ただの始まりではない
「・・・なさい。 ・・・起きなさい。」
暗転した世界から目を開けると1人の女性がこちらを覗き込んでいた。
「・・・ああ、ごめん姉さん。 今何時?」
「朝の7時。 いつもの時間に起きてこなかったから心配したじゃない。」
「・・・ちょっと嫌な感じの夢を見てたからかも。」
そう言って布団から起きて自分の部屋から出て廊下を姉と歩く。 そして襖を開けると既に朝食の置かれた机と父と母の姿があった。
「おはようカズ。 珍しいじゃないか遅れて起きてくるなんて。 フミもありがとうな。」
父の声に頭がまだボンヤリしながらも「うん。」と一言返事をする。
「カズ? 起きてきたならこっちにして味噌汁注ぎなさい。 あんまり冷めると美味しく無くなるんだから。」
別の場所から母の声が聞こえてくる。 聞こえてきた先は調理場だったので、俺はそこに向かって小鍋に入った味噌汁を自分の器に注ぐ。
そしてご飯に味噌汁、冷奴に玉子焼きという和風な朝食を見てから、食前の儀をしてから、朝食にありつく。
「数馬もしっかりしてよ? 今日から高校生なんだから。」
「姉さんに言われなくても分かってるよ。 今日はちょっと悪夢を見ただけだって。」
「いいじゃないか。 まだ入学式までは時間があるんだからこうして朝食を食べても間に合うさ。」
家族の朝の何気ない会話だったが、俺は今朝の夢が妙に鮮明に覚えていた。 目の前で立っていたあの少女、そしてあの惨状。 夢の癖に矢鱈と現実味があった。
「・・・正夢になるわけないか。」
「カズ。 食べ終わったら食器をシンクの中に入れておいて。」
気が付かない内に食べ終わっていた食器を片付けて自室に戻り、今日この日まで封を解かなかった制服を今解禁し、それを着ていく。
去年までの学ランでは小さいからと新調されたものは、逆に少しだけブカブカに感じた。 今後の成長のためだろうか。
既に着替え終わっている家内と共に玄関に向かい、その家を出た。
「大丈夫カズ? 歩きにくくない?」
「ちょっと足元に違和感があるけど、とりあえずはなんとか。」
「そのうち大きくなるから大丈夫よ。 男子の成長は一気に大きくなるからねぇ~。 羨ましい限りよ。」
そう言って家族全員で歩きながら俺が今年から入る独楽成高校の正門が見えてくる。
正門から校舎までは校庭が挟まっており、ここで日夜運動部が大会の勝利のために育んでいるのだとか。
「おはようございます!」
そんな俺達の所に1人の女子高生が挨拶をかけてくる。
「あらおはよう。 今日は手伝いかしら?」
「はい! あ、そちらの方が・・・」
「初めまして。 積和 二三矢の弟の積和 数馬です。 今年から入学します。」
「初めまして。 積和さんから弟さんがいることは聞いていました。 有
志の時には会うかもしれませんので、お見知りおきを。」
そう言って去っていく女子高生を見守ってから、俺達は昇降口に行く。
「それじゃあ母さん達は先に体育館にいるわね。」
「私も用事があるから。」
そうして皆が分かれて行動する。 一応クラス分けはされているようで、クラスを確認する。
そんな時にふと左を見たら
「・・・え?」
銀色の髪を靡かせて俺と同じ様にクラスを確認する少女の姿。 目を惹かれるその少女は、髪こそ長いもののその顔立ちは忘れはしない。
夢の中で会ったあの少女そのままで、自分と同じ空間に立っていたのだから。