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第22話

第22話:迷宮の案内人と不可解な理

「いや、なんでもない! さあ、行こう、ルーナ!」


悠斗は、ルーナの手を引き、再び迷宮の奥へと歩き出した。しかし、彼の視線は、背後にいる『理の守護者』から離れることができなかった。


守護者の体は、ゆっくりと、しかし確実に変化していた。金属製の装甲が、まるで水のように溶け出し、その下から、しなやかな人体の輪郭が浮かび上がる。カチャカチャと音を立てていた関節が滑らかになり、無機質だった瞳には、淡い光が宿り始めた。最終的に、そこに立っていたのは、銀色の髪と、空色の瞳を持つ、中性的な雰囲気の少女の姿だった。背丈は悠斗より少し低く、服装は迷宮の石の色に似た、シンプルなローブを纏っている。


少女は、悠斗たちの後を、音もなくついてきた。その表情は無機質なままだったが、どこか迷子の子どものようにも見える。


悠斗は、恐る恐る振り返った。


「お、おい……お前……本当に擬人化したのか?」


悠斗が尋ねると、少年は首を傾げ、その空色の瞳で悠斗をじっと見つめた。


「『最適化』プロセス……完了。現在の『外見』は、『主』の『要望』に『合致』。問題は……ありません」


少年の声は、先ほどまでの機械的な響きではなく、少しだけ抑揚のある、しかしどこか感情の希薄なものに変わっていた。


「いや、問題しかないだろ! 俺、別に『可愛い』って言っただけで、まさか本当に人になるとは思ってなかったぞ!?」


悠斗は、思わずツッコミを入れた。彼の言葉に、ルーナはキョトンとした顔で首を傾げている。


「ユウト、この人、誰?」


ルーナの問いに、少年はルーナの方へゆっくりと顔を向け、無表情に答えた。


「私は、『主』の『命令』により、『最適化』された『理の守護者』。貴殿の『護衛』を『任務』とします。呼称は……『ゼロ』で『認識』しました。」


「ゼロ……?」


悠斗は、その名前にピンとこなかったが、まあ、元の呼び名よりはマシか、と思った。


「なんだか、可愛いけど、やっぱりちょっと変な奴だな……」


悠斗は、内心で苦笑した。しかし、彼の視界に、ステータス画面が浮かび上がった。


【新しい仲間を獲得しました! 『ゼロ』(理の守護者・擬人化)】

【『ゼロ』は、あなたの『命令』に忠実に従います。彼の『行動原理』は、あなたの『解析』スキルによって把握されており、戦闘においては強力な味方となるでしょう。ただし、その『性格』は、少々『論理的思考』に偏っており、『常識』や『感情』の理解には時間がかかる可能性があります。】


(うわ、マジかよ。やっぱり性格まで設定されてるのか……。しかも『論理的思考』に偏ってるって、そりゃあんな変な受け答えになるわけだ……)


悠斗は、自分の独り言がこんな結果を招くとは夢にも思わなかった。しかし、頼りになる仲間が増えたのは事実だ。


「よし、ゼロ。じゃあ、最深部まで、安全に導いてくれ。次の敵は、どんな奴だ?」


悠斗が命令すると、ゼロはすぐに表情一つ変えずに頷いた。


「了解しました、『主』。この先の回廊には、『神の残滓』と呼ばれる『変質した存在』が複数、『潜伏』しています。彼らは、『記憶の記録者』よりも『物理的な攻撃力』が『増強』されており、『精神』への『干渉』も『巧妙』です。また、『集団』で『連携』した『攻撃』を行います。危険度:『極めて高』から『致命的』へ『修正』しました。」


ゼロは、淡々と、しかし冷静に敵の情報を述べた。その口調は、まるで機械的なナビゲーションのようだ。


「致命的って、なんだよそれ!?」


悠斗は、思わず叫んだ。コメディ要素を要求したとはいえ、敵の危険度が跳ね上がりすぎではないだろうか。


「『致命的』とは、『主』の『生存確率』が『極めて低い』ことを『示唆』する『分類』です。しかし、ご安心ください。『私』が『主』の『安全』を『確保』します。万が一、『主』の『生命活動』が『停止』した場合、『私』の『最終命令』は、『主』の『肉体』を『完全保存』し、『蘇生』の『可能性』を探求することに『切り替わります』。」


