病み上がり
フィーナに部屋に入れられて、最初に感じたのは甘い香りだった。 多分女子の部屋だからというのが大きいのかも知れない。 部屋を見渡せばシンプルな部屋の中に少しずつ女子らしい物を配置している。
そしてフィーナ自身もシンプルなパジャマを着ており、それだけでも十分な可愛らしさが見受けられる。
「そんなにジロジロ見ないで下さい。」
フィーナに指摘されて、流石に反省する。 女子の部屋とか部屋着なんかただのクラスメイトがそんなにじっと見ていいものでもない。
「た、体調の方はどうだ? 少しは楽になったか?」
気恥ずかしくなり俺は話題を反らした。 というよりも本題はそっちなのだ。 心配で来たのに上がらせて貰っているのだから、本来の目的を忘れてはいけない。
「ええ。 1日寝たらほとんど治りました。 明日からはまた登校できます。」
「それはよかった。 やっぱりあの雨のせいだったか。」
「そうですね。 秋雨は冷たいですから。」
「寂しくは・・・無かったか。 両親がいたもんな。」
「父も母も、何だかんだと心配性ですから。」
元気そうならそれでいいか。 あんまり下手に長居はしない方がお互いのためだろう。
「でも、熱でうなされている時に、もう一人の私、エムゼの声がしたんです。」
「エムゼが?」
それは聞いておかなければいけないことだった。 最初は認識の外にあった筈のもう一人の人格。 度々入れ替わりが行われる事はあったが、それは西垣の嫌悪感から来ていたものだった。
最近ではその条件も変わり、今はフィーナの感情が高ぶった時になっている。 喜び、怒り、悲しみ。 どの感情であろうとだ。
そんな互いの変化からか、ついに認識し合えるまでになったのか。
「もちろん夢だとも思いました。 私は風邪を引いているので。 ですがそれが現実で、エムゼが私のもう1つの人格だと完全に理解したのは貴方の話になったからです。」
「俺の?」
フィーナとエムゼの話なのに、何故俺が話題に上がるのか。
「エムゼは私のもう1つの人格。 つまり私の深層心理とも言えます。 ですから誰よりも私の事を間近で見ています。 そう言う意味では親以上かもしれません。」
「西垣?」
「だからこそ私の気持ちは、あの子には筒抜けになっています。 それこそ・・・私が隠しておきたい気持ちも、全て。」
「フィーナ。」
「私自身も向き合う時が来たのです。 それが今の私」
「フィーナ!」
名前を呼びながら俺はフィーナを布団に押し戻す。 そして恍惚としているフィーナの額に冷えたタオルを乗せる。
「また熱がぶり返してるぞ。 明日また会えばいいんだから、もう一度寝てくれ。 俺は・・・お見舞いに来ただけなんだから。」
そう言われてフィーナは大人しく布団に潜り、俺は部屋を出た。
「すみません。 今日は帰ります。」
「フィーナは?」
「また眠りました。 それでは自分はこれで。」
「マッテ。」
最後に玄関を出ようとしたところでナンシーさんに止められる。
「ヘヤ、フィーナニナニカシタ?」
「なにもしてないですよ? なにも。」
「・・・ソウ。」
その言葉が何を意味しているのか、分からないまま俺は西垣家を後にしたのだった。




