従うか抗うか
『貴方はパラレルワールドと言うものは知っていますか?』
「様々ある分岐点で別の選択肢を選んだ時の並行世界があるとか無いとか・・・っていう奴でしたっけ?」
『具体的な定義は違いますが概ね間違ってはいないです。 とは言え貴方に並行世界を移動できる力だとか、過去に戻る力があるなんて言う話ではないのでご安心を。』
それに対してなにに安心すればいいんだろうか? 一応一般人であることか?
『私が今回貴方に対して行うことは助言ではありません。 ですが、未来を変えた大きなきっかけが生まれたので、その事を貴方自身に伝えに来たのです。』
「え? 手助けじゃないの?」
てっきりこう言う未来が訪れるからどうのこうのだと思ってたんだけど。
『元々神が干渉しないのがセオリーというか、今回に限っては手助けしない方が上手く行くような気がすると言うか・・・』
「?」
『先程パラレルワールドの話をしたと思うのですが、今までに無い事例であること、そしてそれが一番の可能性を秘めていると言う事です。』
・・・駄目だ話がまとまらなくなってきた。 いよいよ本気で「夢オチでした」なんて言われて目覚めた日にゃ、後味が悪いとかそんなもんじゃなくなるぞ。
『今までの事象は最初に仲良くなろうと試みていました。 しかし今回の場合は全く関わらなかった事で、むしろ彼女の方から歩み寄ってきた。 これは単純に貴方が好感度を上げるのに必死に動くのではないと言う話になるのです。』
話の流れは掴めないままだが、とりあえず分かったのは西垣からのアプローチのお陰で、あの夢のような最悪な事態は免れるということだ。 いや、パラレルワールド的なことを考えればあれでも回避出来たかも知れない可能性が残っていたと言うことになる。
「それで結局どうすればいいんです?」
『最悪な事態の回避のために、彼女の事を気にかけること。 そしてその原因となる因子を少しでも断ち切る事です。』
少なからず好感度は落とすな、という意味なのだろう。 回避できるならそれに越したことはない。 だが原因の因子を断ち切ると言われても、なにがトリガーになるのかなんて分かるわけもない。
「今までの俺は見つけられなかったってことですよね?」
『残念ながらそうなります。 なので今回で賭けてみようと思った次第でもあります。』
「なるほど。 ・・・ちなみに失敗して運命を回避できなかったら?」
『別の世界線の貴方が頑張ってくれる事でしょう。 但し記憶は引き継がれません。』
たまにある「死んで覚えてクリアを目指す」なんて優しい物ではないか。 まあ人生なんて本当ならば一度きり。 それが普通だよな。
「あの夢が現実化するのって具体的に何時なんですか?」
『最長記録は1年になります。』
期限を聞いておいた方が一応良いだろうと思って聞いたが、長すぎず短すぎず、と言った具合だった。 短期戦は好感度を上げるのに苦労するし、長期戦は不祥事が起きやすくなる。 俺の1年を犠牲にする代わりに女子1人を守れるならそれもそれで良いのかも知れない。
『私は見守ることしか出来ません。 ですが貴方自身の選択に後悔だけは残さないようにしてください。 「もしも」の話など考え出したらキリがないので。』
「出来るだけ尽力はしますよ。 逆らえる運命の為に動くのも、なんかちょっとした主人公みたいですし。」
『ありがとうございます。 貴方の運命に幸あれ。 積和 数馬に幸運と力を。』
そうしてゆっくりと神様の方から光が強くなっていき、眩しくて目を瞑り、次に瞼を開いた時には、いつもの天井に戻っていた。