2人の自分
俺は驚きを隠せなかった。 確かに二重人格の場合、片方は記憶がなかったり、そもそも互いに認識できない事がほとんどだ。 それはフィーナも例外ではなかった筈だ。
なのに今は鏡越しであるとは言えフィーナとエムゼが対立しているのだ。 これってアニメとかの演出的見せ方だと思ってたのに。
『初めまして・・・とは違いますかね? 自分自身にこんな言葉を投げ掛けるのはおかしいと思いますが。』
「はん。 そんなものは今更だがな。 オレはお前、お前はオレだ。 二重人格の定義なんざそんなもんだろ。」
2人、といって指し違いないのか分からないが、対話が出来ていることを確認した俺は、フィーナの方に聞いてみることにした。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
「1つは誰か来ないかの見張り、1つはオレ達の立会人ってところだろうな。 ここからはオレ達の問題だ。 見るのはいいが会話の邪魔をするなよ?」
俺は2人の邪魔になら無い位置でベンチを立つ。 会話には参加できないが聞くことは許されているようなので、周りを見渡しながら、2人の行く末を見守る事にした。
『私はこれからあなたと話を着けると言いました。 あなたは私。 追い出すことは出来ません。』
「そりゃそうだ。 オレはもう1つの人格として生まれている。 アイツよりもずっとお前のことを見てきた。 互いに記憶は残ってないようだがな。」
『そうですね。 気が付けば周りに倒れている人達を見た時の事。 記憶がないのでなく、あなたがやっていたからなのですよね。 そして私はそれを拒み続けた。』
「二重人格なんてのはそんなもんだ。 だが今はこうして話し合っている。 それがなにを意味するか。」
『ええ。 私はもうあなたがいることを拒まない。 そしてあなたも私の中で眠り続ける事もなくなる。』
「割りと行き来するのはエネルギーがいるがな。 まあそれもいずれ慣れるだろ。」
『これからよろしくお願いいたしますね。 エムゼ。』
「ああ。 よろしく頼むぜ主人格様。」
どうやら話がついたようで、エムゼが俺に手招きをする。
「つー訳だ。 これからはオレもちょくちょくは顔を出すことになるぜ。」
「親戚に家に帰ってきた居候かよ。」
何はともあれこれであの夢の未来からは遠ざかったのではないかと勝手に解釈する。 あの時は恐らくエムゼが暴走していた事によるものだと今は思えてくる。
「ただいま戻りましたよ。 積和君。」
いつの間にかエムゼからフィーナに戻っていたのを見て安堵する。
「お昼の時間、結構使っちまったな。 とりあえず弁当にしようぜ西垣。」
「そうですね。」
『ケッ。 もうお前らは付き合ってるんだから、名前呼びしあってもいいだろ。 いつまで名字呼びしてんだよ。』
多分鏡越しから言ってきたエムゼに俺とフィーナは目を合わせる。
「・・・まぁ、一度呼んでるからおかしくはないか・・・改めてよろしくな、フィーナ。」
「・・・よろしくお願いいたしますね。 数馬君。」
名前呼びを互いにして妙な気恥ずかしい感じになったので、手元の弁当に集中しようと手をつける事にした。




