表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

第5話

第5話:焚き火の夜と新たな世界の入り口

「来いよ、緑の雑魚ども!」


悠斗は、先ほど奴隷商人から奪った短剣を構え、ゴブリンたちに突進した。一時的に跳ね上がったステータスが、彼の体を異様なほど軽やかに動かす。力は普段の倍以上、速さも格段に増している。


「キシャシャ!」


一体のゴブリンが棍棒を振り上げてきた。悠斗は、その攻撃を紙一重でかわし、短剣を横薙ぎに振るう。ゴブリンの腕に浅く傷が入り、緑色の血が滲んだ。


「ぐぎゃっ!」


怯んだゴブリンに追撃をかける間もなく、別のゴブリンが背後から襲いかかってくる。悠斗はとっさに身を翻し、短剣の柄でゴブリンの顔面を叩きつけた。鈍い音が響き、ゴブリンはよろめいた。


(よし、いける! この短剣、意外と使える!)


悠斗は、短剣を両手でしっかりと握りしめ、残りの一体に狙いを定める。だが、その時、背後からルーナの小さな悲鳴が聞こえた。


「きゃっ!」


悠斗が振り返ると、先ほど顔面を叩きつけられたゴブリンが、ルーナに向かって手を伸ばしているのが見えた。ルーナは恐怖に目を大きく見開き、その場に立ち尽くしている。


「ルーナッ!」


悠斗は叫んだ。ルーナに危険が迫る。その瞬間、彼の全身から再び強い光が溢れ出した。それは、先ほどの一時的なステータス上昇の時とは比べ物にならないほど、眩く、そして熱い光だった。


【警告! ユニークスキル『セフィラの欠片』が過剰反応しています!】

【対象:獣人族の少女ルーナの生命の危機を感知!】

【『セフィラの欠片』が強制発動します!】

【獣人族の少女ルーナの魔力を限界まで吸収します!】

【一時的にステータスが大幅に上昇します!】


悠斗の目の前に、これまで見たことのない警告文が浮かび上がった。そして、彼の体は、まるで内側から力が湧き出すかのように、信じられないほどのパワーに満たされていく。


ステータス(一時的超上昇)


力: 10 → 30 (+20)


速さ: 8 → 25 (+17)


体力: 9 → 20 (+11)


魔力: 0 → 0


運: 3 → 3


知性: 6 → 6


「な……なんだこれ!?」


悠斗は自分の体に漲る力に驚愕した。まるで全身の細胞が覚醒したかのような感覚。彼は、ルーナに迫るゴブリンに向かって、まるで弾丸のように飛び出した。


「消えろ!」


短剣を振り下ろす。それは、もはやゴブリンの棍棒など比べるべくもない、圧倒的な速度と破壊力だった。ゴブリンは、何が起こったのか理解する間もなく、一刀両断にされた。緑色の血が飛び散り、ゴブリンの体がゆっくりと消滅していく。


残りの二体のゴブリンは、目の前で起こった信じられない光景に、恐怖で硬直していた。悠斗は、その視線を向けただけで、彼らが震え上がるのを感じた。


「お前らも、二度とルーナに近づくな!」


悠斗の低い声が森に響き渡る。その声には、彼の普段の弱気な面など微塵もなく、ただ純粋な怒りと威圧感が込められていた。ゴブリンたちは、悲鳴を上げながら、一目散に森の奥へと逃げ去っていった。


悠斗は、荒い息を整えながら、短剣を地面に突き刺した。全身に漲っていた力が、急速に引いていくのがわかる。そして、目の前には、再びステータス画面が浮かび上がった。


【『セフィラの欠片』の効果が切れました】【獣人族の少女ルーナとの繋がりを一時解除します。】


ステータス


力: 5


速さ: 4


体力: 6


魔力: 0


運: 3


知性: 6


【経験値獲得】


ゴブリン: 80EXP x 1 = 80EXP (逃走したゴブリンからは経験値なし)


