わざわざ来た理由
彼女自ら訪れた理由とは?
俺はとにかく戸惑っていた。 こちらはなるべく彼女と接点を持たせないように行動をしていた筈だし、あれだけ色々と聞かれている彼女が、俺のことなど見ていないものだと考えていた。
故に彼女がここにいる理由がなおのこと分からなかった。 この場所を見つけたのは今日が初めてだし、なんだったら自分と彼女以外に誰もいない。 一人だったところを声をかけたとしても、少々不自然なくらいだった。
「ええっと・・・積和・・・さん・・・?」
もう一度彼女に名前を呼ばれて意識を取り戻す。 人の事を無視するなど良くない行為である。
「ご、ごめん。 色んな感情が渦巻いちゃって。 あ、ここでお昼過ごす?」
「はい。 お邪魔で無ければ、と。」
そう言われたので俺はどうぞと席を促す。 そうして彼女はベンチに座った。 座ったのだが
なんで俺と同じベンチに座る?
俺はもう1つのベンチに行くように促したつもりだったのだが、何故か隣に座った。 他の誰かぎ来るわけでもないだろうし、逆に誰かが来た時に言い訳もしづらい。
しかしここで追い返すのは気分が悪いし、接点自体はあった筈だ。 どんな理由であれ、彼女とは後々コンタクトを取ることに変わりはないのだろう。 裏を探るついでに聞いてみてもいいか。
「どうしてここに? 西垣・・・さんもここを見つけて?」
「そう言う訳じゃないんです。 ・・・クラスの皆さんと話している中で、貴方だけはまだお話をしたことが無かったなと思い当たったのですが、なかなか機会が恵まれなかったのです。」
そりゃこっちも敢えて避けていたからな。 自分から避けてるんだから、話す機会もなにも無かろうて。
・・・ん? じゃあなんでこの機会を伺ってたんだ? 話すだけなら教室でもいい筈なのに。
「すみません。 急に押し掛けるような形で会ってしまって。」
向こうも向こうで1人でいたところに声をかけたことに抵抗はあったようで、不審に思ってる俺のことを見て表情を曇らせてしまった。
「いや、別にいいんだけど・・・本当に良かったのか? 教室で食べた方が盛り上がるんじゃないのか?」
彼女の意図が分からないためとりあえずなにか話題を出すことにした。 そう言うと西垣は少しだけ疲弊したような表情を見せた。
「確かにそうしたかったのですが・・・入学してから質問責めにあうことが多かったので、少しでも気が休まる時間が欲しかったんです。 そう言う意味では、貴方のことを知りたくなったんです。」
そう話す彼女の表情が和らいだのを見て、苦労していたんだなと思った。 いくら珍しいとはいえ、あれだけの人数に囲まれれば、自分に自信がなければストレスになるのだろう。
「そう言うことなら俺のことは気にせずゆっくり休んでよ。」
「そうですね。 ここは2人だけの秘密の場所、ということで。」
そうして俺と西垣は、春風に包まれた昼休みを過ごすこととなった。