思わぬ遭遇
夢の中の相手の事を知った翌日の朝。 朝御飯を食べ終わってそのまま学校へと行こうと来た矢先
「カズ。 これ。」
そう言って渡されたのは1つの弁当箱。 布巾の大きさからして2段式だろう。
「うん? まだ授業は無い筈だけど?」
「授業は無くとも午後はあるのよ。 聞いてなかった? オリエンテーションよオリエンテーション。」
「・・・ああ、確かに言ってたわそんなこと。」
「相変わらず変な抜け方してるわね。 高校は中学よりもやることが多くなるんだから、そんな風に余裕かましてたら遅れを取るわよ?」
「へいへい。 生徒会関連の仕事してる姉に言われたら、本当にそうなんだろうよ。 行ってきます。」
「行ってきます。 母さん。」
そうして姉と同時に出たからか一緒に並んで登校するような形になった。 とは言えこの辺りは学生が少ないものの、兄弟揃って登校などは割りと見られた。 中学の時にも何人かは兄弟姉妹で通学しているのを見かけてたし。
そう思いつつ登校をしていると、やはり姉は顔が広いのだろう。 同学年と思われる生徒から挨拶をされていく。
「おはよう二三矢。」
「おはようございます。 積和さん。」
「おはよう皆。 今日も頑張って行こう。」
「おはようございます。 今日は弟さんと一緒なのですね。」
姉と登校をしていると言う事はつまり、弟である自分にも目線は向けられる。
「ああ。 今日は時間が被ったのでね。」
「いいですねぇ。 私も兄弟が欲しかったです。」
そんなやり取りを見ていると、不意に姉から後ろ手で「早く行って」と合図される。 どうやら自分が壁になり、俺への視線を一旦反らす狙いらしい。 まだ高校生活に慣れてない内に色々と聞かれても困るのだろう。 俺は姉に感謝しつつ、そっとその場を離れるのだった。
そして教室に着いて自分の席に座り、今日のことを大まかに話された後、担任が離れたかと思えば、そこそこの大きさの段ボールをいくつか持ってきた。 どうやら教科書や参考書が入っているようだ。 教科書を適当にとりに行き、少しだけ内容を確認するために流し読みをする。
「確かに中学とは別格かもなぁ。」
数学を見ていたが書いていることが数字の羅列ではなかった。 その辺りも予て気を引き締めて行かなければ乗り遅れることだろう。
本日一度目の休み時間で俺は校内を歩いていた。 もちろん校舎の構造を覚えることも考えているが、今の自分に最も欲しい場所を探していた。
3階よりも更に上に上れる階段を見つけ、その先に行く。 そして辿り着いたのは・・・
「・・・やっぱり閉まってるか。」
屋上へと続く扉は鍵が掛かっているだけでなく、丁寧に虎柄のロープも張ってあった。
高校生の憧れとも言える屋上。 期待を胸にしたものの、その期待は虚しく散った。 正直開いているとは思ってはいなかったのだが、期待感だけはあった。 そうして次の授業が始まる鐘が鳴り、急いで自分の教室に戻った。
「なんとか昼休み前に見つけられたぜ。」
休み時間を利用してあちこち歩き回って、ようやく見つけたのは校舎裏にひっそりと置かれていた2つのベンチ。 人も通らない上に雨除けまであるという奇跡のような場所だった。
「俺は静かに食べたいんだよな。 食事する時まで会話で遮られたく無いんでね。」
折角の新しいクラスだ。 色々なクラスメイトと親睦を深めるのもいいだろう。 だが俺は申し訳ないが少しでも静かに暮らしていきたいのだ。 友人がいらない訳じゃない。 だがいきなり親睦が深まるとも思ってない。 だからゆっくりした時間を過ごしたい そんな想いだけだ。
「しばらくは誰も来ないだろうしな。 最低でも夏休み辺りまでは独り占め・・・」
「あの・・・積和さん・・・でしたよね?」
そんな気持ちをウキウキにしていた時に声をかけられる。 その声の方を向くと・・・
「お隣・・・いい・・・ですか?」
入学式から3日間、全く会話をしなかった筈の西垣 フィナンシェが、お弁当箱片手にそこに立っていた。
主人公とヒロイン、ようやく初対面。