【レベルアップ!】

レベル: 3 → 4


ステータス


力: 5 → 6


速さ: 4 → 5


体力: 6 → 7


魔力: 0 → 0


運: 3 → 4


知性: 6 → 7


称号


『異界の迷い人』


『最初の試練を乗り越えし者』


『弱き者を救いし者』


『ゴブリン殺し』


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」


悠斗は、その場にへたり込んだ。全身の疲労と、先ほどの高揚感の反動で、体が鉛のように重い。しかし、ルーナは無事だ。その事実が、彼の心を安堵させた。


ルーナは、悠斗の近くに駆け寄ると、心配そうに彼の顔を覗き込んだ。


「ユウト……大丈夫……?」


小さな手が、悠斗の頬にそっと触れる。その温かさに、悠斗はフッと笑った。


「ああ、大丈夫だよ。ルーナが無事でよかった」


ルーナは、悠斗の言葉に安心したように、彼の胸に顔を埋めた。その小さな体から伝わる温かさが、悠斗の疲弊した心にじんわりと染み渡る。


「ユウト、すごい……ルーナ、見た……」


ルーナは、上目遣いで悠斗を見上げ、その瞳には、彼への深い信頼と、そして純粋な憧れが宿っていた。彼女は、先ほどの悠斗の圧倒的な力を、目の前で見ていたのだ。悠斗は、ルーナの頭を優しく撫でた。


「よし、そろそろ日が暮れる。この辺で休める場所を探さないと」


悠斗は、立ち上がろうとしたが、足元がふらついた。ルーナが、その体を小さな腕で支えようとしてくれる。


「ユウト、ルーナ、手伝う……」


「ありがとう、ルーナ」


悠斗は、ルーナの肩を借りながら、再び歩き始めた。ルーナの言っていた「焚き火の匂い」の方向へ。


しばらく歩くと、森の木々が少し開けた場所に出た。そこには、小さな洞窟のような窪みがあり、風をしのぐには良さそうだ。悠斗は、洞窟の入り口に枯れ枝を集め、焚き火の準備を始めた。しかし、火を起こす道具など持っていない。


「うーん、どうしたものか……」


悠斗が困っていると、ルーナが小さな石を拾い上げてきた。


「ユウト、これ……」


ルーナが差し出したのは、火打石のような、硬そうな石だった。悠斗は半信半疑でそれを受け取り、別の石と打ち合わせてみた。


カチッ!


小さな火花が散る。悠斗は驚いた。


「ルーナ、これ、どこで!?」


「あそこに、あった……」


ルーナは、洞窟の奥を指差した。どうやら、偶然見つけたらしい。悠斗は、ルーナの助けを借りて、なんとか焚き火を起こすことに成功した。パチパチと音を立てて燃え上がる炎が、周囲を暖かく照らす。


悠斗は、焚き火のそばに座り、ルーナを隣に座らせた。温かい炎の光が、二人の顔を照らす。


「ふぅ……助かったよ、ルーナ。君がいなかったら、今頃どうなってたか」


「ルーナ、ユウトと一緒……」


ルーナは、悠斗の腕にそっと体を寄せた。その小さな体から伝わる温かさが、悠斗の孤独感を少しだけ和らげてくれる。


悠斗は、空を見上げた。満月が、森の木々の間から顔を覗かせ、淡い光を投げかけている。異世界に来て、まだ一日も経っていない。しかし、彼の周りの世界は、すでに大きく変わっていた。


「ねぇ、ルーナ。君の里って、どんなところなんだ?」


悠斗が尋ねると、ルーナは少し寂しそうな顔をした。


「里は……遠い……」


「そっか……。でも、いつか、また帰れるといいな」


悠斗は、ルーナの頭を優しく撫でた。ルーナは、その手に擦り寄るように甘える。


夜が更け、森は静寂に包まれた。焚き火の炎が、パチパチと音を立てて燃え続ける。悠斗は、ルーナが安心して眠れるように、そっと彼女の体を抱き寄せた。ルーナは、悠斗の腕の中で、すやすやと寝息を立てている。


(俺は、この子を守れるだろうか……)


悠斗は、自分の非力さを改めて感じた。しかし、同時に、胸の奥に確かな決意が芽生えていた。この世界で、ルーナを守り、そして生き抜く。そのためなら、どんな困難にも立ち向かう覚悟ができた。


翌朝、夜明けと共に、悠斗とルーナは再び旅立った。ルーナの嗅覚を頼りに、彼らは小川の上流へと進む。森は徐々に開け、木々の間から、遠くに広がる平原が見え始めた。


そして、しばらく歩くと、遠くの地平線に、いくつもの煙が立ち上っているのが見えた。


「あれは……!」


悠斗は、思わず声を上げた。ルーナも、その煙に気づいたのか、小さな猫耳をぴくぴくと動かしている。


「ユウト……いい匂い……もっと、たくさんの匂い……」


ルーナの言葉に、悠斗は確信した。あれは、間違いなく人が住む場所の煙だ。


希望を胸に、二人は平原へと足を踏み出した。広がる大地は、彼らがこれから歩む、新たな世界の始まりを告げていた。遠くに見える煙の先に、彼らの旅の次の目的地、そして新たな出会いが待っている。

今の時点で17話までストックあるのでぼちぼち投稿していきます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