第10話
第10話:覚醒の片鱗と深まる絆
「よしっ!」
悠斗は、漲る力に思わず拳を握りしめた。力は普段の4倍近く、速さも3倍以上。これなら、あのシャドウウルフどもを相手にできる! 悠斗は、ルーナを背後に隠し、短剣を構え、シャドウウルフに突進した。
「グルルルル!」
一体のシャドウウルフが、悠斗の動きに反応して、鋭い牙を剥き出しにして飛びかかってきた。その動きは俊敏で、通常の悠斗では到底避けられない速度だった。しかし、今の悠斗には、その動きがスローモーションのように見えた。
悠斗は、シャドウウルフの飛びかかりを軽々と横にかわし、その胴体に短剣を突き立てる。
「ガギャアアア!」
シャドウウルフは、悲鳴を上げて地面を転がった。悠斗の攻撃は、その黒い毛皮を容易く貫き、深々と食い込んでいた。
(すげぇ……俺の力、こんなに……!)
悠斗は、自分の圧倒的な力に驚きながらも、すぐに次のシャドウウルフに視線を向けた。もう一体のシャドウウルフは、仲間が傷つけられたことに激昂し、悠斗に向かって猛然と突進してくる。
悠斗は、短剣を抜き放ち、再びシャドウウルフの懐に飛び込んだ。彼は、相手の攻撃を紙一重でかわし、そのままシャドウウルフの首筋目掛けて短剣を振り抜いた。
ザシュッ!
鮮血が舞い、シャドウウルフは断末魔の叫びを上げて地面に倒れ伏した。その体は、ゆっくりと光の粒子となって消滅していく。
「やった……!」
悠斗は、残りの一体のシャドウウルフに目をやった。先ほど傷を負わせたシャドウウルフは、恐怖に震えながら、悠斗から距離を取ろうと後ずさっている。悠斗は、そのシャドウウルフに向かって一歩踏み出した。
「お前も、ルーナに近づくな」
悠斗の低い声に、シャドウウルフは怯えきったように、尻尾を股の間に挟み、一目散に森の奥へと逃げ去っていった。
悠斗は、荒い息を整えながら、短剣を地面に突き刺した。全身に漲っていた力が、急速に引いていくのがわかる。そして、目の前には、再びステータス画面が浮かび上がった。
【『セフィラの欠片』の効果が切れました】【獣人族の少女との繋がりを一時解除します。】
ステータス
力: 6
速さ: 5
体力: 7
魔力: 0
運: 4
知性: 7
【経験値獲得】
シャドウウルフ: 150EXP x 2 = 300EXP (逃走したシャドウウルフからは経験値なし)
【レベルアップ!】
レベル: 4 → 5
ステータス
力: 6 → 7
速さ: 5 → 6
体力: 7 → 8
魔力: 0 → 0
運: 4 → 5
知性: 7 → 8
称号
『異界の迷い人』
『最初の試練を乗り越えし者』
『弱き者を救いし者』
『ゴブリン殺し』
『シャドウウルフ討伐者』
「はぁ……はぁ……」
悠斗は、その場にへたり込んだ。全身の疲労と、先ほどの高揚感の反動で、体が鉛のように重い。しかし、ルーナは無事だ。その事実が、彼の心を安堵させた。
「ユウト……大丈夫……?」
ルーナが、心配そうに悠斗の顔を覗き込む。その小さな手が、悠斗の頬にそっと触れる。その温かさに、悠斗はフッと笑った。
「ああ、大丈夫だよ。ルーナが無事でよかった」
悠斗は、ルーナを抱き寄せた。ルーナは、悠斗の言葉に安心したように、彼の胸に顔を埋めた。その小さな体から伝わる温かさが、悠斗の疲弊した心にじんわりと染み渡る。
しかし、その時、悠斗はルーナの体に異変を感じた。彼女の体が、微かに熱を帯びている。そして、その白い毛並みが、まるで魔力を使い果たしたかのように、少しだけ光を失っているように見えた。
「ルーナ? どうしたんだ? どこか具合が悪いのか?」
悠斗が尋ねると、ルーナは顔を上げた。その瞳は、まだ少しぼんやりとしている。
「ルーナ……なんだか……体が、フワフワします……」
彼女は、そう言って、小さな手を自分の胸に当てた。その手からは、微かに、しかし確かに、魔力の残滓のようなものが感じられた。
【警告:ユニークスキル『セフィラの欠片』の過剰な使用は、対象の魔力源に負担をかけます。特に、ルーナの魔力は『未覚醒』状態であり、過度な吸収は彼女の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。】
悠斗の目の前に、ステータス画面からの新たな警告文が浮かび上がった。その内容に、悠斗はハッとした。ルーナの体が熱を帯び、魔力が失われたように見えたのは、彼が『セフィラの欠片』を過剰に発動させたせいだったのだ。
「ルーナ、ごめん……俺のせいで……」
悠斗は、ルーナを抱きしめる腕に、さらに力を込めた。自分の力が、ルーナに負担をかけている。この「規格外」の力は、諸刃の剣だ。
「大丈夫です、ユウト……ルーナ、平気……」
ルーナは、悠斗の言葉に首を横に振った。その表情は、まだ少し疲れているようだが、悠斗を責めるような色は一切ない。むしろ、彼の心配を和らげようとしているかのようだった。
「よし、もう魔物が出ないうちに、街に戻ろう。ルーナ、疲れたらすぐに言ってくれ」
悠斗は、ルーナの手を引いて、再び街へと向かい始めた。ルーナは、少し足元がおぼつかないようだったが、それでも悠斗の隣を離れようとはしなかった。
冒険者ギルドに戻り、受付嬢に依頼完了を報告すると、彼女は満面の笑みで悠斗たちを迎えた。
「お帰りなさいませ、悠斗様! 依頼完了、おめでとうございます! 光る苔、確かに受け取りました。素晴らしい品質ですね!」
受付嬢は、悠斗の冒険者プレートを預かり、何かを記録している。
「あの、先ほどおっしゃっていた『錬金術師』の方に、この『光る苔』を渡すことはできますか?」
悠斗が尋ねると、受付嬢は少し驚いたような顔をした。
「ええ、もちろん可能です。街には何人か錬金術師の方がいらっしゃいますが、特に有名なのは、ギルドの裏手にある『賢者の工房』の老錬金術師様ですね。彼は、珍しい素材の研究をされていますから、もしかしたら、あなたの持つ『光る苔』にも興味を持たれるかもしれません」
「賢者の工房……ありがとうございます!」
悠斗は、受付嬢に礼を言い、ギルドを出た。ルーナは、悠斗の隣で、疲れているにもかかわらず、好奇心に満ちた目で周囲を見回している。
「ユウト、次、どこに行くんですか?」
「まずは宿を探して、ゆっくり休もう。それから、賢者の工房に行ってみるか」
悠斗は、ルーナの手を握り直し、街の中を歩き始めた。彼の目の前には、再びステータス画面が浮かび上がっている。
【ステータス:魔力(未覚醒)】
【助言:『賢者の工房』の老錬金術師は、この世界の『理』に深く通じています。彼との出会いは、あなたの『錬成』スキル覚醒、そして『魔力』の『啓示』を得るための、重要な一歩となるでしょう。ただし、彼の探求心は、時に危険な領域に及ぶこともあります。用心してください。】
「危険な領域、ねぇ……」




