労い
試合が終わったので改めて控え室に向かうことにした俺達3人。
「落ち込むような奴ではないだろうけど、今後のエールとして声はかけてやろうぜ。」
「いやいや。 初戦で引き分けなら実力は十分じゃない? 向こうの相手先輩だったんだし。」
「本人としては悔やむところもあるかもしれません。」
三者三様に言葉を述べながら俺達は先程案内された控え室に向かい、その扉を開けると
「凄いじゃないか! 今年のニューホープは期待を裏切らないな!」
「格上相手に引き分けとは大したものだ。 相手も驚いてると思うぞ。」
そこには先輩達に熱烈な喜びを受けている芦原の姿があった。
「・・・俺達の労いいらないかもな。」
「また後にしましょうか。」
その光景を目の当たりにして俺達は控え室の扉をそっと閉じたのだった。
「いやぁ、あれは旋風を巻き起こすかもねん。」
結局先程の客席 (戻ったらそのままだった。)に座り、芦原の事を思う。
「同じ道術でも経験者は格が違うか。」
「そう言えばニッシーは柔道部だったよね。 大丈夫なのん?」
「私も幼い頃から習っているので・・・ニッシーって私の事・・・ですよね?」
「あだ名はあった方が親しみが湧くっしょ? ガッキーだとダブりそうだし。 うちの事もヒッキーって呼んでいいし。」
「それは響き的にどうなんだ?」
「ここにいたのか我が相棒。」
その声に振り返るとまだ剣道着姿の芦原がいた。
「おう芦原。 随分と好成績だったみたいじゃないか。」
「あまり先輩と同じことを言わないでくれ相棒。 確かに相手は我よりも熟練していた。 故に先の試合の引き分けは幸運でしかないのだ。 実力ではないゆえ喜びを表せないのだ。」
「でも負けてはないっしょ?」
やれやれと言った具合の芦原に引間がツッコミを入れる。 思うところはあったらしい。
「ビギナーズラックだって自分の実力っしょ。 負けて得られる知識もあるけど、一本は取ったんだからそれを喜ぼうぜ。 素人目で見ても強いって証明されたならそれでよくない?」
引間の言い分は軽いが、ここで気分を落ち込まれても仕方がない。 そんな想いが届いたのか、芦原も気持ちを切り替えたようだ。
「・・・どうやら期待を裏切らぬために肩に力が入りすぎていたようだ。 礼を言おう知識の女神。 貴殿のお陰で目が覚めた。」
「うちはなにもしてないって。 それよりメーティスは大袈裟じゃない? うちには荷が重すぎるって。」
「いいんじゃないか引間。 感謝はしてるんだからさ。 それよりも他の試合の方はいいのか?」
「心配は無用だ。 そもそも今回のは地域対抗。 いわば御前試合だ。 互いの実力を見るだけの試合だ。 それにもう我の出番はない。 ここからは応援を送る番になるわけだ。」
そうして残りの時間で先輩の応援を目一杯するのだった。