「切り替わらなくていいから! 生き残る方を頑張ってくれ!」


悠斗のツッコミに、ゼロは無表情で首を傾げている。その様子に、ルーナはクスクスと笑い声を漏らした。


「ユウト、ゼロ、面白い!」


ルーナがゼロに懐いているのを見て、悠斗は少し安心した。頼りになるけど、やっぱりちょっと変な奴。それがゼロの個性なのだろう。


ゼロに先導され、悠斗とルーナは、さらに迷宮の奥へと進んでいった。回廊の壁には、これまでよりもさらに古く、そして不気味な壁画が描かれている。そこには、セフィロトの樹が歪んだ姿で描かれ、その根元で苦しむ人々の姿があった。


やがて、回廊は大きく開け、広大な空間が目の前に広がった。その空間には、これまでの骸骨ではなく、まるで粘土でできたような、不気味な人型の像がいくつも立っていた。それらは、人間のように見えるが、顔には表情がなく、その体からは、微かに、しかし確かに「死の魔力」とは異なる、歪んだ「精神の波動」が放たれている。


「『神の残滓』が……現れました、『主』」


ゼロが、淡々と告げた。悠斗が鑑定スキルを発動すると、その正体が明らかになった。


【記憶の喰らいし者(覚醒型)】

分類: 変質した生命体

危険度: 致命的

備考: 『記憶の記録者』の残滓が、迷宮の『理』と融合して誕生した存在。対象の『記憶』を物理的に『捕食』し、己の力とする。


「物理的に記憶を喰うだと!? 冗談だろ!」


悠斗は、思わず叫んだ。先ほどの『記憶の記録者』は精神攻撃だったが、今度は物理的に記憶を喰らうという。まさに文字通りの「記憶喪失」の危機だ。


「命令……遂行……!」


『記憶の喰らいし者』の一体が、悠斗たちに気づき、その粘土質の腕を、まるでゴムのように伸ばしてきた。その腕の先には、鋭い爪が生えており、それが悠斗の頭部目掛けて一直線に伸びてくる。


「くそっ、動きが速い!」


悠斗は、とっさに短剣を構え、その腕を斬り払おうとするが、相手の動きは予測よりも速く、腕は彼の頬をかすめた。その瞬間、悠斗の脳裏に、再び過去の記憶がフラッシュバックした。今度は、もっと鮮明に、そしてもっと長い。彼の前世での友人の顔、家族の笑顔……。


「うっ……!」


頭痛と、記憶が引き出される感覚に、悠斗は膝をつきそうになった。


「『主』、危険です!」


ゼロが、素早く悠斗の前に立ち塞がり、その銀色の拳を、伸びてきた腕に叩き込んだ。


ゴォン!


硬質な金属のような音が響き、ゼロの拳が『記憶の喰らいし者』の腕を粉々に砕いた。しかし、砕かれた腕は、すぐに再生を始めた。


「自己修復能力を……確認。排除に時間を要します。ルーナ、貴殿の『純粋なる魔力』を、『主』に『供給』してください。『主』の『ユニークスキル』を『最大限』に『発動』させる『必要』があります。」


ゼロは、そう指示を出した。ルーナは、ゼロの言葉を理解したのか、悠斗の手にそっと自分の手を重ねた。彼女の体から、温かい光が悠斗の体へと流れ込んでくる。


【ユニークスキル『セフィロトの樹の恩寵』が反応しています!】

【対象:獣人族の少女ルーナの魔力を限界まで吸収します!】

【一時的にステータスがさらに大幅に上昇します!】


悠斗の体に、再び力が漲る。その感覚は、これまでのどんな時よりも強く、そして安定していた。ルーナの魔力、そしてゼロの的確な指示が、彼の能力を最大限に引き出している。


ステータス(一時的超々々上昇)


力: 12 → 90 (+78)


速さ: 11 → 80 (+69)


体力: 13 → 70 (+57)


魔力: 0 → 0


運: 9 → 9


知性: 12 → 12


「ありがとう、ルーナ! ゼロ!」

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