感じる視線
「済まぬな相棒。 このような事に同行してもらって。」
「気にするな。 消耗品なんていくらあっても足りなくなるんだからな。」
部活終わりの放課後に芦原に呼び止められ、こうして買い物に付き合わされている。 ちなみにいるのはスポーツ用品店だ。
「あったぞ。 これがなければいけないな。」
芦原が手に取ったのはテーピングだ。
「テーピングって怪我した時に巻き付けるイメージがあるんだけどよ。 剣道でテーピングってどの場面で使うんだ?」
「関節の保護などにも用いられる。 手元や足元に巻くことにより、擦り傷の軽減にもなりうる。 運動をしていればこやつの存在無しではいられなくなる程の使用感になる。」
確かに運動部の足首とかに巻き付けてあるのを見たことがある。
「後はこれだ。」
「冷却スプレー?」
「防具の中はスモークされるのでな。 急速冷却は夏には必須なのだよ。」
「あれはどうなんだ? 最初から体に直接塗って冷やす奴。」
「トレーニング後では無意味だな。」
今まで運動をほとんどしてこなかっただけに、そう言った苦労が俺には分からない。 弓道部もそこまで激しく動く部活でもないが、必要にはなってくるのだろうか。
「相棒の方はなにかいらないのか?」
「今のところは特にな。 それよりもよ・・・」
俺は芦原に目線だけで後ろを見るように仕向け、バレるかバレないか程度の距離で俺達を見ている集団を確認して貰う。
「ありゃなんだと思う?」
「尾行か・・・ しかしあの中に我の知ってるものもいる。」
「まじで?」
「一部は柔道部の面子だろう。 剣道場と柔道場はほぼ一緒の場所だからな。 となれば目的はある程度絞られる。」
「どんな?」
「恐らく奴らは女神の観測者達だ。」
「なんだその仰々しそうなネーミング。」
こいつの言い回しのせいかそれとも本気なのか区別がつかない時があるんだよな。 芦原は悪気が無いのは分かるが、女神=西垣って構図が分からなければ取り合って貰えない言い方だったぞ。
「ていうか西垣が目的の連中なら、なんで俺達を尾行するんだ?」
「それは我にも分からぬ。 前に相棒が絡んできた連中とは違うようだが。」
あの時はただの嫉妬心に近いものがあったし、西垣の中にもう一つの人格がいることをまだ知らなかった時期だったからな。
「どうすればいいと思う?」
「まずはこちらも様子見をすれば良かろう。 仕掛け時を誤ればこちらが不利になるやもしれん。 迂闊に前に出ぬことも大切だ。」
「それは剣道の心得なのか、漫画からの引用なのか。」
呆れるように言った俺だが、どっちにしても言いたいことは分かっている。 なんの理由も無しについてきていることはあり得ないだろうが、こちらが動きすぎて警戒されては意味もない。
しばらく続くようなら行動に移そうと思いながら、見てみぬ振りをして芦原との買い物、及び一緒に飯を食うことにしたのだった。 もちろん帰りが遅くなり夕飯も食べてくることは連絡済みだがな。