話してみて思ったこと
昼休みを終えて午後のレクリエーションにて新入生全員が1ヶ所の教室、視聴覚室へと案内される。 目の前にはスクリーンが垂れ下がっていた。
「初めまして新入生の皆さん。 これからの時間は我が高校での行事について説明をしていきたいと思っています。 高校というとこで中学までの規模とは大きく異なるので、圧巻されることも多いかと思いますが、その分大人になる前という自覚を持っていただくことも目的としています。 また当学校では・・・」
スクリーンに写し出される映像を見ながら、俺は西垣を後ろからチラリと見ていた。
さっき話した雰囲気では、あの夢のようになることなどあり得ない。 あの時は彼女の今の綺麗な長い髪も短くなっていたし、どこか全てを壊したい衝動に駆られていた。 あの夢がもし現実になるとして、なにが彼女をそうさせたのかが分からない。
「中学で行われたイベントも高校になりより大規模に行われ・・・」
高校では楽しいイベントが盛り沢山なのだろうとながらで聞きながら、それでも西垣の事が気になって仕方がなかった。
俺の方から歩み寄った訳ではない。 あの夢を見た上で仲良くなろうなんて思ってもない。 だが彼女から歩み寄ってきた場合は? 未来が変わるのか? いや、そうじゃない。 あの夢が正夢だったとしてもたったあれだけの事で未来がそうなるともならないとも言える。
「ああ、それでも貴方だけは壊したくなかった。」
「特別な存在でないはずの私をしっかりと見てくれていた。」
あの夢の中で彼女が発した台詞。 あれだけの好印象をどうやって与えた? そもそも何故彼女はあんな惨劇の中で俺だけを残した? 本当に俺だけだったのか?
「改めて君達の入学を我々教員一同は歓迎します。」
締めの言葉で俺の意識は元に戻る。 俺の夢が正夢にならないようにしなければならないのか。 それとも本当にただの夢なのか。 どちらにしても西垣とコンタクトを取ってしまった以上、ただのクラスメイトとして接することは恐らく不可能になった。 あの場でわざわざ1人で来ているんだ。 「ただの」で済ますのは無理だ。
話してみただけでは見た目がハーフなだけの女子高生。 印象が悪くなるのは避けるべきだろう。 しかし想いが強くなりすぎるのも良くないかもしれない。 俺は1人そう感じているのだった。
「結局どうすればいいんだ・・・」
学校も終わり家に帰って自室で考える。 あの夢が後々現実になることを仮定したとして、西垣に好印象を与えたとしても最終的に彼女の手にかけられてしまう。 しかし彼女が自分に対して好感度が高かったからこそ、あの時まで生き延びられていた事実もあるだろう。
「とりあえずこの話は誰にも明かさないようにしないとな。 本人は勿論、家族にも言えねぇ。 ・・・いや、言うべき時は訪れるかも知れないが、少なくとも今じゃないな。」
果たしてこの秘密を誰に打ち明けて理解してくれようか。 無理難題かも知れない質問を自分に問いかけて、明日明後日の休みの間に頭をスッキリさせようと、夕飯を食べて風呂に入り、来週に必要なものを確認してから、床に付き眠る事にしたのだった。