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「おらぁ!」


 先に仕掛けたのは帆山。 拳ではなく手刀を使った突きだった。


「迷いがないのは良いことですが、直線的過ぎますね。」


 フィーナはその手刀を避けて、腕ごと帆山の懐に入り込む。


「背負い投げの構え!」


 引間が声を上げる。 そのまま地面に叩きつけられるかと思いきや


「そんなので!」


 帆山は背負い投げの体勢のまま、掴まれた腕をほどいて、足元から綺麗な着地を見せる。


「荒々しい動きをしますね。 ですがそんな剛の動きでは躱されて反撃されるだけですよ?」

「はん! 倒す決定打にならない柔道じゃ、あたいは負かす事なんか出来ないぜ?」


 これは公平なルールのもとやってはいるが、試合ではないので帆山の動きも反則にはならない。


相棒(バディ)。 分かってはいると思うが・・・」

「俺も止めるつもりだよ。 なんでこんなことになったのかまでは知らないけどな。」

「罪多き男よ。」


 その結論は分からないが、戦いは続いている。 具体的に言えば、攻撃の手数は帆山が圧倒的に上なのだが、それを最小限度の動きでフィーナが動かし続けている。 このまま行けば消耗具合からして帆山が参る方が決定的だろう。


「帆山さん。 貴女が私に納得していない理由はなんですか? 私が貴女になにかしましたか?」

「っ! それはあたい自身が分からなくなってるんだよ。 確かにあたい以外の女と数馬が話していた時にはムカついたし、数馬といる時は楽しかった。 でも数馬はあんたを選んだ。 あたいだって分かってる! 数馬はあたいの事を見てくれなくなるって。 隣にいるのは、あたいじゃないんだって。 でも、でも! 心では嫌だって思ってるんだ! そんなあたいが嫌なんだ! だから・・・」

「・・・だから「負かせろ」と言ったのですね。」


 2人の会話から物々しい雰囲気を感じさせる。 帆山も帆山なりに葛藤があったようだ。


「柔道は確かに相手を負かせる力は持っていません。 基本は護身術ですので。 ですが方法が無いわけではありません。」


 幾度かのやり取りを繰り返し、そしてフィーナが帆山に仕掛けに行く。 床に帆山を倒し、そのまま絞め技と呼ばれる形に入っていく。


「・・・へっ。 この程度じゃあたいは負かしたことにはならないぜ?」

「ええ。 ですがこの状態をいつまでも耐えられる訳ではない筈ですよ? これをやられ続けた相手は必ず音を上げるんです。 これはそう言う技ですので。」


 そうして2分、3分と時間が続き、そして・・・


「・・・ぐっ・・・! あぁ!」


 帆山が床を叩き、勝負はフィーナの勝利となった。


「あんたとあたいになんの差があるんだ・・・ あたいは・・・なんで負けるんだ・・・」

「実力で言うなら差はほとんどありません。 でも強いて言うならば・・・」


 そう言ってフィーナは帆山に手を差し伸べる。


「数馬さんに対する気持ちと、彼をどう見ているか、だと思うのですよ。 私は奪われたくないと思いながら勝負しました。 その想いが強さに変わるのです。 そもそも負けるために戦っているのならば、勝敗は決まっていたものですから。」


 そう言われた帆山は、その手にゆっくりと自分の手を当てたのだった。

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