第3話
第3話:絶体絶命と小さな命の邂逅
「おい、まさかこいつ、ただのガキじゃねぇぞ!」
「やれ! 数で押し潰せ!」
残りの奴隷商人たちが、悠斗を取り囲む。
悠斗は息を荒げながらも、古文書を握りしめ、次の攻撃に備えた。
(まだだ、まだやれる! あの子を助けるんだ!)
彼の心に、確かな決意が芽生えていた。
この異世界で、初めて「守りたい」と思った存在。
それが、彼の「成り上がり」の第一歩となるのだった。
三人の奴隷商人が、同時に悠斗に襲いかかった。
一人は棍棒を、一人は短剣を、もう一人は体当たりで悠斗を地面に押さえつけようとする。
悠斗は持ち前の知性をフル回転させた。
(この一時的なステータス上昇は、『セフィラの欠片』が少女の魔力を吸収している間だけ。魔力を吸収し続ける限り、あるいは彼女が近くにいる限りは有効なのか?)
彼は、棍棒を振り下ろしてきた男の攻撃をギリギリでかわし、そのまま男の腕を掴んだ。
そして、その男を盾にするように、短剣を持った男の方へ突き出す。
「ちっ!」
短剣の男は慌てて攻撃を止め、悠斗の動きが止まった隙を突き、体当たり役の男が猛然と突進してきた。
「このっ!」
悠斗は、盾にした男を勢いよく押し出し、突進してきた男と衝突させた。
ゴチン! と鈍い音が響き、二人の奴隷商人はもつれ合いながら地面に転がった。
「今のうちだ!」
悠斗は、唯一残った短剣の男に、全力で駆け寄った。
速さが上がっているおかげで、あっという間に距離を詰める。
男が驚いて短剣を構えるより早く、悠斗は男の手首を掴み、そのまま短剣を奪い取った。
「なっ!?」
短れてはいたが、切れ味の良さそうな短剣を握りしめ、悠斗は奴隷商人の喉元に突きつける。
「これ以上、ふざけた真似をするなら……殺すぞ」
悠斗の声は震えていたが、その瞳には明確な殺意が宿っていた。
本気で人を殺すことなど、彼にはできなかっただろう。
しかし、その鬼気迫る表情と、たった一人で三人もの男を制圧した事実に、奴隷商人たちは顔を青ざめさせた。
「ひ、ひぃっ! 参った! 参りました旦那!」
「鎖を解け! 全員だ!」
悠斗は冷たく言い放つ。
奴隷商人たちは、震える手で獣人たちの鎖を外し始めた。
鎖から解放された獣人たちは、警戒しながらも、悠斗に感謝の視線を送る。
そして、悠斗が最も気にかけていた猫耳の少女が、ゆっくりと彼に近づいてきた。彼女の大きな瞳は、警戒心と、しかしそれ以上に、深い感謝の念を宿していた。 「……ありがとう……ございます」 か細い声が、悠斗の耳に届く。 その声は、震えていながらも、どこか鈴の音のように澄んで聞こえた。 近距離で見る彼女は、先ほどよりもさらに小さく、可愛らしく見えた。 汚れた顔に、猫耳の先だけがほんのりピンク色に染まっているのが、妙に色っぽい。
「いや、大丈夫か? 怪我は?」
悠斗が尋ねると、少女はふるふると首を横に振った。
「はい……もう、大丈夫です。わたくしは……ルーナ、と申します」
ルーナと名乗った少女は、恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに悠斗を見つめた。
悠斗は安堵のため息をついた。その瞬間、彼の目の前にウィンドウが浮かび上がる。
【『セフィラの欠片』の効果が切れました】【獣人族の少女との繋がりを一時解除します。】
ステータス
力: 4
速さ: 3
体力: 5
魔力: 0
運: 2
知性: 5
【経験値獲得】
奴隷商人(軽傷): 50EXP x 3 = 150EXP
【レベルアップ!】
レベル: 2 → 3
ステータス
力: 4 → 5
速さ: 3 → 4
体力: 5 → 6
魔力: 0 → 0
運: 2 → 3
知性: 5 → 6
称号
『異界の迷い人』
『最初の試練を乗り越えし者』
『弱き者を救いし者』
「……え、終わった途端にガクッと戻るのかよ! まだ全然弱いじゃん俺!」
悠斗は、ステータス画面の変化に愕然とした。一時的とはいえ、あれほどの力を得ていたのに、元の木阿弥だ。
しかも、レベルアップしても誤差みたいな上昇量。
「くそっ、やっぱり成り上がり最強への道は険しいな……」
膝から力が抜けそうになるのを必死に堪える。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
ルーナが心配そうに悠斗の顔を覗き込む。
「あ、いや、なんでもないよ。それより、他の皆さんはどうするの?」
悠斗が尋ねると、解放された他の獣人たちは、すぐに森の奥へと逃げていく。
ルーナは、その背中を寂しそうに見送った後、そっと悠斗の服の裾を掴んだ。
「わたくしは……行くところが、ありません……」
その瞳が、不安げに揺れる。
悠斗は、ルーナの小さな手と、途方に暮れたような表情を見て、深く考えるまでもなく口を開いた。
「そっか……じゃあ、俺と一緒に来るか? 俺も今、当てがあるわけじゃないけど、一人よりはマシだろ?」
彼の言葉に、ルーナの顔がパッと輝いた。
「ほ、本当ですか!? わたくし、お邪魔になったりしませんか?」
「邪魔なわけないだろ。むしろ、助けられて良かったよ。ルーナがいたから、俺も勇気が出たんだ」
悠斗は照れながらそう言うと、ルーナは嬉しそうに、小さな猫耳をぴこぴこと動かした。
奴隷商人たちは、悠斗の言葉を聞き、まだ意識のある二人が、這うようにして馬車を捨てて逃げ出していく。
悠斗は、その背中を見送った後、再び目の前のルーナに視線を向けた。
これからこの異世界で、彼とルーナの、奇妙な共同生活が始まる。
そして、この出会いが、悠斗の「規格外」の力を目覚めさせ、ルーナを「最強」へと導く、最初の歯車となることを、この時の悠斗はまだ知る由もなかった。
3話目です。
最初の方は早めのペースで更新できるように頑張ります!!
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