第23話
第23話:記憶の回廊と試練の『意思』
「ありがとう、ルーナ! ゼロ!」
悠斗は、満身の力を込めて、短剣を構えた。『記憶の喰らいし者』の粘土質の体は、自己修復能力を持つ。普通の物理攻撃では、埒が明かないだろう。
「『主』、攻撃対象の『再生能力』は、その『精神』の『歪み』に『依存』しています。その『歪み』を『修正』すれば、『再生』は『停止』します」
ゼロが、淡々と分析結果を告げた。悠斗は、ゼロの言葉にハッとした。『記憶の記録者』の残滓から生まれた存在ならば、やはり『記憶』や『精神』が鍵になる。
(『記憶操作』スキルを使えってことか!)
悠斗は、再び迫り来る『記憶の喰らいし者』の一体に意識を集中した。その腕が伸びてくるのを、ぎりぎりでかわす。頬をかすめる風と共に、再び頭の中に一瞬、無関係な記憶の断片がフラッシュバックする。しかし、精神抵抗スキルのおかげで、すぐに意識を取り戻せた。
「くらえ! 『どうでもいい記憶』改!」
悠斗は、解析スキルで得た情報を元に、『記憶操作』スキルで、さらに改良を加えた「どうでもいい記憶」を相手に送り込んだ。それは、現代日本のテレビ通販番組で聞いた、しつこいほどの繰り返しのフレーズや、意味不明なキャッチコピーなど、聞いているだけで思考が停止しそうな「ノイズ」の塊だった。
「ぐ、ぐわあああああああ!? 『不快な情報』が『大量流入』! 『思考回路』が『オーバーロード』! 『処理不能』! 『処理不能』!」
『記憶の喰らいし者』は、悠斗が送り込んだ「ノイズ」の塊に、これまでにないほど激しく苦しみ始めた。その粘土質の体がひび割れ、そこから歪んだ精神の波動が漏れ出す。再生していた腕も、その動きを止め、再び砕け散った。
「よし! ゼロ、今だ!」
悠斗が指示を出すと、ゼロは素早く『記憶の喰らいし者』に接近した。その銀色の腕から、淡い光が放たれる。
「『理』の『強制修正』を実行します。『思考プロセス』の『再構築』を開始。」
ゼロの指先から放たれた光が、『記憶の喰らいし者』のひび割れた体へと流れ込んでいく。すると、その体の歪んだ精神の波動が、次第に穏やかになっていくのが分かった。粘土質の体が、まるで砂のように崩れ落ち、その中心から、輝きを失った小さな水晶の塊が残された。
「……排除完了。『目標』の『理』は……『安定』しました。」
ゼロは、淡々とそう告げた。悠斗は、その言葉に安堵のため息をついた。
「すごいな、ゼロ! お前のおかげだ!」
悠斗が褒めると、ゼロは少し首を傾げた。
「『主』の『命令』を『遂行』したまで。『評価』は『不要』です。」
相変わらずの無表情だが、その言葉にはどこか、照れているような響きが感じられた。ルーナは、そんなゼロの様子を見て、クスクスと笑った。
「ゼロ、照れてる!」
「照れて……いません。『感情機能』は、『未実装』です。」
ゼロが真顔で反論するので、悠斗はさらに笑いが込み上げてきた。この奇妙な論理回路を持つ仲間は、強敵との戦闘で張り詰めた空気を和ませてくれる、ある意味で最高の相棒だった。
悠斗は、残りの『記憶の喰らいし者』にも同じ方法で対処した。彼らが無意味な記憶のノイズに苦しんでいる隙に、ゼロが『理』を修正し、全ての『記憶の喰らいし者』を無力化することに成功した。
【『セフィロトの樹の恩寵』の効果が切れました】【獣人族の少女との繋がりを一時解除します。】
ステータス
力: 12
速さ: 11
体力: 13
魔力: 0
運: 9
知性: 12
【経験値獲得】
記憶の喰らいし者: 750EXP x 3 = 2250EXP
【レベルアップ!】
レベル: 9 → 11 (2レベルアップ!)
ステータス
力: 12 → 15 (+3)
速さ: 11 → 14 (+3)
体力: 13 → 16 (+3)
魔力: 0 → 0
運: 9 → 10 (+1)
知性: 12 → 15 (+3)
称号
『異界の迷い人』
『最初の試練を乗り越えし者』
『弱き者を救いし者』
『ゴブリン殺し』
『シャドウウルフ討伐者』
『真理の探求者』
『純粋なる絆の守り手』
『死の回廊の征服者』
『傀儡を打ち破りし者』
『理の支配者』
『記憶の守護者』
『歪んだ理を正しし者』
悠斗は、2レベルアップという破格の成長に驚いた。やはり『記憶の喰らいし者』はかなりの強敵だったらしい。
『記憶の喰らいし者』が消滅した広間の奥に、一本の巨大な樹木が姿を現した。それは、壁画に描かれていた『セフィロトの樹』に酷似しており、その幹からは、無数の光の粒子が放たれている。しかし、その輝きはどこか弱く、樹木全体が傷ついているようにも見えた。
「これは……『神の心臓』……なのか?」
悠斗が呟いたその時、彼の目の前に、ステータス画面が浮かび上がった。
【ステータス:魔力(未覚醒)】
【啓示:よくぞ到達しました、天野悠斗。ここが、『真のセフィロトの樹』の根源、すなわち『神の心臓』です。この『心臓』は、かつて世界に『理』を供給していましたが、大洪水と『記憶の記録者』の暴走により、『機能不全』に陥っています。これを『修復』することで、あなたの『真の魔力』は完全に覚醒し、この世界の『理』を司る『神の力』の片鱗を手に入れるでしょう。さあ、あなたの『啓示』を……受け入れるのです。ふぉっふぉっふぉ】
ステータスからの「啓示」の言葉は、悠斗の脳裏に直接響いてきた。その声は、相変わらず楽しげで、そしてどこか冷たい響きを帯びている。
「修復……? どうすればいいんだ?」
悠斗が戸惑っていると、ゼロが静かに悠斗の隣に立った。
「『主』の『記憶の核』を、『神の心臓』に『接続』することで、『修復プロセス』が『開始』されると『予測』します。しかし、『神の心臓』は『不安定』な状態。『主』の『精神』に『多大な負荷』がかかる可能性を『演算』しました。『覚悟』してください。」
ゼロは、そう言って、悠斗の掌にある『記憶の核』を指差した。
「分かった、ゼロ。ルーナ、頼むぞ!」




