何故か近くに
「そう言う理由があって、私もここに来たんです。」
「へぇ。」
俺は今戸惑いを感じている。 確かにお昼休みにここの場所を使っているのは現在は俺だけだし、西垣はそんな俺を見ていたことからこの場所を訪れるのを知っている。
だが敢えて言うならば俺は誘ってはいない。 彼女はなんの前触れもなくこの場所に足を運んだのだ。 しかも理由が「お昼を教室以外で過ごしたい」というあまりにも曖昧な理由だったからだ。
ちなみに他に教室で過ごす人はいないのかと聞いてみた所「集まる前に離れた」と言ったのだ。 確かにお昼休み前の授業が終わった後に、一目散に教室を出たのは知っている。 購買部へいち早く行くためかトイレを我慢していたのかだと思っていたのだが、まさかただ逃げるために教室を出ていたとは予想外だった。
その行為があの時見えたモヤとなにか関係しているのかどうなのかまでは流石に分からない。 分からないがここ数日で西垣からのアプローチがかなりの頻度である。 勿論男子としては嬉しいことなのだろうが、俺は素直に喜べない理由があった。
あの夢が現実になる可能性がある以上、彼女からのアプローチが来たところで、俺だけが生き残るような未来では意味がない。 そりゃ本気で嫌いな奴がいたならば仕方がないのだろうが、芦原のように「話してみると良い奴だった」という人物だっている。 最低でもその1年だけはそちらにも専念させて貰うしかない。
「えっと・・・積和君?」
西垣に声をかけられてようやく現実に戻り、同時に西垣の整った顔を近距離で見ている現実にも直面した。
「うおっと! ご、ごめん。 ちょっと考え事をしていて・・・」
「そ、そうだったのですね。 私の方を、じっと見つめているものでしたから。」
何てこった。 向こう側が来ていたと思ったら、こちらも思考に入ってる間にガン見していたということか。 なにも言わなかっただけに不快な想いをさせたかもしれない。
彼女からのアプローチが少しずつ増してきている事に関してはこちらから言うことはない。 これで距離を取ったところで悪手になりかねない。 それにまだ出会って数日だ。 彼女の事を知る意味でも時間はまだある。
「とりあえずお昼にしようか。」
「そうですね。 時間が無くなってしまいますから。」
未来で起きるどんでん返しを今考えすぎてもしょうがない。 時間のある内に打てる手はとことん打てるようにしておこう。
彼女の、そして己自身の安息と平穏のために。