あの時の事を教えて
傷の心配をしてくるのもそうだが、西垣の中にもエムゼの存在が意識され始めている。 いい傾向ではあるが、その分西垣の中にない記憶が明らかになっていくことにもなる。 誤魔化すべきか説明をするべきか。
そう考えながら西垣の方を向くと、西垣のまっすぐでしっかりとした瞳が俺を見ていた。
「・・・分かった。 あの後何が起きたのかを教える。 だけど1つだけ約束してくれ。 今から教えることをまずは信じてほしい。」
「・・・分かりました。 私も、覚悟は出来てます。」
そう西垣が言った後に俺は絡まれた後の事を説明した。 西垣からもう1つの人格に入れ替わったこと。 その人格に名前を付けたこと。 定期的にだが表に出す代わりに俺がいる時に限定すること。 そんな話を西垣にすると、西垣は自分の胸元に手を当てた。
「そう、だったのですね。」
「この傷に関してはまあ、西垣のもう一人の人格、エムゼが付けた訳じゃないから、西垣が病むことじゃねぇよ。」
多分この傷について心配をしていたとしても西垣とエムゼには関係無い事だからな。
「もう一人の人格、エムゼ、ですか。 今後からは彼女とも向き合わないといけないのですね。」
「そうだな。 二重人格は治すものじゃない。 互いに理解し合えばやりようはある筈だ。」
「私のもう一人の人格。 エムゼ・・・」
自分自身に言い聞かせるように反復させ、理解を染み込ませているようだ。
「それにエムゼと話して分かったのは、西垣とエムゼが入れ替わる瞬間って言うのは、西垣がとにかく嫌な気持ちになった時が変わるスイッチになっているみたいなんだ。」
「スイッチ、ですか。」
「西垣にも思い当たる節はある筈だ。 だけどそれだけじゃない。 エムゼは多分西垣の代わりに汚れ仕事をしていたんだ。 まあ記憶が無くても戻った時に現状が残っていれば、例えやった記憶は無くても当事者になっちまうがな。」
「でも、私にはそんなことをした記憶は無い。 そして周りに倒れ込んでいた人達・・・エムゼがやっていたことなのですね。」
その認識もして貰わなければ今後に関わってくる。 辛い事実を受け止めるのは時間が掛かりそうだ。
「そう言えば積和君はそのエムゼと何度か話しているようですが?」
「西垣に不快な思いをさせて何度かな。 でもさっきも話したが、昨日の事で説得はしてある。 言うことを聞いてくれるかは定かじゃないがな。」
「そうなの、ですか。」
そう西垣を見ると、何故か西垣は涙を流していた。
「に、西垣? どうした? なんで泣いてる?」
「え? あれ? なんで泣いて・・・」
「・・・西垣?」
「・・・なるほどな。 これでも条件は揃うわけか。」
西垣が泣いたと思ったら、いつの間にかエムゼに入れ替わっていた。




