼の「規格外」の力、魔力ゼロの謎、そしてこの世界に召喚された理由。全ての鍵が、この奇妙なステータス画面と、彼が持つ古文書に隠されているのかもしれない。
悠斗とルーナの、異世界での本格的な生活が、今、始まったばかりだった。