第4話
第4話:旅立ちの森と2人の絆
「よし、じゃあ、まずは街を探そう。このままだと、食料も水も困るしな」
悠斗は立ち上がった。ルーナもそれに続いて立ち上がるが、まだ足元がおぼつかない。悠斗は自然とルーナの手を取り、その小さな手を優しく握った。ルーナは驚いたように悠斗を見上げ、そして、はにかむように微笑んだ。その手の温かさに、悠斗の心にも確かな温かさが広がっていく。
森の中は、夕暮れが迫り、薄暗くなり始めていた。鳥の鳴き声や、遠くで獣の唸り声が聞こえる。悠斗は、自分が異世界に来たばかりの、何の力もない人間であることを改めて痛感した。しかし、隣にルーナがいる。彼女を守らなければならない、という責任感が、彼の足を進ませる原動力となっていた。
「ねぇ、ルーナ。この辺に、街とか村とか、何か人のいる場所って知ってる?」
悠斗が尋ねると、ルーナは首を傾げた。
「わたくしは……ずっと、里で暮らしていました。ここがどこなのか、よくわかりません……」
やはり、ルーナもこの森の地理には詳しくないようだ。悠斗はため息をついた。完全に手探りだ。しかし、その時、ルーナが突然、悠斗の服の袖を引っ張った。
「ユウト……あっち、の方が、いい匂いがします……」
ルーナが指差す方向は、悠斗が漠然と進もうとしていた方向とは少しずれていた。しかし、彼女の猫耳がピクピクと動いているのを見て、悠斗は直感的に「何かある」と感じた。獣人の嗅覚は、人間よりもはるかに優れているはずだ。
「匂い? 何の匂いだ?」
「えっと……美味しい匂い、と、水の匂い……」
ルーナは小さな鼻をひくつかせながら、可愛らしく答えた。美味しい匂いと水の匂い。それは、この状況で最も必要なものだ。悠斗はルーナの言葉を信じ、彼女が指差す方向へと進路を変えた。
しばらく歩くと、確かに空気が変わったように感じた。そして、遠くから微かに、水の流れる音が聞こえてくる。さらに進むと、小さな小川が姿を現した。
「おお! ルーナ、すごいな! 本当に水があった!」
悠斗は感動してルーナの頭を撫でた。ルーナは嬉しそうに目を細め、喉をゴロゴロと鳴らした。その仕草は、まさに猫そのものだ。悠斗は小川の水を両手ですくい、喉の渇きを潤した。冷たい水が体に染み渡り、生き返る心地がした。ルーナも、小さな手で水をすくい、ゆっくりと飲んでいる。
「美味しい匂いってのは、どこからするんだ?」
悠斗が尋ねると、ルーナは再び鼻をひくつかせ、小川の上流を指差した。
「あっち……焚き火の匂いもします……」
焚き火の匂い。それは、人がいる証拠だ。もしかしたら、街や村が近いのかもしれない。悠斗は希望を胸に、ルーナと共に小川に沿って上流へと進んだ。
しかし、しばらく歩くと、森の奥から不気味な唸り声が聞こえてきた。悠斗は反射的にルーナを自分の後ろに隠し、周囲を警戒する。
「な、なんだ……?」
茂みの奥から姿を現したのは、先ほどのイノシシのような魔物とは違う、二足歩行のゴブリンだった。しかも、一体ではない。三体のゴブリンが、手に粗末な棍棒を持って、悠斗たちを睨みつけていた。
「キシャシャ! 小娘と、ひ弱な人間だぜ!」
「食っちまおうぜ!」
ゴブリンたちは、汚い笑い声を上げながら、悠斗たちにゆっくりと近づいてくる。悠斗の体は、再び恐怖で硬直した。ステータスは、力5、速さ4。奴隷商人相手には何とか戦えたが、魔物相手ではどうなるか分からない。しかも、ルーナを守りながらでは……。
(くそっ、こんな時に『セフィラの欠片』が使えれば……!)
悠斗は古文書を強く握りしめた。しかし、ルーナの魔力を吸収するには、彼女が危険に晒されている必要があるのか? それとも、もっと別の条件があるのか?
その時、ルーナが悠斗の服を引っ張り、小さな声で言った。
「ユウト……ルーナ、怖くない……ユウト、強い……」
ルーナの言葉に、悠斗はハッとした。彼女の瞳は、恐怖ではなく、悠斗への信頼で満ちていた。彼女が自分を信じている。その事実が、悠斗の心に熱いものを灯した。
「……そうだよな。俺は、ルーナを守るって決めたんだ!」
悠斗は、ゴブリンたちに向かって一歩踏み出した。彼の体から、先ほど奴隷商人との戦いの時と同じ、淡い光が再び溢れ出す。
【ユニークスキル『セフィラの欠片』が反応しています】
【対象:獣人族の少女】
【スキル発動条件を満たしました。魔力を吸収し、一時的にステータスを変換しますか? YES / NO】
「YES!」
悠斗は迷わず叫んだ。ルーナの体が淡く輝き、その光が悠斗の体へと流れ込んでくる。
【『セフィラの欠片』発動!】
【獣人族の少女の魔力を吸収しました。(吸収量:微弱)】
【一時的にステータスが上昇します。】
ステータス(一時的上昇)
力: 5 → 10 (+5)
速さ: 4 → 8 (+4)
体力: 6 → 9 (+3)
魔力: 0 → 0
運: 3 → 3
知性: 6 → 6
ステータスが、再び跳ね上がった。しかも、前回よりも上昇幅が大きい。これは、ルーナが悠斗を信頼し、自ら魔力を提供しているからだろうか? あるいは、彼女の魔力自体が、少しずつ増しているのか?
そんなことを考える暇はない。ゴブリンたちが、棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
「来いよ、緑の雑魚ども!」




