週末は旅支度を
「あまりにもなにも無さすぎる・・・」
期末試験が始まろうとしている週末。 俺は自分の服の棚を開けて頭を抱えていた。
「こんなことならなんか買って・・・いや、必要最低限で済ませてた俺も悪いのかこれは。」
そう、着ていく服が少ないのだ。 少ないという言い方は語弊があるが、バリエーションと言うものがまずない。 とりあえず着れればいいや精神で行った結果がこれだ。 キャラクターTシャツが無かっただけでも僥倖とも言える。
「水着も何年か前のパツパツの奴だけだし、祭りの時も私服だったしなぁ・・・キャンプ用品も少しは必要か?」
そもそもそれだけのものを今の自分に用意できるだろうか。 そんな疑問ばかりがよぎってしまう。
「・・・よし。 いい機会かもしれない。 ダメ元で頼んでみるか。」
そう言いながら俺は自室を出た。
そして今はショッピングモールに来ていた。
「そんな本格的なのじゃなくていいんだけど・・・」
「なに言ってんの。 高校生の夏ははっちゃけないと。 それにこういうのは形から入るのも大事なんだから。」
そう言っている母さんは何故か楽しそうにしていた。 自分が誘われたわけでもないのになんでウキウキなんだ。
「俺は父さんに頼んだつもりだったんだけど?」
「みんなが集まっている時にそんなお願いをすればどうなるか分からなかった訳ではないだろう? いいじゃないか、たまには親に甘えるのも子供の特権だ。」
隣の父さんはそんな返しをしてくる。 どちらかと言えば父さんもなかなか息子から声をかけてこないことに感極まってる気もしなくない。
「まずは何を見る?」
「まずは水着かな。 多分一番必要になってくるかもしれないし。」
「では3階に行こう。 服屋はそこの方が多い。」
姉さんも何故かやる気になっており、そのまま抵抗することもなくお店に向かった。
「今日買ったのが今回限りにならないことを願おう。」
「それはカズ次第だろうな。」
あれから水着と甚平を買うついでに適当な服を何着か見繕われ、両手に紙袋がパンパンに詰まっていた。 一旦フードコートに入り食事を取りながらそんな感想を述べた。
「それにしたってカズが服選びをする日が来るとはねぇ。」
母さんが俺を見ている目がどこかにやけている。 絶対分かって言ってるな。 分かってるならわざわざ口にする気はない。
それに母さんがそう思うのも無理もない。 姉さんも服に関しては無関心に近いので、色や絵柄があまりにも男子向けでなければ大抵は俺に来ていた。 それでも半年位で駄目になっていたが。 主に俺が着ないって意味で。
「夏は楽しむんだぞカズ。 後にも先にも滅多に無い機会だからな。」
父さんに言われて納得しつつも、そんな風に心配されていたことに、申し訳無さすら込み上げてくる。
「カズ。 他に欲しいものはない? 別に夏休み用の物じゃなくても構わないわよ。」
「いいの? そんなことを言って。」
「勿論よ。 カズもフミも駄々はこねなかったけど、なかなか欲しいって言ってこなかったから。」
親として寂しかったのかもしれないと、俺と姉さんが目を合わせ、そう言うことならと口を開く。
「本屋に行きたいと思うんだ。 何を買うかは後にしても。」
「私も寄らせてもらいたい。」
その言葉に両親は「この子達らしい」と言わんばかりの表情でも、しっかりと要求を受け入れるのだった。