山奥のコテージへ
「いやぁ両手に花とはこの事だよんね。」
「それは普通男が女にやる事じゃないの?」
「なに言ってんの。 女の子1人が男子2人に挟まれてる光景も似たようなものだからん。」
車中で引間が今の状況に対して説明をする。 意味が変わってくるわけではないからまだいいのか。
今車は高速道路を走っている最中で、外を見れば都会の街並みと山の中を行ったり来たりしていた。 朝は元々早かった為か混雑している程でも無いようで、予定通り着けそうだとは西垣父の言葉だ。
「そう言えばアフ・・・西垣さん。 クーラーボックス等が見当たらなかったが、食事はバーベキューの筈だろう?」
今言い直したな。 まああの呼び方はここのみんなしか知らないから、西垣父を前にそんなあだ名は呼べないよな。
「大丈夫。 コテージに向かう前のところで、大型スーパーがあるから。」
「そこで何時も食材や足りないものは調達しているんです。 なんでも揃っている場所なので。」
「へぇ。 明らかにキャンプ客狙いじゃん。 戦略性が伺えますなぁ。」
そうこう話している内に高速道路を降りて、またしばらく走らせたところでその大型スーパーに立ち寄った。
「バーベキュー用の食材はこっちで買うから、欲しいものがあったら持ってきて。」
「良いんですか? そこまでしてもらうのは申し訳ないような・・・」
「・・・人の親というのは見栄を張りたくなるものだよ。」
言っている意味が分からなかったが、とりあえず店内を見回ることにして、適当にあれこれを買っていって、1時間くらいで再び車へと乗り込んで出発した。
「山道にしてはかなり整備されているように見えるな。」
車を走らせてコテージに向かう為に走っている山道を見て、芦原がそんな感想を言葉にする。
「管理が行き届いているのか、それとも人気のスポットなのかって感じか?」
「案外後者かも知れないねん。 ちょっとHP見てみたけど設備が充実してるから穴場スポットになってるみたい。」
引間の答えに俺も芦原も感嘆の声が上がる。 そしてそんなことをしている間に車が停まった。 どうやら目的地についたようだ。
「はぁ、立派なコテージだなぁ。」
車から降りてすぐに出た感想はそんなものだった。 自分がイメージしていたコテージとは似ても似つかないような木造で、大きさからしてもこの人数なら貸し切り状態でもおかしくはない。 周りを見れば一応いくつかは同じようなコテージが見えるが、恐らくそこまで他の客と会うこともないだろう。
「自分の荷物を置いたら、準備はこっちでするから、川で遊んで来て構わない。」
「え? でも・・・」
西垣父がそんな風に言っていて俺は困惑する。 ここまでの運転で疲れている筈だ。 それなのにそんなことを言うのは申し訳が立たなくなる。
「心配はいいよ。 これも大人の役目だからね。 終わったらこっちで休むつもりだから。」
そう言われてもという気持ちを胸に荷物を置き、そして必要な物を持って外に出た。
「積和君の言いたい気持ちも分かるんよ?」
「お気持ちは分かりますが、父もゆっくりしたいと思うので、今やることをやる人ですから、気に病む必要はありませんよ。」
「ここまで用意してくれたのだ。 楽しまなければ逆に申し訳ないぞ。」
三者三様で意見を言われたので、それ以上のことは考えないようにして、川に向かっていくのだった。