第2話
第2話:獣人の少女と最初の救出
「……にしても、力4、速さ3って、まだ全然ダメじゃないか! せめて普通の人間レベルにはなりたいんだけど!?」
悠斗は、自分の最低ステータスと、これから始まるであろう異世界での過酷なサバイバルに、再び頭を抱えた。彼の成り上がりへの道は、まだ始まったばかりだった。
とりあえず、安全な場所を探そうと、悠斗は巨大な樹木が立ち並ぶ森の中を歩き始めた。幸い、ユニークスキル『セフィラの欠片』のおかげか、先ほどの魔物との遭遇で得た経験値のおかげか、体が少しだけ軽くなったような気がする。しかし、相変わらず魔力は0のままだ。
「『セフィラの欠片』……世界の根源たる『セフィロトの樹』の力を微弱ながら引き出す、ねぇ。魔力を吸収してステータスに変換ってあるけど、魔物倒した時に勝手に発動しただけだし、どうやって使うんだこれ?」
古文書を眺めながら歩いていると、遠くから何かの物音が聞こえてきた。
ガタゴト、ガタゴト……。
そして、男たちの荒っぽい声。
「おい、もっと急げ! 日が暮れる前に次の街に着くぞ!」
「へいへい! この獣人どもは足が遅くて困るぜ!」
悠斗は咄嗟に身を隠した。茂みの隙間から覗くと、そこには馬車が数台、そして鎖に繋がれた複数の人々が歩いているのが見えた。
彼らは皆、耳や尻尾を持つ、いわゆる「獣人」と呼ばれる種族のようだった。
そして、馬車の周りを囲むように歩く男たちは、見るからに粗暴な顔つきをしており、腰には剣や棍棒を下げている。
「奴隷商人……か」
悠斗は直感的に理解した。そして、その中に、ひときわ目を引く少女がいた。
汚れた服をまとってはいるが、透き通るような白い毛並みの猫耳と、ふさふさとした尻尾を持つ少女だ。
彼女は他の獣人たちと同様に鎖に繋がれ、今にも倒れそうなほど疲弊しきっていた。
その瞳には、絶望と恐怖が浮かんでいる。
「くそっ、あんな可愛い子が……!」
悠斗の脳裏に、かつて読んだライトノベルの主人公たちが、理不尽な状況に立ち向かう姿がよぎった。
彼もまた、目の前の光景を見て見ぬふりをするわけにはいかなかった。
しかし、彼のステータスは、力4、速さ3。
相手は武装した大人数。どう考えても勝ち目はない。
「でも……このままじゃ、あの可愛い子が……!」
心臓がドクドクと音を立てる。恐怖で足がすくむ。
だが、それ以上に、目の前の少女を助けたいという衝動が勝った。
悠斗は、無意識のうちに古文書を強く握りしめていた。
その瞬間、古文書が再び淡く光り始めた。
【ユニークスキル『セフィラの欠片』が反応しています】
【対象:獣人族の少女(魔力:微弱)】
【スキル発動条件を満たしました。魔力を吸収し、一時的にステータスを変換しますか? YES / NO】
「え、なにこれ!? こんな選択肢出るのか!?」
悠斗は驚きながらも、迷わず「YES」を選んだ。
すると、古文書から放たれる光が、少女の方向へと伸びていく。
少女の体が、一瞬だけ淡く輝いたように見えた。
そして、悠斗の目の前に、新たなウィンドウが浮かび上がった。
【『セフィラの欠片』発動!】
【獣人族の少女の魔力を吸収しました。(吸収量:微弱)】
【一時的にステータスが上昇します。】
ステータス(一時的上昇)
力: 4 → 8 (+4)
速さ: 3 → 6 (+3)
体力: 5 → 7 (+2)
魔力: 0 → 0
運: 2 → 2
知性: 5 → 5
「おおっ! 上がった! これなら……!」
一時的な上昇とはいえ、一気にステータスが倍近くになったことに、悠斗は驚きと興奮を隠せない。
これなら、もしかしたら……。
「おい、そこの茂み! 何者だ!」
奴隷商人の一人が、悠斗の隠れている茂みに気づいた。
悠斗は腹を括り、茂みから飛び出した。
「お前ら! その子たちを離せ!」
悠斗の言葉に、奴隷商人たちは一瞬呆けた顔をした後、大声で笑い出した。
「なんだ、ガキか! どこから湧いて出たか知らねぇが、邪魔するんじゃねぇ!」
「へっ、まさか一人で俺たちに逆らうつもりか? 笑わせるぜ!」
奴隷商人たちが悠斗に詰め寄ってくる。
悠斗は、震える足に力を込めた。
(大丈夫だ、ステータスは上がってる! やれる!)
彼は、最も近くにいた奴隷商人の懐に飛び込んだ。
速さが上がったおかげか、相手の反応が遅れる。
渾身の力を込めて、相手の腹に拳を叩き込んだ。
「ぐはっ!?」
奴隷商人は、予想外の一撃に呻き声を上げてよろめいた。
悠斗自身も、自分のパンチがこれほど効果があるとは思わず、驚きを隠せない。
(すげぇ! これが『セフィラの欠片』の力か!)
しかし、相手は一人ではない。
別の奴隷商人が、悠斗の背後から棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
悠斗はとっさに振り返り、棍棒を腕で受け止める。
ズン、と重い衝撃が走ったが、体力の上昇のおかげか、腕が折れるようなことはなかった。
「くそっ!」
悠斗はそのまま相手の腕を掴み、腰をひねって投げ飛ばした。
奴隷商人は、地面に叩きつけられ、うめき声を上げる。
その様子を、鎖に繋がれた獣人の少女は、目を見開いて見つめていた。
まさか、こんな少年が自分たちを助けようと現れるとは、夢にも思っていなかったのだろう。
「おい、まさかこいつ、ただのガキじゃねぇぞ!」
「やれ! 数で押し潰せ!」
残りの奴隷商人たちが、悠斗を取り囲む。
悠斗は息を荒げながらも、古文書を握りしめ、次の攻撃に備えた。
(まだだ、まだやれる! あの子を助けるんだ!)