出発と父との出会い。
『みんな明日の準備はバッチリかなん?』
夜に引間からそんなメッセージがグループに送られてくる。 いよいよ明日は西垣主催のキャンプになる。
西垣主催と言っても西垣本人がなにかをしたのではなく、西垣の家族の粋な計らいで俺達が参加できるようになっているというだけである。
『何とかな。 キャンプなんてしたこと無かったから揃えるのが割りと大変だったぜ。』
『我も下準備は出来ている。 ここまで来ればあとは楽しむのみだろう。』
『すみません、父の方も「私が友人を呼んでくる」と言ったら驚きと喜びで感情が不安定になってしまいまして。』
『それもそうだろうねん。 年頃の娘が友達を連れてくるって言ったら、お父さん張り切っちゃうでしょ。』
『ちなみに聞くが友人の内容は何て言った?』
『男子も女子もいますと言ったらちょっと複雑そうな表情になってしまいました。』
それはそうなってもしょうがないのだろう。 自分の娘が男友達を連れてくるとなれば心配なのも頷ける。
『それじゃあ改めて場所はあのバス停でいいってことで。』
『まさか自家用車で行くことになるとはな。 バスか電車で行くものだと思っていたのだが。』
『場所が場所ですから、移動の間はゆっくりしてください。』
『でも運転してもらって悪い気もするけどな。』
未成年なので運転は当然保護者に任せることになる。 俺達だけでもという意気込みは、「心配だから」で一蹴されるだろう。
『では我はこれで失礼する。 先日より始まったイベントを周回したい故にな。』
『オッケー。 じゃ、ウチも落ちるねん。 また明日。』
『また明日な。』
『お忘れものも遅刻のないようによろしくお願いいたします。』
そう返信して俺達は明日に備えた。
翌日。 俺は集合場所に行く為に歩いていた。 空は透き通るような晴天。 雲一つないので照らす太陽が想像以上に暑い。
「山の方に行けば少しは涼しくなるか?」
そんな淡すぎる願いを思いながら俺は集合場所であるバス停に到着して、一台の乗用車を見つける。 車種は知らないが荷物は積めそうだと思いながら見ていた。
するとその車から1人の男性が現れる。 そして何故かこちらと目が合い俺の方に向かってきた。 そして俺を見定めるかのようにじっと見てくる。 第一印象としては近所付き合いの良さそうな風貌をしていたのだが、このような奇妙な行動をされて俺は困惑していた。
「父さん? 車内にいたのではないのですか?」
後ろからの声にその男性は振り返る。 そして影になっていた俺を西垣が確認した。
「あ、積和君。 来ていたのですね。 紹介します。 私の父です。 父さん。 彼は積和君です。」
「は、初めまして。」
「・・・初めまして。 フィーナの父の友康です・・・驚かせてしまって申し訳ない・・・」
優しそうな顔とは裏腹に低い声で、これまた物腰を低くして俺に挨拶をする西垣父。
昨日の言っていた事が全く想像できない程の無表情さがあり、若干ながら引いてしまった。
「待たせた。 準備に少し戸惑ってな。」
「おはよーん。 みんな揃ってるみたいだねぇ。」
芦原と引間も合流したので、俺達は車に乗り込み目的地に向けて出発したのであった。