真面目な感想
その言葉に俺はもう一つの疑問が浮かんできた。 確かに西垣のことを観察したいのならば西垣本人を見ていればいい。 だがここにいる数名は俺にも付きまとっていた。 少なくとも昨日の芦原との買い物の最中に、だ。
「最初こそ我々も西垣さんを見ているだけで良かったし、積和君と一緒にいることが多かったから、嫉妬の念はありました。」
もうその嫉妬の件に関しては何度もやられてるから気にしてない。 気にしていたらキリがない、と言った方が正しいだろうか。
「でもある時見てしまったんです。 積和君と会話している時の西垣さんが一番可愛いお姿だということに。」
「それからはただ西垣さんを見るだけの派閥を別れて、今はお二人の、基西垣さんの周囲の方々も含めて見守っていこうと結束したのです。」
「なるほどなぁ。」
その話を聞いて俺は肩を竦めた。 やってることは奇行に近いが、西垣本人に直接干渉してくる訳ではないのであれば強く言うつもりもない。
「ただ付きまとうのだけは止めてくれねぇか? それを知った上で付きまとうのを繰り返されると居心地悪いだろ。 お互いに。」
「そう・・・ですね。 我々も四六時中見れるわけでもないのは紛れもない事実ですので。」
その事実は胸の中にしまっておいて欲しいものだが。
「それでは我々はここを離れますので。」
「なんでだよ。 理由はともあれ集まったんならここで昼食を済ませればいいじゃないか。」
「いえ、ここはあくまでもお二人の為の場所ですので。 それでは!」
そう言って俺がなにかを言い返そうとする前に去っていってしまった。
「なんというか、忙しない人達でしたね。」
「まあこれで尾行まがいな行動を止めてくれればそれでいいんだがな。」
しかしこれで心配事や不安は取り除けたし、ちょっと遅れたが昼飯を食べよう。
「そう言えば西垣は弁当って誰が作ってるんだ? 自作?」
「今は早起きの父が作ってくれています。 一度自分で作ってみようとも思ったのですが、思いの外バランスが難しく・・・」
「その箱の中に入れるって考えながら栄養の事も考えるとな。」
「積和君のお弁当は綺麗に整っていますよね。」
「大半は作りすぎた昨日の残りか冷凍物だけどな。 ま、作って貰えるだけありがたいと思わないとな。」
「そうですね。」
そう言いながら俺と西垣は互いに箸を進める。
「そう言えば今週末でしたよね? 弓道部の大会。」
「俺は参加資格が無いからお荷物番だけどな。 それは引間も同じだし。」
「同じ道術である以上、闇雲さは無いかと思われます。 どこで行われるのですか?」
「弓道は出来る場所がかなり限られるらしいから、すぐに分かるって言ってた。 ほら、この学校よりも北の方に2つくらい大きなグラウンドのある公園があるだろ? あの中に道場があって、その最上階でやるらしい。」
「その場所なら柔道部の地区大会も行われる場所みたいですね。」
「今検索する。 ここなんだけどさ。」
「本当に大きな場所ですね。 学校のグラウンドよりも広いんじゃ・・・」
そんなやり取りをしている内に近付いていたのに気が付き、一旦距離を取るように西垣と離れた。
「・・・そろそろお昼も終わるし、急いで食べようぜ。」
「・・・そうですね。」
微妙な気まずさも青春のスパイスだろうかと考えつつ、冷めきっている弁当をそそくさと食べるのだった。