神からの啓示
『目を開けなさい。 目を開けるのです積和 数馬。』
名前を呼ばれて目を開ける。 すると完全に自分の部屋でないことは確実な場所が目に広がっていた。
「・・・夢?」
そうとしか思えない。 そして誰に呼ばれたのだろうと思考を巡らせようとしたときに、目の前に輪郭がぼんやりとしたなにかが現れた。
『こんばんは。 この場を用意できたことに感謝します。』
「・・・本当に夢だよな?」
『夢ではありますよ。 明晰夢という、意識がある夢ですが。』
意識のある夢。 夢は夢意識下の無防備状態だってなにかで読んだことがあるが、夢にもそれ相応に種類があるのも知っていた。 それで明晰夢か。
「それじゃああんたがこの状況を作り出した、と?」
『そう言うことです。』
「神様だって言いたいのか?」
『そうだと言えば信じてくれますか?』
その問いに俺は悩み、そして答える。
「明晰夢って普通自覚するのは寝ている本人の筈。 わざわざ他人から教えて貰う必要なんて無い筈だから、神様なのは本当だろうね。」
『信じていただいてありがとうございます。』
「ま、家族が神様がいるって信じるんでね。」
そうでなければこんな馬鹿げた夢は無いだろう。
『そのようですね。 では神から貴方に伝えたいことがあります。』
目の前の不鮮明な姿の神様は俺に対して指を指しているように身体を動かす。
『積和 数馬 貴方は西垣 フィナンシェを絶望に染めないための手助けをしなければならない運命にある。』
その言葉に俺は目を瞬き、そして呼吸を整えて、目を閉じる。
「もう一度眠ってるって感覚になれば現実世界に戻れるかな?」
『受け入れがたいのは百も承知ですが、どうか神の話を聞いてはいただけないでしょうか?』
随分と腰の低い神様だ。 親しみを重点に置いた神なのだろうか?
「なんで俺が西垣の手助けをするんです? 正直理由が分からないし、まだ会って3日、強いて言えば話したのは今日が初めてなんですけど?」
『貴方はあの夢を見ている筈です。 彼女の、恐ろしい惨劇を繰り広げた夢を。』
その言葉に言葉を失う。 あの夢の事は誰にも話していない。 にもかかわらず目の前の不鮮明な姿の神様はそう告げた。 少なくともただの人では済まされないこと、そして確認しておきたいことがあった。
「・・・つまりあの夢は正夢になる・・・?」
『あの時でも最良の選択肢をしていたのですが、何かが足りなかったようです。』
神様の言葉に小骨が引っ掛かる感じがした 「あの時」?
「・・・なぁ神様? あの夢はなんなんだ? ただの予知夢じゃないのか?」
『・・・あれはただの予知夢ではありません。 並行世界の貴方が最後に見た光景が、あの夢なのです。』
その神様から放たれた衝撃的な事実に、もうどこから突っ込んでも無意味なのだろうと、悟らざるを得なかった。
元々はここまで非現実的なイベントは起こさない予定だったのですが、あの夢の焦点を合わせるために書きました。
でもファンタジーではありませんので、そこだけはご理解下さい。