分かれた派閥
「視線、ですか?」
昨日の芦原とのやり取りで、思い当たった事があったので、西垣に聞いてみることにした。
「ああ。 誰かに見られてるとか位の程度でもいいんだ。」
「そう言うことでしたら私はこの髪の色の事もありますから目立って目を向けられますが・・・どうしてそのようなことを?」
西垣の疑問に俺はどう返すか悩んだ。 昨日はたまたま見かけただけだし、なんだったら西垣の方まで行ってない可能性もある。 心配するのも大事だろうが、どう言えばいいのかと思った時に、奴らの行動であることを思い付いた。
「最近物騒になってきただろ? さっき西垣が言ったじゃないか。 その髪が目立つって。 前の事もあるし、なにかも目をつけられているかもよ?」
言葉は濁しているが、やはり付きまとわれているとまでは言いにくい。 そして実際に西垣はハーフである以上髪の色についても難癖をつけられる可能性は否定できない。
「・・・どうでしょうか。 心当たりは・・・あ、でも・・・」
「何かあったのか?」
ちょっと食いぎみに聞いてしまったが西垣は気にしていない様子だった。
「後ろを振り返ると、たまにこの学校の制服を着た人達が隠れているのを見るようになりましたね。」
西垣の方でもそうなのか。 これは笑い話にはならなくなってきたぞ。 俺と西垣の両方を見られているという状況。 明らかになにかある。
「西垣、ものは相談なんだが・・・」
お昼時になり俺と西垣はいつもの場所で昼食をする約束をしてから、俺が先に教室を出る。 少し歩いたところで後ろから来ていることを確認して、俺は曲がり角を曲がる。 そこで先に進まないで止まり振り返る。
「よぉ。」
後ろから追ってきていた2人の生徒達はすぐに後ろに行こうとするが
「お話を聞かせて貰ってもよろしいでしょうか?」
そこに西垣がいた。 追われる側と追う側で挟み撃ちの形にしたのだが、あまりにも警戒されなかったのは助かった。 そして2人の生徒は諦めたかのように両手を上げて、更に後ろにいた人物達にも降伏のサインを出した。
「つうことはこの場所も既に何日か前にバレてた、と。」
俺達は追ってきていた人物達にそんな問答をしていた。 流石に地面に座らせる訳にもいかないので、他のベンチに座って貰っているが。
「そもそもなんで俺達をつけるようなことをしていたんだ? まさかまた俺が西垣と話すことを妨害しようと・・・」
「そんなことをしようとする奴らと一緒にしないで貰いたい。」
俺の疑問に声を上げた男子が言うと、他の生徒も頷くように首を縦に振っていた。
「確かに我々は西垣さんを見守りたいという一心で結束した者達ではあるが」
そこは結局一緒なのかよ。
「過激派連中のように西垣さんの周りにいる人達を遠ざけるような真似はしない。」
「自然の、ありのままの西垣さんの姿を見るのに、自分達がその場にいれば等という嫉妬まがいな気持ちは我々には存在しないわ。」
どうやら前に俺が絡まれた連中とは違うようだ。
「だったらなおのこと遠目から見守る様なことをしないで、直接西垣と交流すればいいじゃねぇか。 芦原から聞いたがその辺りは西垣と同じ柔道部の面子なんだろ?」
どこまで本気にすればいいのか分からないが、とにかく危害なんかを加える訳じゃないのが分かった以上、ただ見守られるのも気味が悪い。 だったら西垣と交流を深めれば良いのではないかと提案したが
「確かに凛々しい姿を拝めるのは柔道部としての特権。 だが西垣さんの真の姿を見れるのは君といる時だけなのですよ。」